Y「信じらんない」


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ある夜、陸に去った人魚が帰ってきたと騒ぎになった。
15歳を迎えるまで海の上は覗いてはならない、大人だけの秘密だった。幼い人魚は陸の話を聞きたかったけれど、噂の人魚は他の大人たちに囲まれて近寄ることもできない。せめてその人魚の帰路を辿り、水面の近くまで行ってみたいと思った幼い人魚は、件の人魚の残した消えかかった泡や欠けた鱗を道標に城を抜け出した。
あと少しで海の上という所で、幼い人魚は妖精を見つけた。人魚は大海で最も美しい生き物だが、初めて見た妖精はそれ以上に綺麗だった。城に持ち帰ろうとして、幼い人魚は考える。こんなに綺麗なもの、きっと皆が欲しがって大人達に取り上げられてしまうに違いない。幼い人魚は海の魔女に相談しようと妖精を連れて行き、想像した通りに取り上げられてしまった。あれは妖精ではなく、陸に生きる王子様というものらしい。陸に返すべきものだからと諭された幼い人魚は、あんな美しいものがいるなんてと、さらに海の上を夢見た。

そして──幼かった人魚も恋を知る年齢を迎える頃。

「信じらんない…!」

成長した少女は、声も体も怒りで震えていた。決して羞恥からくる震えではないと内心言い訳しつつも、隣に膝をつく男を睨み上げる。

「蓮さんが妖精さんだったなんて……ずっと隠してたなんて!ひどい!」
「髪と目の色を変えただけで気づかない方がどうかと思うけれど。余程悪いのかな」
「目も頭も悪くないです!」
「そう願いたいね」

微笑む蓮から静かな怒りを感じたキョーコは俯いて、だって陸に帰したって言うから、と小さく愚痴を溢すしかできない。

「あのー。痴話喧嘩も結構ですけど……」
「親友に報告は終わったか?結婚式に主役が遅刻するなんてやめてくれよ!」

二人から少し距離を置いて呆れた声をかける従者達に、キョーコは慌てて膝をついていた石碑に背を向けた。
蓮は石碑に刻まれた名前を片手でなぞると、短く何かを呟いてキョーコの後に続く。

「すみません。今行きます」
「きゃあ!れっ、蓮さん!降ろして下さい!私歩けますから!」
「でも足は痛むんだろう?この方が早いよ」

前を歩いていたキョーコを掬うように抱え上げると、蓮は平然と歩き出す。
蓮の腕の中で顔を真っ赤にして抵抗するキョーコを、従者たちは憐れみながらも今は式に間に合う事の方が重要だと、見ぬふりを決め込んだ。後ろから喧嘩なのか惚気なのか判らない口論を聞きながら、先を進む。

その道は、王城へと続いていた。



王子の乳兄弟でありその側近を務める男と恋をしていた人魚がいた。
男は王子を守り導く事に誇りを持っていて、人魚は男と共に生きる事を願い望まれたが、男の結婚には王子の赦しが必要だった。
人魚は海の魔女から、王子と真心が通じれば人間として生きられるが、叶わなければ海の泡になって消えてしまうという秘薬を授かる。
けれども人魚が陸に上がったその時、側近の男は王子を庇って命を落としてしまう。悲嘆に暮れた人魚は、王子に近付くとその心臓を短剣で一突きにした。海の泡になっても構わぬ想いで遂げた復讐が、奇しくも人魚に戻る唯一の方法だと知らずに。

そして──。
短剣を突き立てた女性は、泣きながら海へと落ちていった……──。


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台詞お題http://shindanmaker.com/132680

蓮への台詞お題:
T「(消えてなくなってしまえ!)」
V「きみじゃむり」
X「つらいなあ、」

蓮キョへの台詞お題:
U「無理じゃないよ」
W「だから言ったのに」
Y「信じらんない」



2014/10/12 comment ( 0 )







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