・chain(連鎖)「ぉぉぉぉぉ」
緑色の物体が馬の首に縋りついて奇怪な音を出す。
「ぁぁぁぁぁ」
…壊れたか。
馬を木に繋ぐと鼻を擦り寄せてくる。背中の物を振るい落とそうとしているのか、頻りに首を振っていた。
「…放せってよ」
「どうして平気なんだ、この馬ぁ…っ」
憎々しげに馬を睨むがその首から手を解きはしない。馬には簡単にしがみつくんだな。
「縋るなら馬じゃなくオレにしろよ」
「断固拒否する!!!」
即答に腹が立ったから後頭部を掴んで馬の首に押し付けた。
「痛いたいたくさっ馬臭い!」
喚く忍びに馬が迷惑そうに身震いしたから手を放した。
「鳥で飛ぶ癖に今更何言って」
「いいか!こうと、」
言いながら緩やかに傾斜をつけて掌を横に滑らせる。
「こうは、違うんだよ!」
二度目は掌を上から下へ勢い良く降り下ろした。
「似たようなもんだろ」
「大きく違うね!大体、信頼度が桁違いだ!」
「オレが鳥に劣るってのか?」
「馬上で腕組んで崖駆け下りる奴の何処を信用しろっての!? 普通落ちるから!死ぬから!」
「その方が風を感じるだろ」
「知るか!」
一人でやれ!と鼻息荒く言う忍びを馬の上に放置してその場を後にした。
かなり機嫌を損ねたようだ。適当に謝れば恐らく謝るなら初めからするなと逆上するだろう。文句があるなら来るなと言えば二度と来ないに決まっている。
「厄介な」
何を使って機嫌を取るか。考え無く歩いていれば茶屋が目に入った。
「……」
否。否々。好きなのはあれの主人であって。その馬鹿の機嫌を取れば連鎖的にあれの機嫌も良くなるが、それはかなり屈辱だ。大体あれは甘い物が好きな訳じゃないだろう。
「…別に俺さま甘味好きな訳じゃ…」
案の定、馬上からの返答は予想通りだった。他に手が思いつかなかったのも腹立たしい。
「いらねぇなら食うな」
「…そうする」
封を開けて中の団子を確認しながら忍びはしっかりと頷いた。そのまま手土産にでもする気だろう。内心ほくそ笑んでいる気がしてならない。
「…自分でやってて虚しくなんない?」
自力で馬から降りた忍びが笑いながら言う。
「思うなら訊くんじゃねぇよ」
「だってねぇー…。とっておきを教えてあげたのに心無い仕打ちをするからさ」
腕を組んで文句を言う忍びの腰を引き寄せて、唇に触れそうな距離で言ってやる。
「心無いのはてめぇだろ」
好い人の目の前で他の野郎の事で機嫌直してんじゃねぇよ。
忍びは間を置いて、手にした土産物を見て可笑しそうに笑った。