春待月


この季節には珍しい柔らかい陽射しが部屋を満たしていた。
時折部屋に吹き込む風は冷たいが、触れ合う体温で紛れてしまう程度だ。
佐助は両足を投げ出して座って、自分の腿の上に頭を載せ寛いでいる人間を見下ろす。その相手の前髪を摘んで梳くと、煩わしそうに見上げてきた。

「何だ?」
「…俺はいつまでこのままでいればいいの」

問うでもなく問いかけると、一度ふぁ、と欠伸をしてからその男は一つしかない眼を眇めた。

「さぁな」
「眠いなら閨で寝ればいいと思う」
「あんたの相手がいねぇと寂しいだろ?」
「いや。帰るから」

言ってる間、髪を指に絡めて遊んでいた手を取って、政宗はそのまま口許に引き寄せる。

「折角来たんだ。ゆっくりしていけよ」
「嫌です」
「遠慮すんな」
「あんたはしろよ」

人の手舐めてんじゃねぇ、と佐助は空いた方の手で政宗の頬を軽く叩く。
政宗は顔を顰めはするものの、手を放す気も頭を退ける気も無いらしい。やれやれ、と溜息を吐きながら、佐助はふと触れた政宗の首筋を指で撫でた。

「…何だ?」

怪訝な視線を向ける政宗に、佐助は小さく笑う。

「逆鱗って知ってる?」
「huhn?…怒りに触れるって意味の…あれか?」
「そ。龍の顎の下に逆様に生えてるらしいよ。触ると龍の怒りに触れて殺されるとか」
「…あるか?」

説明の間に佐助の思惑に気がついた政宗は口の端をつり上げた。

「いいや。どうやらこの竜には無いみたいだねー」

からかうように佐助が言うと、政宗は声を出さずに笑い、喉が呼応して動いた。
触れている佐助の指にその振動が伝わる。
今、指に力を込めれば。両手で捕えてしまえば──。

「やるか?」

声に思考を断ち切られて、見れば金の光を湛えたような眼が佐助を射貫いていた。その唇には悠然と笑みが刻まれている。
喉から頬へと指を滑らせて、佐助は身を屈めて政宗の鼻先で囁いた。

「何を?」

政宗は答えずに、ふ、と笑って、小さく囁き返す。

「come on」

堪えきれず笑いを零しながら、佐助は促されるまま唇を落とした。

──大人しく殺られてはくれないくせに。




2014/10/11 comment ( 0 )







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