#6 罪とは何者の名か

彼の正しい姿は、その時が来るまで秘匿されたまま存在し、時が来たなら何も持たず世界から消えるべきだった。
しかし秘密は必ず暴かれるものである。
彼を盲信する彼女にも彼の罪を理解する時がきた。けれども彼女は彼が存在する過ちにすら感謝した。
彼は自らを肯定した事に因って罪から逃れられなくなった。
そして誰よりも正しく生きていた彼は最も近しい筈の人間に、青い血は低俗な肉体に宿るだけで罪であり存在するだけで脅威であると判断された。

暴かれた罪は衆目に晒される事で悪になった。


2014/11/07 ( 0 )





#7 浄化

彼を悪しき罪人と断じた人間達は正義に駆られて武器を手に、彼を匿う教会を取り囲んで責め立てた。
彼は必要としてくれたたった一人を守る為に、正義に服従し命を差し出したが贖うにはその価値は足らなかった。
秘密は既に暴かれ罪と認める所にある。僅かでも関わった者も同罪であり、赦される事の無い罪を洗い流せる唯一のものは清らかな火のみである。
教会を出れば命を奪われ、残れば悪に与した者と謗りを受けて炎に責められる。神の国へ招かれる選択を迫られた人の間には漏れ無く呪咀と絶望が満ちていた。


彼女は最期まで、彼を失った事がとても悲しかった。


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#8 遺されたもの

火を放たれた教会は焦げ跡を残しながらもまだそこに建っていた。
住む者は居なくなったが、壊す者もいなかった。近寄る者も居なければ敢えて手を加えようという者もいない。

朽ちるまま忘れさられるはずだった。


しかし、

『それ』はいつからかそこにいた。


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#9 囚われの身

『それ』は確かに其所に存在していたが、それだけだった。

自己を認識するには自我が薄く、比較する他者は存在しなかった。『それ』は時間すら固定してただ其所にあり続けた。
或る日、窓だった場所から一羽の鳥が建物の中に迷い込んだ。
『それ』は突然に覚醒した。
静物と動物を認識し、認識する視線と思考を自覚すると、行動をしたいという衝動が湧いた。
『それ』は、まず動いた。個を意識したまま移動が可能だと知ると、次は何処迄も移動し続けたいと考えたが、扉を開く方法も窓を乗り越えるという概念も持っていなかったので内側に止どまるしかなかった。

『それ』は、次の変化が齎すものを待つことにした。


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#10 旅立ちの時

変化はすぐに訪れた。

迷い込んだ鳥は外敵のいない建物の中に巣を作った。存在しているが生存しているものではない『それ』を鳥は意識する事が出来なかった。産卵し雛が孵り成長して旅立っていくのを『それ』は外側に出る方法だと学んだ。
再度鳥が訪れた時、『それ』は生きていないものの中に入る事を試みた。そうして一度外に出た事で、外に出るには孵らねばならないという思惟の正しさを確信した。
『それ』は外に出たけれども、永続的に行動を続けることが願望であったので、外でも孵化を繰り返した。


家という知識を得て帰還という概念を覚えるまで『それ』は流離を続ける事になる。



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