1.誕生日になった瞬間の電話、
窓の外にいる彼日付が変わる頃、携帯電話が鳴った。
佐助は着信相手の名前を見て驚きながら電話に出る。
「もしもし?旦那?どうしたのこんな時間に」
『居留守かよテメェ!』
「うげェ。何で旦那のケータイから伊達ちゃんが?」
聞こえた声に佐助は思い切り顔をしかめた。
『何度かけてもお前が電話に出ないからだ!何で幸村のケータイにはすぐ出るんだよ!』
「そこは、着拒否されてないんだ!って喜ぶところだよ?」
『思わねェよ!!』
大音量で返され携帯を耳から離したが、面倒臭かったので佐助はそのまま話を続けた。
「で?夜中に何の用さ」
『急用だ。窓の外を見ろ』
「見ないね。俺今忙しいから手が離せなくて」
『嘘つけ!爪なんか後で切ればいいだろ!』
「なんで知ってんだよ!盗撮か!?」
教えていない現状を言い当てられ、佐助は慌てて部屋を見渡す。
「窓開いてんじゃねェか。不用心だな」
からりとガラス戸を開けてベランダから政宗が平然と入って来た。
「ギャー!ここ五階なんですけど!」
「お前、今日が何月何日だか言ってみろ!」
不法侵入した政宗は堂々と指を突きつけて言う。
佐助は座ったままきょろきょろと部屋を見回しながら答えた。
「え?えーと、八月の、…四日?三日?くらい?」
「曖昧に答えるくらいならケータイの待受けでも見ろよ!アンタ、オレの誕生日に何するって言ったか覚えてるだろうな?」
「なんか言ったっけ?」
佐助は前屈みになって足の指を眺めながら、こんなもんでいいかとひとり呟いた。
「言っただろ!一番初めにおめでとうを言うって!危うく幸村に一番乗りされるとこだっただろうが!」
「いいじゃん?旦那に祝ってもらえるなんて羨ましい〜」
「セリフの割りに顔が冷めてるぞ」
姿勢を戻して両手の爪を眺める佐助の眉間には政宗に負けずシワが寄っていた。
パチン、と佐助の手の中で爪切りが鳴る。
「内心その思考がキモいったらない」
「メルヘンだろ」
「花は咲いてる感じだね。頭に」
「というわけで。さぁ愛の告白をしろオレに!」
「なんで?」
「いい加減電話を返して下さるまいか政宗殿」
幸村が窓から顔を覗かせて言うと、佐助は驚いたように目を大きくした。
「わぁ。旦那まで来た」
「佐助準備してないのか」
「何が?」
「流星群を見に行くのだろう?」
「…………。ああ、二人ともベランダ伝いに来たんだ?」
幸村と入れ違うように逆にベランダに顔を出して佐助は納得したような顔でいう。その後ろ頭に政宗は呆れた声をかけた。
「お前完璧に忘れてただろ」
「うっせェ。あんたは流れ星に願い事でもしてろ」
「何言ってんだ!当たり前だろ!」
「うそだ本気?可哀相…」
「行くなら早く行くぞ二人共!さっさと支度しろ!」
腕を組んで仁王立ちの幸村に怒鳴られて、言い合っていた二人は思わず口を閉じた。
「どうした幸村…」
「旦那?怒ってんの?」
怪訝そうに声をかける二人に、眉間にしわをよせて目を閉じて幸村は沈黙していたが、突然目を見開いて叫んだ。
「眠い!!!」
「朝早いから夜更しできないんだよね」
「とんだじいさんだ。幸村は無理して来なくてもいいぞ、二人きりで行って来るから」
だから不機嫌なんだねと佐助は納得し、政宗が呆れながら言うと幸村は首を横に振った。
「隕石落ちて来るかもしれないから行く」
「子供か!」
「夢があるよねー」
政宗のツッコミを無視して佐助はほのぼのと頷く。
「態度が違い過ぎるだろ」
ぼやきはきれいに聞き流された。
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誕生日になった瞬間の電話、
窓の外にいる彼