5. バイバイ、大好き「あのね、カイト兄」
「ふん?」
「バイバイって、言ってくれる?」
今から真剣な話をしようというのに、スプーン咬わえながら振り向かれた。妹よりアイスの方が大事なのね。
「なんで?今からどっか行くの?」
「兄離れしようと思うの」
「へぇ?」
「ふつう、お兄さんとは一緒に買い物したりしないし、手を繋いで帰ったりしないし、アイス半分こもしないんだって」
むしろ仲良くなんかできないと周りの兄持ちの友達は言う。リンちゃんは生まれた時からレン君と一緒だもんねーとミク姉は気を使ってくれたけど。
「…………今さら?」
「今こそ!だと思うの」
何よりフラレたし。ふつうのきょうだい、っていう距離感がよくわからないけど、今ふつうに慣れておかないと家族になりきれない気がするから。
「だから、バイバイって言ってくれたら、兄離れするから」
「好きなのに?」
な ん だ と ?
そりゃあ空気も読まずに告白なんかして未だに未練タラタラだけどフッた本人に言われたくないしだからこそちゃんと妹になろうって覚悟を何でそんな蒸し返すみたいな、と泣きそうになって、我慢して、カイト兄を見たら、顔が真っ赤だった。
「待って、今の無シで」
「無シなんて無いね!ヒドイよ!」
何でカイト兄が赤くなるの。ムカついたからカイト兄のバニラを奪って一気に半分以上食べてやった。
「リンちゃんのが酷いよ」
「フンッだ!」
「待っててくれるって言ったのに」
「…へ?何が?何のはなし?」
「ほら。リンちゃんがヒドイよ」
ぐったりしちゃった。あたしがヒドイの?アイスじゃなくて?
おかしいな、あたしは今日こそフラレる覚悟をして。なのに何でカイト兄の方が古い話蒸し返して空気も読まずに告白したみたい、な?ん だ と ?
「…カイト兄」
「なに?」
「言って?」
しょんぼりするカイト兄にオレンジ味のアイスを半分こしてあげた。
カイト兄の頬っぺたは赤いままで、あたしは待たなくちゃで、きっとこの答えは間違えてない。
「……、──、……、っ…………」
カイト兄は真っ赤になって、ぱくぱくと口ばかり動いて声が全然小さくて、でも唇は最初のお願いとは違う言葉を言っていた。
「リンもだよ!」
声に出せなくたって伝わる事ってあると思う。
だって、あたしにはちゃんと伝わったから。
「…ナニしてんの、おまえら」
照れるカイト兄の背中にぎゅうってして頭ぐりぐりしてたら、声に出さなくても伝わる事って確かにあると思える目でレンが見下していた。
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時間経過がよくわからない事と親が出てこない理由はちゃんと考えていないからです。