火点頃
自分の誕生日に恋人と過ごしたいと思う事は一般的だと思う。二人きりが望ましい、けれど。あの男にそんな時間は作れないだろうし、夏休みは稼ぎ時だとか鼻息荒くしていたし。大体メアドも番号も知らないが。けれども当日に、一言、何か言って貰えれば少しはあいつの脳か心か本当に何かに自分の存在を焼き付けてやれたのだと。
思いたかった。
補講させられていた元親に呼び出され、慶次にカラオケに攫われて、幸村に耳元で叫ばれて、元就に注文を勝手に済まされ佐助に市販のケーキで祝われた。
その時点で薄々気付いてはいたけれど、少なからず喜んでいる自分も確かにいたし、些細なわだかまりは流してしまいたくて無理に騒ぎ倒した、のに、会計の割り勘に手間取っている奴等を店内に置き去りにした隙にケーキ担当が一人近寄ってきた。
「ごめんね」
なんで謝るんだよ。別に大勢が嫌だとは言ってねぇだろう。そう返すべきだと思うが顔に力が入っている感が否めない。
「今日。知らなくて」
「知らなかったのかよ!?」
「朝、学校でチカちゃんに聞いた」
忘れる以前の問題だった。力が抜けて壁に凭れると隣で佐助も同じ様に壁に寄り掛かる。
「慌ててケーキ買いに行ったけど意味無かったね」
「クリーム食えないのも知らなかったか」
「いや、舐めてあげたら喜ぶかなって」
「お前はオレを何だと思ってんだ!?」
「だって嫌いじゃないでしょ?」
決して嫌いでは無いけれども。つーかされるよりする方がいい、ではなく。
「皆いるとも思ってなかったし」
疲れたように溜め息を吐いた佐助を思わず凝視してしまって、逆に睨まれた。
「なに」
「…他の奴がいなかった方がいいみたいに聞こえる…」
「あんたこそ俺を何だと思ってんだ」
馬鹿じゃないのと苦笑する顔に僅かな怒気が見えて、腕を掴もうとしたら逃げられた。距離を取ってケータイを取り出す。
すぐに自分のも鳴って、会計が終わったのかと見ればメールが来ていた。開けばケータイの番号とアドレスと、誕生日おめでとー、の祝う気皆無な一文。
「照れ屋さんな政宗君は口で言えないならメールすればいいじゃないー」
お前こそこの一言くらい口で言えよとか何でお前だけアドレス知ってんだとかメールって言いながらその指の動作は電話だろとか、色々。色々、本当に、言いたかったのだけれど。
「この番号に掛ければケーキな佐助がデリバリーされると」
「なんで!? 無ぇよ!?」
「わかった、ケーキはこっちで用意しとく」
「そのネタどこまで引っ張るの!?」
「それはだってお前、」
何だ彼だ言って結局自分が一番気にしてるんだなと内心呆れてもいた。
「誕生日なんだぜ?」
両腕を広げて言えば、破顔しておばかさんと呟いてから素直に腕の中に捕われた。
あとはどうやってあいつらを撒くかと考えながら今日一日、一度も触れていなかった躰を抱き締めた。