摺上原追撃戦「はぁー…忍び使いの荒いこって…」
本陣の最奥で一人呟くと自然と溜め息が出た。
えっとー、陣形は確認したしー兵糧も揃えたしー情報も頭に入ってるし大将に報告済み、でーあとはー…。
どん、と短く大きく響いた音に思考を遮られ、目をやると先まで開け放していた門が閉じていた。
「…奥州筆頭、伊達政宗」
「ほぁっ?」
門扉の前には、今、此処にいるはずのない男が立っている。
「推して参る」
「参るなよ!」
刀を抜いて格好つける馬鹿につい突っ込んでしまった。その馬鹿はなんか納得した様な満足した様な顔で頷いている。
「ってーかどうやってこんなとこまで来たんだ!」
敵本陣だぞ此処。外で騒ぎが起こった様子は無い。ならば戦自体が未だ始まってはいないのだろう。しかし単騎駆けでも無理がある。
「独眼竜は伊達じゃねぇ、you see?」
「駄洒落?」
人が真面目に考えているのに余裕だな。何故か独眼竜を名乗る男はあからさまに顔を顰めた。
「真顔で訊くたぁ恥ずかしい奴だな」
「いや恥ずかしいのはあんただから」
刀を収める独眼竜を無視して門に手を掛ける。大将か旦那に知らせようと思ったが、扉はびくともしない。
「開かない!?」
自軍の門が開かないって何だ!此処は武田軍じゃないのか!
「二人きりだっつーのにmoodの無い奴だな」
「あんた帰れ!」
何しに来たんだよと言おうとして、嫌な事実に気づく。敵の大将と二人きり。あれ?今一番危険なのって俺さまじゃない?
「ぬぅ!佐助!? おらぬのか!」
外から旦那が門を叩いた。さっすが好敵手って言うだけある!イイ勘してる!
門扉に縋って、叩く音に負けない様に声を張り上げた。
「だんな…っ」
「なんと開きませぬお館様ぁー!」
だがさらに大きな声に掻き消されてしまった。
「押して駄目なら引くのだ幸村ァ!」
「さすがお館様ぁぁ!うおおおぁぁ開きませぬー!」
「ちょっ…聞け…」
「ならば更に押すのだ!!」
「開きませぬ!無理でござるー!」
「無理などと!口にするでないわ幸村ぁ!」
「ぐは!お館様ぁー!」
「幸村ぁー!」
「ぉお館様ぁあー!」
「…………」
もう駄目だ。
始まってしまったら小半時は周りが何を言ってもあの二人の耳には入らない。扉に額を当てて溜め息を吐いた。
「BGMに色気が無ぇが」
後ろから独眼竜の手が伸びてきて、顔の前で扉に手をついた。
そうだこの男何しに来たんだ、と振り向けば、にやりとしか表現できないあくどい笑顔をしていた。
「青姦ってぇのも一度試してみたかったんだよな」
「あんたとは気が合わなさそうだわ本気で!真田の旦那ーっ!」
片手であくどい笑顔を押しのけて、もう一方の手で扉を力一杯叩きまくるが全く反応が無い。きっと自分達の音しか聞こえていないんだ。
遊んでないで此処に大将首があるのに気付け!好敵手じゃねぇのかよ!
「この状況で他の男の名を呼ぶとは上等だよ、アンタ…」
押し退けた手を取られて後ろで固められた。ちょっとやばくね!?
閉じられた門扉に押し付けられて、低い声が頭の後ろから直接響く。
「上等だ……一気にいくぜ!」
「何が!? うわぁんもうどいつもこいつも!!」
忍び使いが荒いんだよ!