Xmas …続々々 (慶幸)


佐助が作った、政宗が強制的に教えた西洋の菓子と自主的に用意した団子とを貪り食っていた幸村と慶次は、食い入るような猿の視線に気づいた。
幸村はふと持っていた団子を振る。

「おぬしも食べるでござるか?」

居住いを正した小猿に慶次が苦笑する。

「さっきも食べたろー?」
「佐助の団子は何度食べても美味いのだ!なぁ、猿!」

こくこくと頷く小猿に気を良くして、幸村は団子を差し出した。
嬉しそうに一際高く鳴いた小猿に手を伸ばすと、腕を伝って肩まで辿り着き、ちょこんと座る。

「もう一つどうだ?」

幸村が笑うと、両手に団子を持った小猿は嬉しそうに目を細めて、幸村の口許を甘噛みした。

「夢吉!?」

声を上げたのは見ていた慶次で、幸村は脳が停止していた。

「…。……。……は…っ」

その様子を眺めていた政宗と佐助はそれぞれが知らないふりを通そうと思った。

「破廉恥でござる!!」

絶叫する幸村の肩で団子に噛りつこうとした小猿に慶次が詰め寄る。

「何処で覚えてきたんだ夢吉!」

なんて学習能力の高い獣だと政宗と佐助は内心だけで感嘆した。

「斯様な小さき者にまで不埒な事を教え込むとは!破廉恥な!」

顔を真っ赤にして叫ぶ幸村の頭の上に移動して小猿は幸せそうに団子を頬張った。
睨まれた慶次は頓狂な声で言う。

「え!? 俺!?」
「…飼い主だろうが」

呆れた声で、追討ちをかけてやろうと政宗が言い、

「さすがぁ、恋を叫んでるだけあるねぇ」

と佐助もそれに乗った。

「違!!」

蒼白になって首を振るが誰も納得はしなかった。

「おぬしの掲げる恋とは左様なものか!見下げ果てた奴だな前田慶次!」

立ち上がり、慶次を見下ろして叫ぶ幸村に慶次は否定するように両手と首を振る。

「違う俺は本気なんだって幸村!」

佐助は、どさくさに紛れて告白する気かこの野郎と言い訳する慶次に眉を顰めたが、当の幸村が成敗!とか言って槍を持ち出していたので放っておいた。


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(1.全員登場 →2.伊達真 →3.伊達佐 ) →4.慶幸‖


2014/10/10 ( 0 )





はた迷惑な微罪


「遅い」

苛立たしげに言い、政宗は持っていた本を閉じる。

「これでも急いで来たんですけど」

部屋の暗がりから声が返ってくるが姿は見えない。

「違う」

舌打ちして傍らの火鉢に手を翳す政宗に、暗がりから姿を現した佐助が肩を竦めた。

「いきなり文なんて寄越すから、何事かと思ったのに」

言いながら佐助は懐から書状を取り出して火鉢にくべる。

「で、何の用?」

目の前で文に燃え移って揺らぐ炎を眺めながら、政宗は答えた。

「…用は無ぇ」
「うそぉー」

表情を変えずに言う佐助に、政宗は追い払うように片手を振る。

「来るのが遅ぇんだよ。帰れ」
「ぅゎー………わっかりました。暖まったら帰りま…」
「勝手に当たってんじゃねぇ」

火鉢の前に膝を立てて座った佐助を、政宗は言いながら蹴りつけた。

「鬼かあんた!? 外寒いんだよ!?」
「知るか。帰れ」
「あんたが用も無いのに呼んだんでしょーが!」

震えながら言われて、政宗は思い出したように呟く。

「…最近、夜が寒いと思った…」
「………。……まさか、それの代わり?」

佐助が火鉢を指差して、笑うように頬を引き攣らせた。

「悪いか?」
「悪くないと思うんだ…」

項垂れる佐助に、政宗は煙管を咥えて口許を歪める。

「what is your choice?」
「…何?」
「どっちにする?…return or stay?」

言葉は理解できないが意味をなんとなく解読した佐助は、両手を畳について呻いた。

「……最悪……」

俯いて肩を落とす佐助に、政宗は煙を吐いて笑う。

「俺は火鉢だけでもいいぜ?」
「…素直にお願いは出来ないわけ?」
「だから言ったろ」

政宗は楽しそうに喉を震わせて、恨めしげに睨む佐助を腕の中に押し込めた。

「来るのが遅ェんだよ」

もう少し早ければ『お願い』してやったのによと政宗は笑った。


2014/10/10 ( 0 )





烏有反哺之孝


中々好い戦をしたと思った。

総大将はまだ生きているがあの猪武者も騎馬隊も世には無く、自軍の損害は比べて軽く済んだ。歴然とした兵力の差。正に風前の、と云うやつだ。
何よりあの男に勝ったという事実が気分を高揚させる。邪魔もなく、真っ向からの真剣勝負。あの昂奮が二度と無いかと思うと少し惜しい気もするが、勝利の酔いには比ぶるべくもない。酒も一層美味いと云うもの。
空になった杯の代わりに、手に入れた六銭を目の高さに持ち上げて眺める。

