あべこべ両眼を失くした龍は眠っていた。
片方は助けて貰った礼に譲り、片方は獣のように奪われた。
片眼の時の誇らしさは消え去り、最後に見た男の憎らしさばかりが見えない目に焼きついた。怒りに任せ呪詛など吐いた心持ちが情けない。
必ず返しにくると約束したあの旅人もどうせ来るはずもない。
両眼と一緒に信ずる心も無くし、疑心暗鬼に囚われた龍を周囲の者も憚るようになった。
両眼を失くして眠る龍は夢をみた。
夜空の星を目印に砂漠を歩いてオアシスに辿り着く。喉を潤して泉に映した顔は旅人のもの。
突如、泉の底から姿を現した龍を、瞬きを繰り返しながら見つめる。
龍の耳に笑い声が届いた。
「あべこべだね」
旅の終わり星は消えない虹を見つけてあの虹を渡れば空に帰れると川を逆上った。
人魚は逆上った川の先に小さな海を見つけてここなら泳げると船を降りた。
船乗りは虹の袂に星を閉じ込めたような硝子玉を見つけてなんて綺麗な眼球だろうと宝物にした。
欲しいものは手に入れた。
星も人魚も船乗りも高らかに喜びを唄った。
最後の宴は盛大なものになった。