「言っておくけどね、ロビン」
反論はさせねぇよ、と口を塞がれ息もできない「私はあいつら程簡単じゃないわよ」
「って言いながら目がベリーじゃねェか!」
ウソップの呆れながらのツッコミに、ナミはロビンが取り出した宝石の入った袋を引っ掴んで勢いよく振り回し、長い鼻を圧し折った。
「私に逆らったら承知しないから、そのつもりでいなさい」
ウソップの悲鳴を背景音に、ナミは腰に手を当ててロビンを見下ろして言い放つ。
「あら、船長は麦わらの彼だと思っていたわ」
「船長はあいつだけど航海士は私よ。だからこそ、私の言うことは聞きなさい?」
ロビンは座ったままくすりと笑った。
「了解したわ」
「じゃあとりあえず──」
「宴だー!」
「何でよ!?」
言葉を遮られナミが怒鳴る。ルフィは麦わら帽子からロビンの腕を生やしたままナミに振り返り、それが常識のように言い放った。
「仲間が増えたら宴だ。当然だろ?」
「よく言ったクソ船長!レディは大歓迎ですロビンちゃんとお呼びしても構いませんか!?」
サンジが膝をつき恭しく問うとロビンは泰然と動じず、ナミはテーブルを叩いて抗議した。
「待ってよ!今出航したばっかりなのに、そんなことしたら確実に次の島まで食料保たないわよ!!」
「でもチョッパーの時はやったじゃないか……ケチャップ星!」
鼻が曲がったウソップがナミに睨まれてトマト臭を漂わせながらその場に倒れた。臥せたウソップの隣でチョッパーは全身をわななかせる。
「あの時の食料難はおれのせいだったのか…!」
「大丈夫だよナミさん!おれがいる限り、レディを飢えさせたりなんかさせないさ!」
「でも…──ッ!」
サンジが拳を握り腕を叩いてみせたが、それでも言い募ろうとしたナミの顔にべたりと手の形をしたゴムが張り付いた。
「文句言うなナミ!船長命令だ!宴をやるぞー!」
「「「おぉ〜!」」」
「むぐ〜っ!」
ルフィが片手を掲げ声を上げると、男達は諸手を上げて歓声を返した。
ナミは顔に張り付いた手を剥がそうと腕を引っ張るが伸びるだけで全く剥がれない。
「ロビンは音楽家だな!」
「いいえ。考古学者よ」
「ええ〜歌わねェのかよ〜」
「無理ね」
「んん!ん〜ッ!」
呑気な会話が聞こえる端でナミは顔を真っ赤にして呻く。顔を覆った手は口どころか鼻まで塞いで息が出来ない。視界も潤んだように霞んでほんとにヤバイかもとナミが思った時、横から伸びてきた腕がルフィの掌をばりっと音を立てて剥がした。
「生きてるか?」
「ッぷはァ!」
涙目で肩を怒らせて必死に呼吸を繰り返すナミに、ゾロは宥めるように一度だけ肩を叩いて横をすり抜けた。
「あんたも見てないで止めなさいよ!」
「船長命令だろ?」
酒が飲めるしな、と呟いたゾロの顔は嬉しそうに緩む。
ナミは折角整えた肺の中の空気を全部吐き出すように大きく長く溜め息を吐いて、目の前を歩く背中を殴った。
「痛てェな!っておまえ、背…」
「うるさい!わかったわよ!サンジくんは宴の準備、それ以外の男共は船を動かして!一応逃げ切ったけど、出来るだけ海軍から離れておくの!」
アイアイサー!と男達の声は海と空の間に響き渡り、ロビンはなるほど、航海士さんのいうことは絶対なのねと笑いながら囁いた。
背中を狙うんじゃねェよという剣士の非難は完全に黙殺された。