正月「お年玉欲しい」
呟いた佐助の隣で、口一杯に餅を頬張った上に両手に奇術師かと見紛う量の餅を持った幸村が頷く。
「欲しいな」
「……ぁー……、ね?」
「うむ」
「欲しいよね?」
「くれるのか佐助?」
佐助は振り向いた幸村の額を思い切り叩いた。
「痛っ」
衝撃に目を閉じて、開いた時には佐助の姿は無く、額からひらりと数枚の紙が落ちた。
「! これはっ」
城下の団子屋で使える引き換え券!
わぁいと満面の笑みを浮かべ幸村は手の中の餅の一つを頬張った。
「上司が部下に貰ってどうするんだよッ!」
「…オレに言うな」
配下に献上された金品の目録を眺めながら政宗は呟く。
「旦那がくれなきゃ誰が俺様にお年玉なんて物くれるのさ!?」
「信玄公に貰えばいいんじゃねぇか?」
「齢の数だけ玉貰ってどないせぇっちゅーの!?」
「…sorry.オレが悪かった、落ち着け」
目録を卓に置き、政宗は縁側に出て庭の一等の松を見上げる。
「取り敢えず、降りろ」
器用に枝の上で膝を抱えて座る佐助に言えば、怨めしげな目で睨まれた。
「…おい、忍」
ふい、と顔を逸らし聞かない振りをする佐助に、政宗は顔を歪ませた。
何故自分が真田への怒りを当たり散らされなければいけないんだ。
「正直に休みをくれって言えばいいだろうが?」
「…くれるなら言ってるし」
「uh…なら、そのticketと引き換えに休み貰えば良かったんじゃねぇか?」
「……」
長い溜息を吐いて項垂れる佐助に、政宗は柱に凭れて沈黙する。
「何であんな物用意してんだ俺…」
「全くだ」
冷静に呆れた声で言われて佐助は更に深く項垂れる。
「…で?」
隻眼に見上げられて佐助は情けない顔をした。
「…旦那も釣った魚に餌与えないクチ?」
「Ha!針咥えて逃げられた記憶しかねぇな」
口端を吊り上げ、一つしかない眼で睨まれて佐助はちょっと泣きたくなった。そう言えば釣り上げられてやった記憶も無い。
俺様はただ、さ。正月ぐらいゆっくり寛ぎたいだけなのに。って言うかこれだけ働き詰めなんだから少しは労ってくれても良くないか。だからって此処に来る事が間違いなのか。だって他に愚痴れる人間がいないし。
「Hey,honey?」
「は、え?」
膝を抱えて鬱っていた佐助は政宗の声に顔を上げる。
政宗は柱に凭れて腕組みをしたまま面倒臭そうに佐助を見上げていた。
「祝い膳が余ってんだ。食っていけ」
「え? あの」
「酒ぐらい出してやる」
「いやあの」
「少しくらい留守にしても平気だろ、武田は」
「それはまぁ…えっと?」
「何なら馬で送ってやってもいいぜ」
「……はぁ…?」
訝しげに眉を顰める佐助に、政宗は舌打ちをした。
「正月くらい楽させてやるって言ってんだよ」
苛々と吐き捨てて部屋に戻ろうと政宗は踵を返す。
「存外、優しいね旦那?」
一瞬で政宗の背後に降り立ち、佐助は政宗の肩に顎を乗せて呟いた。
「存外は余計だ」
笑って、部屋まで誘導するように佐助の手を取って歩く。
「本当に何もしないよ俺様?」
「No problem.言っておくが」
「うん?」
「オレは釣った魚は下ろして美味しく頂く方だ」
「………つまり?」
「アンタは何もしなくていい。オレがしてやるよ、何からナニまで」
佐助は笑顔で手を引き抜こうとしたが政宗に掴まれた手はびくともしない。何度か試みた後で、来た時よりも深く長い溜め息を吐いた。
「…勘弁してよぅ…」
「真田に言うんだな」