「返してくれる?」

風が吹き抜けると同時に声がした。見れば室の隅で忍が腕を組んで憮然とした顔で立っている。

「勝手に取るなんて盗人だよ」
「お前がな」

己が取った首級だけが盗まれたと聞いた。予想はしていたが、人の戦利品を横取りしやがって。
指で示すと、忍は素直に傍まで来て指した場所にぺたりと座った。

「無いとあの人が困るでしょ」

珍しいと思ったが警戒する理由がなくなったのだから当然なのか。

「武田のおっさんは」
「雪辱に燃えてるけどー?」
「他人事かよ」

事実、他人事なのだろう。仇討を考えているなら呑気に隣に座ってなどいない。
六文を首に掛けてやると、窺うような目で見てきた。

「俺に飼われろよ」

即座に横に振ろうとした橙の頭を撫でるように抑えた。嫌そうにその手を掴んで床に押しつけたから、掌の向きを変えて握る。

「俺の、」

言ってる途中で、遮るように肩を揺らして笑い出した。睨むと至極嬉しそうに笑った声で言う。

「死んでも御免だ」

突然に風が舞って思わず目を閉じる。直ぐに開いたが既に忍の姿はなかった。

手の中には夜の羽が一枚落ちていた。


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烏有反哺之孝:《故事》からすでさえも、ひなのとき養われた恩返しに、口の中に含んだ食物を口づたえに親鳥に食べさせる孝行心がある。転じて、人はなおさら孝行心をもたねばならないということ。〔梁武帝・孝思賦〕


2014/10/10 ( 0 )





長篠銃撃戦 VS伊達軍


「騎馬隊全滅ぅ?」

自分でも意外なほど驚いたような声が出た。

「まずいね…とりあえず、大将に報告して」

報告に来た男に、背にした門を示す。

「…旦那大喜びなんだろうなぁ」

あの人は強い武人と戦うのが好きだから。
呟きながら、報告に去った男が門を閉めた音を聞いた。自分の仕事は門を守る事で。今回は騎馬隊もいるし、自分の前には真田幸村もいる。
旦那が負けるなんて考えられないし。楽な仕事だと思ったのに。

「さーて、どうしようかぅわあっ!?」

何か蒼いものが物凄い勢いで突っ込んで来たから思わず仰け反って避けた。

「long time no see,Honey」
「ど、独眼竜…」

人の顔面に切っ先突っ込んでおいて呑気に挨拶かこの野郎。…挨拶か?

「…って、あんたが此所にいるって事は真田の旦那は!?」

言いながら、手裏剣を出して顔の横にあった刀を弾いた。手元で操って刀を引き寄せ、独眼竜はにやりと笑う。
嗚呼、旦那!鬨の声が無かったって事は敗れたわけではないだろうけど。今すぐ旦那の元に行きたいが自分の仕事は門の死守。こうなったら竜を瞬殺して旦那の所へ行くしかない。と思ったら。

「独眼竜殿ー!!!」

え。
声に振り返れば、真田の旦那が物凄い勢いで駆けて来た。
元気じゃん!ってゆーか、槍がこっち向いてんですけど。烈火?俺さまに向かって烈火する気!?

「う、あ、やべっ」

前から雷、後ろが火事。
ああ俺さま死んだーと諦めたら、竜が体当たりして押し倒された。頭上を炎通過。

「ぅゎ……えっと、…ありがと…?」

一応礼を言う場面かな。言うと、一緒に倒れ込んだ竜が笑う。

「No problem! Now I will do」
「は?」
「結果all rightって事さ」
「何言っ…わーっ!! 何してんだあんた!?」
「大人しくやられてくれよ」

言いながら人の服脱がせようとすんな!ってゆーかあんた刀どこやったんだよ!

「佐助!」

勢いで通り過ぎた旦那が戻ってきた。

「旦那!」

こんな体勢で説得力も無いけど、無事で良かった!

「お前ばかりずるいぞ!」
「っはァ!?」
「某とも勝負してくだされ独眼竜殿!」

…勝負してるように見えるのかこれが。

「下がってろ真田、今は忙しい」
「何故佐助ばかり!? 某とも一戦!」
「お前は後だ」

何の会話だと思うが、今のうちに竜の下から逃げようと腹這いになったら鼻先に白刃が煌めいた。

「お仕置きして欲しいのか?」

前に出れば地に突き刺さってる刀で鼻が消失。上には独眼竜。こんなしっかり捕まってて影潜はできない。

「…あんた大将の首取りに来たんじゃないの?」
「信玄公?門の先にいるんだろ」
「なら」
「門が破られない限り出て来ない」

上から爽やか〜に笑って言われた。

「…そうじゃないだろ!?」
「Why?今日はあんたを貰いに来たんだぜ」

やばいこの男目が本気だ。

「嫌だー!! 旦那!なに正座してんの!倒しちゃえこんな変態!」
「だって某は後でって言…」

それでなんで素直に座って待ってんだよ!?

