5.引っ越しの挨拶に来たお隣りさんが、
彼だった玄関の鍵を開けて佐助は誰もいない家に帰宅した。
「おかえり!」
「ごめんなさい間違えました」
幸村に出迎えられた佐助は開けた扉の内側には入らずそのまま閉めてから、もう一度開いた。
「間違えてなかった。旦那の家は隣りだろ。何でうちにいるの」
「腹が減ったのだ」
「タカリか。ゆでたまごでも食ってなさいよ」
他人の家のキッチンで椅子に座って幸村が堂々と言う。慣れた様子で佐助はランドセルを下ろしながら返した。
「うちには卵がもう無い」
「食ったんかい」
「折角家に招いたのに客に菓子も出さねば失礼だろう」
「客放置でうちにいる方が無礼じゃねェの?」
手を洗いながら言う佐助に幸村は腕を組んで、ふん、と鼻息を吹いた。
「だから佐助なんか出して」
「のび太か。…パンケーキとか?それならすぐできるけど」
「ぎゅるるるん」
「腹が返事してるぞ」
やれやれと溜め息を吐いて佐助はエプロンを着る。
「じゃあその友達?も呼んできなよ」
「テレビの前にいる」
「あ、お邪魔してます」
幸村が指差す先で政宗がテレビの前で片腕で頭を支えるように肘枕で寝転んでいた。
「誰よりも寛いでたよ」
「つーか幸村の家だと思っていたんだが?」
「いいえ!」
「何で堂々」
立ち上がりながら政宗が尋ねると幸村は即答し、佐助は思わず裏拳で突っ込んだ。
「他人の家で威張ってんじゃねェよ。すみませんお邪魔しました帰ります」
「どの口が言うのか……えっ帰るの?」
「えー!まだお館さまにもお会いしてないのに!」
ランドセルではない鞄を肩に掛け、窓から出て行こうとする政宗に幸村がしがみついて止めようとする。
「…ハッ!まさか!?」
可愛い顔で怪力だなと引きずられる幸村を見ながら佐助は思ったが、幸村の必死っぷりに閃いた。
「まぁまぁまぁまぁ!いいよゆっくりしていきなよ!」
「……でも…」
二人の前を遮って佐助が言うと政宗はとりあえず足を止めた。
「初めて見る顔な気がするけど旦那とはどこで?」
「クラスに来た転校生なんだぞ!美人だけど眼帯だから気にしてて怒られるんだ!」
「そうなの?どうせ旦那がその下どうなってんのとか言って無理矢理眼帯取ろうとして怒られただけじゃないの?」
幸村が政宗の手を引き、佐助がその背を押して部屋に引きずり戻しながら話していたが、図星を刺された幸村はお茶を飲もう!と叫ぶと一人冷蔵庫に向かった。
「…よくわかってんだな」
「そう?そんで悪気はなかったって平謝りされてほだされちゃった感じ?」
政宗は感心したように言うが佐助に返されて押し黙る。
「ははは当たりだ。悪い人じゃないから仲良くしてやってよ」
「……ああ」
「たまにめんどくさいけど」
笑って言う佐助に政宗が頷くと、佐助は冷蔵庫を開けて何も取り出さずに扉を閉めて、腰に手を当てて茶を飲んでいた幸村に詰め寄る。
「うちの卵も食っただろ旦那!?」
「うん!」
「うんじゃねェよ!今日の晩ご飯がチキンライスです!」
玉子を食えと言ったから、と悪びれもせず言う幸村の耳を千切らんばかりに引っ張りながら玉子食い過ぎ!と喚く佐助たちの後ろで政宗は鞄を下ろすのも忘れて胸を押さえてきゅんとして いた。
「つまりその日の晩飯がオムライスの予定だったということかな?」
首を傾げて言う慶次の隣りで元親は理解できないと首を振る。
「今の話のどこに惚れるんだ」
「オカンじゃね?」
「佐助のエプロン姿に萌えないなんてお前らどうかしてる!」
「ほらオカンじゃん」
「いやオカンは割烹着だろ」
拳を叩きつけて抗議する政宗を前に慶次と元親はオカン談義を始めた。
佐助は幸村がいないと今更に気付いたが風邪を感染すよりはいいかと騒ぐ三人を見放した。
「…頼むから出てってくれ…」
特にベッドに居座る政宗にそう思いながら佐助は熱のせいで朦朧としていた意識も完全に手放した。
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引っ越しの挨拶に来たお隣りさんが、彼だった引っ越しの挨拶に お隣りさん に来たのが、 彼だった