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「ばれんたいんおめでとーう」

まるで自分の家の様に勢いよく襖を開けて、昼日中に余所の忍びが堂々と部屋に入って来た。

「何がメデタイんだよ」

卓に置いた肘に頬を預けて振り向けば、忍びは首を傾げながらも真っ直ぐ視線を合わせて言う。

「あんたの頭が?」
「お前ほどじゃねぇよ」
「いやいやそんな照れるー」
「何一つ褒めてねぇからな」

笑いながら傍まで来た忍びが、立ったまま肩を竦めて見下ろしてくる。

「ていうかばれんたいんて何?」
「…何がしたいんだお前?」
「知ってるよばれんたいんぐらい。馬鹿にしないでくれる?」
「本当に何をしに来た」

頭でも打ったのか。無意味な問答がしたくて来た訳じゃないだろう。
何故か忍びは得意気な顔をして傍らに腰を下ろす。

「片倉さんが優しーく教えてくれたもん」
「……huh……」

ならば何かを期待して来たのだろうが、生憎何も用意していない。

「好きな人を甘味で釣って食べちゃってもいい日だと」
「小十郎!?」

思わずこの場にいない男の名を呼んだ。どんな顔で説明したんだ。
構わず、忍びは腕を組み重苦しい声で言う。

「しかし貰うばかりも芸がないんで。だから今回はあげるよ。手作りだよ、チヨ子」
「誰だよ」

つっこんだが全く気にしていない様子で、取り出した小箱をこれ見よがしに顔の前まで持ち上げる。

「いらないならいいよ」
「いらないとは言ってねぇ」

目の前に出された、恐らくchocolateだと自称するものを奪い取ると、忍びはその場で胡座をかいた。

「お返しは何かな〜」
「……。WhiteDayか!?」
「当ったり前じゃん」

道理で自ら寄越す訳だ。別に、懐いてきたのかとか思った訳じゃないが。

「……何倍にして返して欲しいんだ?」
「なにその顔ちょー怖いんですけど」

折角持って来てあげたのに、と拗ねた様に口を尖らせて手を突き出す。

「いらないなら頂戴よ」
「だから倍返ししてやるって言ってんだろ」
「可愛くないなー。素直にありがとうって言えばいいのにさ」

返礼を強要しておきながら何を言う。しかし義理でも言っておいた方が後々で影響するのか。

「uh……」
「まーね、俺さまがお礼聞いても仕方無いけどさ」

忍びはあっさり諦めて、面倒くさそうに首の後ろを掻いていた。

「……待て、誰の手作りだって?」

問うと、不思議そうに目を瞠ってから緩慢に口を開く。

「真田の」
「食えるかそんなもん!!」

奪った小箱を卓に叩きつけて思わず本気で怒鳴ってしまったが、忍びは満面の笑みでひどいなと嘯いた。


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時代考証は超越。



2014/10/10 comment ( 0 )







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