他の男を見てんじゃねぇ、と視界を奪われ何も見えない


「ナミさんナミさん、見て見て、あれ!」
「ああ、可愛いわね」
「ナミさん似合いそう」
「あたしよりビビでしょ似合うのは。あたしはどちらかというとあっちのあの…」
「きゃーあんなセクシーなの?」

恥じらいながらビビが笑うとナミも笑う。
女同士でお買い物なんて久し振り、しかも同世代とくれば一緒に店を見て回るだけでも楽しい。洋服なんて時間と予算が許すなら片っ端から試着したい気分だ。勿論、たった今も某国は危機に晒されているのだからこんなことをしている余裕など無いと解っている。けれど寄港した町で必要物資を船に積む間だけ、情報収集と銘打って病み上がりの航海士に町まで連れ出されてしまった。焦った所で何が出来る訳でもない。気遣われているのも理解できるから、今だけ息抜きをしようと思っていた、ことを、ガラスに写る極悪顔の剣士によって思い出された。
思わずガラスに写る男に頭を下げて謝ってしまう。

「何してるのビビ?」

覗き込んだナミは、ああ、と納得した様な声を吐くと脅してんじゃないわよと背後の男に振り返った。
憮然としたまま男はうるせェと口の中で呟く。買い物でも何でもおまえらだけでしろよ、おれは腹が減ったから行くぞ、としかめっ面で歩き出すゾロの腕を搦めとりナミは迷子を探す余裕は無いのよと言って、振り向いて何かを言う前にゾロの向う脛を軽く、しかし勢いよく蹴った。い、と呻いて動きの止まった男をそのままにナミは店に入りあれとあれとあれを、と言いながらさっさと支払いを済ませ袋を幾つか抱えて戻って来る。

「じゃ、お茶でも飲もっか」

抱えた荷物を男の足許に置き捨ててナミは通りを歩いていく。この女、と唸りながらゾロは荷物を手にしてナミの後について行き、ビビはナミを引き止めようかゾロを手伝おうかおろおろと手を彷徨わせた挙句、二人の背中を見ながらおろおろとついて行った。

「ごめんなさい、私邪魔ですよね…」

喫茶店で項垂れてビビが言うと、顔を逸らしたまま沈黙するナミに代わりゾロがうんざりと答えた。

「何の邪魔だよ…」
「でも…その、私の分まで荷物持ちさせてしまって…」
「さっきみたいな会話に付き合わされるよりはマシだ」

店先で見てあれ可愛いーと言うナミに腕を捕まえられて渋面のゾロ、を想像してビビは思わず笑う。
お待たせしましたとウェイターが、運んで来た料理をビビの前に置くとゾロは片手を挙げて、ナミの顔の前に遮るように翳す。

「ジロジロ見てんじゃねェよ」
「あら、他の男を見ちゃ悪いの?」
「…おまえなァ…」
「わかってるわよ」

ゾロの手を下ろさせてナミは店内に向かって微笑む。何を見ていたのかしらとビビがナミの向いていた方を探ると顔をだらしなく弛ませた男性客が慌てて顔を逸らしていた。
目の前の二人に視線を戻せば何事も無かった様に料理を取り分けるナミの頭の上を通過して先程の男性客にゾロの鋭い視線が刺さっていた。
やっぱり私邪魔なんだわ、とビビははしたなくもストローをズコーと鳴らした。

船に戻ってから、ナミは暫く部屋から出て来なかった。
出航だーと船長が声を上げ、陽も傾き夕食の匂いが漂い始めた頃、

「あー!!」

ナミが部屋から飛び出して来た。

「ナミさん!? どうしたの!?」
「ちょっとゾロ!どうしてくれるのよ!」

甲板にいた船員を無視してナミは見張り台に立っていたゾロに詰め寄る。

「昼見た男やっぱり賞金首だったわ!」
「海賊だったのか?」

突き付けられた紙を見ながらゾロは山賊かと思ったと呟く。

「どこを見てるのよ!800万よ!800万ベリー!どうしてくれるの私の800万ベリー!! あんたの借金に上乗せしときますからね!」
「おれは関係無ェだろう!」
「あんたが止めなきゃあの男海軍に突き出して今頃800万ベリーは私のものになってたはずなのよ!? 賠償して当然でしょ!」
「そんな理屈が通るか!」

後部甲板でみかんの皮を干していた医者は、見張り台で口論する二人を見つけてマストに駆け寄ろうとした。

「あっ!ナミ、まだ見張りに上がるなって言ったのに!」
「声をかけるのはもう少し後にしましょ、トニー君」

階段を駆け降りたトナカイの首の皮を掴んでビビが言う。
見張り台では口論を続けながらも何故か距離が近いままの二人がいつまでも罵り合っていた。
私どれくらいお邪魔なのかしら、これはやっぱりナミさんを問い質すべきよね。とビビは階段に腰掛けながらニヤニヤとマストを見上げ、チョッパーはそんなビビの顔を隣から気味悪そうに見上げていた。




2013/03/30 comment ( 0 )







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