はた迷惑な微罪「遅い」
苛立たしげに言い、政宗は持っていた本を閉じる。
「これでも急いで来たんですけど」
部屋の暗がりから声が返ってくるが姿は見えない。
「違う」
舌打ちして傍らの火鉢に手を翳す政宗に、暗がりから姿を現した佐助が肩を竦めた。
「いきなり文なんて寄越すから、何事かと思ったのに」
言いながら佐助は懐から書状を取り出して火鉢にくべる。
「で、何の用?」
目の前で文に燃え移って揺らぐ炎を眺めながら、政宗は答えた。
「…用は無ぇ」
「うそぉー」
表情を変えずに言う佐助に、政宗は追い払うように片手を振る。
「来るのが遅ぇんだよ。帰れ」
「ぅゎー………わっかりました。暖まったら帰りま…」
「勝手に当たってんじゃねぇ」
火鉢の前に膝を立てて座った佐助を、政宗は言いながら蹴りつけた。
「鬼かあんた!? 外寒いんだよ!?」
「知るか。帰れ」
「あんたが用も無いのに呼んだんでしょーが!」
震えながら言われて、政宗は思い出したように呟く。
「…最近、夜が寒いと思った…」
「………。……まさか、それの代わり?」
佐助が火鉢を指差して、笑うように頬を引き攣らせた。
「悪いか?」
「悪くないと思うんだ…」
項垂れる佐助に、政宗は煙管を咥えて口許を歪める。
「what is your choice?」
「…何?」
「どっちにする?…return or stay?」
言葉は理解できないが意味をなんとなく解読した佐助は、両手を畳について呻いた。
「……最悪……」
俯いて肩を落とす佐助に、政宗は煙を吐いて笑う。
「俺は火鉢だけでもいいぜ?」
「…素直にお願いは出来ないわけ?」
「だから言ったろ」
政宗は楽しそうに喉を震わせて、恨めしげに睨む佐助を腕の中に押し込めた。
「来るのが遅ェんだよ」
もう少し早ければ『お願い』してやったのによと政宗は笑った。