流星ふゎぁ、と欠伸をして、佐助は塀の上を足音を立てずに歩く。月の位置を確かめようと空を見上げると、小さな光が尾を引いて消えた。
「流れ星ー」
月を中天に見ながら一人呟く。
「何処に行くんだろ…」
「美人の所じゃねぇか?」
独り言に返事がきた事もだがそれよりその聞き覚えのある声に佐助は驚く。
「なんでいるの!?」
声のした足下に視線をやれば、夜陰に紛れているのに堂々とした存在感で独眼竜が立っていた。
「早く着きすぎた」
「はい?」
こんな夜更けに他国の城に来るなんて夜討だと勘違いされて誰かに暗殺されてくんねぇかなぁこの人。
軽装の政宗を見下ろして考え込む佐助に、政宗は指で誘う。
「come down,lovey」
「はぁ?」
降りて来いよと言う政宗に、佐助は塀の上から笑って応える。
「嫌ァだね。あんたが上がってくればいんじゃないのー」
「そいつはgood ideaだ」
壁に片手をついて呟いた政宗に佐助は肩を竦める。
「ね、無理でしょ。だから帰…」
「届かねぇな。手、貸せ」
言って、政宗は手をついたまま壁に足を掛けて右手をひらひらと翻す。
「え。嘘」
「お前が言ったんだろうが」
「…冗談でしょーが」
嫌な予感がして、佐助は呟いたまま動けずにいた。焦れたように政宗が声を張り上げる。
「hurry up!」
「ばっ、大声出すな夜中にっ」
慌てて佐助は手を差し出したが、出した手首を掴まれて引き摺り下ろされる。地に足が着いた時に腰に腕が回されていてももう溜め息しか出ない。
「…やっぱり…」
「可愛げもねぇな」
吐き捨てて、政宗が顔を近づけるが佐助は顎を引いて背を反らして逃げる。
「やめろっつの。知れたら色々とうるさいから」
「俺は構わねぇぜ」
俺さまが構う、と腕から逃れて後退ると肩が壁にぶつかった。そのまま押さえつけられたから、面倒くさくなって佐助は逃げるのを諦める。空を見上げると、また一つ星が流れた。
「…何処に流れてるんだろうなぁ…」
「此処ってのは如何だ?」
詰まらなそうに言う政宗に、佐助は間を置いて鼻で笑った。
「美人?」
佐助が笑いながら政宗の顎を指で擽ると、何か考えるように瞬きをしてから是と答えた。
「人の物は好く見えるからな」
「…いい趣味だね」
それを自覚しつつ手を出すのかと苦笑する佐助に、政宗は喉を震わせてその口を塞いだ。
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流星=夜這星