・泣きそうな青目の前で、双牙と六爪がほぼ同時に折れた。
両腕を出して、膝を付く前に主だけを受け止める。首の六文を役立たせてやる気は無い。急場凌ぎだけれどせめて全身を染める紅だけでも止めてみる。
「陣で手当てしておいて」
音も無く側に降り立った部下に言い、手を放す。抱えて連れて行かれた主から意識を外し、臥せる竜を見た。
「悪いね。取り合えず旦那の手柄に首は戴いて行くよ」
「他は」
掠れた声で吐き出す竜の傍らで膝をつく。
「片倉さんは俺が。他はまだ聞いてはいないけど」
答えてやりながら兜を取る。この地上の月も見納めか。
「Goddamn!此処で仕舞いか!」
吐き捨てながら、竜は起き上がろうと云うのか腕をつくがその傷では無理だろう。
「何かある?」
兜を脇に置いて、竜の首に手裏剣を添える。
「伝えておくよ?」
「空」
「…は?」
「見せろ」
それで何が変わるんだと思ったが土に顔を埋めて終るよりは増しかなとも思った。
「言い遺す事とか無いの?」
仰向けにしてやって、主に負けない赤さに瞠目した。この人なんでまだ生きてんだ。
「鳥になりてぇな」
「…なれば。」
何も無いならさっさと刎ねてしまおう。手当てを頼んだと雖も旦那の方が心配だ。
「unexpectedly,天下は遠い、ん、だな」
「気付くの遅いよ」
喘ぎながらも喋り続ける竜の顔の泥を手で払い落とす。右目で判別出来るだろうけど一応顔が判る様にしておこう。
「伝言とか、無いんだね?」
「誰に言え、て?」
言われてみれば伊達陣営に名立たる武将はきっともういない。
「…真田の旦那とか?」
「くたばれ」
「はい、却下」
即答すれば息だけで笑う。そんな余力が何処にあるんだろう。
ふと、目許が濡れている様に見えた。
「泣く程悔しいの?」
「誰が。…雨だろ」
まぁ、狙った天下は手に入らないし。仲間は恐らく死なせてしまっただろうし。一騎討ちの結果だけれど今は忍に首取られそうだし。一武将としては泣きたくもなるのかねぇ。
「雨って。また」
言い訳にも成らないような戯言を。
「暗い、から。雨だ」
仰げば、鳶だろうか小さな影が弧を描いて翔んでいた。
「…そうだね」
あの鳶が鳴かないと良い。一つしか無いくせに役に立たなくなった眼を手で伏せてやる。
「きっと、雨だね」
ああ。なんて。
泣き出しそうな空の蒼。