委員会から戻れば放課後の教室には伊達ちゃんしかいなかった。
隣のクラスのくせに我が物顔で人の席に座って、熱心に手紙を読んでいる。
「珍しいね。クラスの人?」
正しく言えばこの男に手紙は珍しくない。
今時、告白から不幸の手紙、呼び出しに果し状と様々なものが送られて来る。ただ、一度も目を通したことが無かった。
「年下みたいだな」
「じゃあなんだろう、いつも偉そうな先輩が大嫌いです、とか」
「なんだと?」
片目で睨むように見上げてくるのに、冗談だと返す。
同じクラスじゃないならクラブの後輩か。頻繁に顔を合わせるような相手だからちゃんと読んでるのかなとか思っていたら、手紙を見つめながら小さく笑い出した。
「気が合いそうだな」
「……へぇー……」
本当に珍しい。差出人は誰かなんて、ちょっと好奇心が湧いてきたのがなんとなく居心地を悪くした。
「……帰って読めば?」
「嫌だ。気分が悪い」
「あんた、人の好意を……」
てーかじゃあなんでじっくり読んでんだ天の邪鬼め。
ロッカーに委員会の資料を突っ込んで向き直れば、伊達ちゃんは突然手紙を真っ二つに裂いた。
「なにしてんの!?」
「何が」
「何がって!さっき気が合うかもって!」
ああ、と納得したように頷いてから、席を立ってゴミ箱の上で手紙を細切れにしていく。
「好みが同じだったから」
「よかったじゃん。なんで破くよ?」
「好みが同じだったから」
「はぁ?」
わけわかんね、と机の上に置いていた自分の鞄を掴むと手紙が入れられていたのだろう封筒が床に落ちた。
拾おうと手を伸ばした先に、丁寧な字で自分の名前が書かれていた。しかし見覚えが全く無い。
「…………ちょっ、嘘!ぎゃぁ!俺!?」
「汚ねぇぞ」
「何してくれてんだあんた!!」
慌ててゴミ箱を覗くが分別すらされてない学校の備品に手を突っ込む勇気はない。
「俺読んでないのに!」
「読まなくていい」
「はぁ!?」
「知りたいならオレが教えてやる」
未練がましくゴミ箱を見つめていたら、椅子に掛けていた鞄を肩に担いでさっさと帰り支度を済ませた伊達ちゃんに襟首を掴まれた。
「他の奴の言葉なんか聞くな」
気分が悪い、と不機嫌な顔で呟く男に引き摺られながら、まずは標準の男子に取ってのラブレターの価値について説教をしようと思った。
話は、その後で、教えて貰おうじゃないか。
ひとでなしが、ふたり