「俺が独眼竜に喰われてもいいの!?」
「何!? 独眼竜殿!お止め下され!」
「ぐえっ」

旦那が竜に突撃して止めに入ったが、重みが増しただけで状況は全く好転しない。

「shit!放せ真田!動けねぇだろうが!」
「なりませぬぅー!佐助など食ったら独眼竜殿の腹に悪うござる!」
「意味が違う!」

俺は食われてもいいんだ。ひどい旦那。

「おも…いた…」

竜に肘でごりごり押しやられながら旦那は必死に竜の腰にしがみついて止めていた。
俺の上で。

薄れゆく意識の中で、絶対退職願出してやると誓ってみた。
戦国武将なんて滅んでしまえ。


2014/10/10 ( 0 )





摺上原追撃戦


「はぁー…忍び使いの荒いこって…」

本陣の最奥で一人呟くと自然と溜め息が出た。
えっとー、陣形は確認したしー兵糧も揃えたしー情報も頭に入ってるし大将に報告済み、でーあとはー…。
どん、と短く大きく響いた音に思考を遮られ、目をやると先まで開け放していた門が閉じていた。

「…奥州筆頭、伊達政宗」
「ほぁっ?」

門扉の前には、今、此処にいるはずのない男が立っている。

「推して参る」
「参るなよ!」

刀を抜いて格好つける馬鹿につい突っ込んでしまった。その馬鹿はなんか納得した様な満足した様な顔で頷いている。

「ってーかどうやってこんなとこまで来たんだ!」

敵本陣だぞ此処。外で騒ぎが起こった様子は無い。ならば戦自体が未だ始まってはいないのだろう。しかし単騎駆けでも無理がある。

「独眼竜は伊達じゃねぇ、you see?」
「駄洒落?」

人が真面目に考えているのに余裕だな。何故か独眼竜を名乗る男はあからさまに顔を顰めた。

「真顔で訊くたぁ恥ずかしい奴だな」
「いや恥ずかしいのはあんただから」

刀を収める独眼竜を無視して門に手を掛ける。大将か旦那に知らせようと思ったが、扉はびくともしない。

「開かない!?」

自軍の門が開かないって何だ!此処は武田軍じゃないのか!

「二人きりだっつーのにmoodの無い奴だな」
「あんた帰れ!」

何しに来たんだよと言おうとして、嫌な事実に気づく。敵の大将と二人きり。あれ?今一番危険なのって俺さまじゃない?

「ぬぅ!佐助!? おらぬのか!」

外から旦那が門を叩いた。さっすが好敵手って言うだけある!イイ勘してる!
門扉に縋って、叩く音に負けない様に声を張り上げた。

「だんな…っ」
「なんと開きませぬお館様ぁー!」

だがさらに大きな声に掻き消されてしまった。

「押して駄目なら引くのだ幸村ァ!」
「さすがお館様ぁぁ!うおおおぁぁ開きませぬー!」
「ちょっ…聞け…」
「ならば更に押すのだ!!」
「開きませぬ!無理でござるー!」
「無理などと!口にするでないわ幸村ぁ!」
「ぐは!お館様ぁー!」
「幸村ぁー!」
「ぉお館様ぁあー!」
「…………」

もう駄目だ。
始まってしまったら小半時は周りが何を言ってもあの二人の耳には入らない。扉に額を当てて溜め息を吐いた。

「BGMに色気が無ぇが」

後ろから独眼竜の手が伸びてきて、顔の前で扉に手をついた。
そうだこの男何しに来たんだ、と振り向けば、にやりとしか表現できないあくどい笑顔をしていた。

「青姦ってぇのも一度試してみたかったんだよな」
「あんたとは気が合わなさそうだわ本気で!真田の旦那ーっ!」

片手であくどい笑顔を押しのけて、もう一方の手で扉を力一杯叩きまくるが全く反応が無い。きっと自分達の音しか聞こえていないんだ。
遊んでないで此処に大将首があるのに気付け!好敵手じゃねぇのかよ!

「この状況で他の男の名を呼ぶとは上等だよ、アンタ…」

押し退けた手を取られて後ろで固められた。ちょっとやばくね!?
閉じられた門扉に押し付けられて、低い声が頭の後ろから直接響く。

「上等だ……一気にいくぜ!」
「何が!? うわぁんもうどいつもこいつも!!」


忍び使いが荒いんだよ!


2014/10/10 ( 0 )




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