「たこ焼きだー!」
「早く早くー!」
「待ってろよ、すぐ作ってやるからニュ〜」
本気で嫌がらねぇと、やめないぜ?と抱き締めて離してくれないサニー号の手摺を飛び越えて魚人の屋台船に乗り移ったルフィ達を横目に見ながら、ゾロは屋上のみかん畑へ向かう。
木の傍らにしゃがんで、みかんの手入れをしているはずの女に声をかけた。
「どうすんだ?」
「なに?何か用?」
ナミはゾロに背を向けて蹲ったまま、振り返りもせず聞き返した。
「…タコが」
「すぐ行くから先に行ってて」
「ナミ」
「今忙しいの。あっち行って」
語気を荒げてナミが言う。ゾロは片手で頭を掻いて一つ息を吐くと、ナミの隣まで近付いた。
「おい」
「しつこいわね!後で行くって言っ」
ゾロに腕を掴まれ無理やり立たされたナミは、怒鳴って腕を振りほどいたが、ゾロは構わず突き放された腕をナミの背に回して抱き留める。
「ッなにっすんの!放しなさいよ!このッ」
ナミは一瞬呆気に取られたが、すぐにゾロの腕から逃れようと暴れ出した。
「本気で嫌がらねぇと、やめないぜ?」
「あんた馬鹿!? 嫌がってるでしょ!放しなさいよ!」
「おう。馬鹿だからちゃんと言われないとわかんねェな」
ナミはゾロの胸板を拳で叩きまくるが、ゾロは押さえ付けるように抱き締めて離してくれない。
「ふざけないで!! 放し」
「おまえはいいのか。魚人と一緒で」
ゾロを叩いていた手はぴたりと止まって、文句を言っていた声も途切れた。
「無理をする必要は無ェだろ。嫌なら言え」
「……良い訳、ないでしょ…!!」
ナミの手は小刻みに震え、ゾロのシャツを掴んで押しつけるように顔を覆った。
「何で仲良くしてるの!あんな奴と!」
叫んだ声はゾロの体で覆うようにくぐもって、畑より外には響かなかった。
「…って、思うけど。もう終わったことだし…」
シャツを握る手が離れ、ナミは俯いた顔を片手で覆って溜め息を吐く。
「私は、あいつが無害な奴だって、知ってるもの…」
「…調子が狂う奴ではあるな…」
俯いたままのナミの頭に手を置いてゾロが応えると、ナミはでしょ、と呟きながら苦笑を零した。ナミの頭の上に置いた手の上に顎を乗せてゾロは尋ねる。
「…泣くか?」
「なにそれ!泣かないわよ!」
「そうか」
笑い飛ばすナミに、ゾロは明らかにほっとした声を返してナミから離れようと回していた腕を緩めた。
「でも今手を放したら泣く」
ぼそりとナミが呟きゾロは思わず放した腕を一度目より強くナミの背中に回した。
「…ぷっ…」
「…てめェ…」
肩を揺らし笑い声を漏らしたナミの頭を睨んでゾロが唸る。
「ひとが心配してやったらコレかよ…」
「私を誰だと思ってるの?」
転んでもタダでは起きないわよ、と笑うナミに、そんな事は知っているとゾロは溜め息を吐いて、ナミは両腕をゾロの背中に回して苦笑を浮かべるその顔を見上げた。
「本気で嫌がるなら、やめてあげるわ?」