もしかして記憶喪失?

頭に疼痛を感じて目が覚めた。

ベッドから足を下ろすとゴロリと空き瓶が転がった。
さて困った事態だと、頬に手を当てて考える。
自分が此所にいる理由が全く思い出せない。
揺れる感覚から船室なのだろう。そして部屋の様子から自分の趣味ではないけれども女部屋だ。足の踏み場も無くばらまかれた空の瓶にはアルコールの表示。
昨夜何があったのかしら。
考えながら、詳細を理解しようとロビンは部屋を簡単に漁るが日記や記録の類いはすぐにはみつからず、室内の探索を諦めて階段を上がり撥ね上げ扉から部屋を出た。
一応、机の上にあった宝石の入った袋も持ち出しておく。
倉庫を通り抜け扉を開くと何かにつっかえた。
…たぬきかしら。
扉の外、床に毛玉が転がっていた。
角の形状から見て鹿のようだと思いながら、ロビンは毛玉を通り過ぎた。
不自然な長い鼻に興味をそそられながらも寝ているものを起こさないように足音を忍ばせて、甲板のほぼ中央で大の字に寝る少年を見て思わず息を飲んだ。
――懸賞金三千万の少年が何故。
頭上から扉の開閉した音が響き、首を巡らせればスーツを着た金髪の青年が厳めしい顔をして出て来た。

「ロビンちゃんっ?」

青年は一転して表情を輝かせ、階段を駆け下りてきてすぐ傍らで急停止した。

「おはようございます!コーヒーでも飲む?」
「いいえ…」

味方がいないので口にするものには常に注意を払っている。モンキー・D・ルフィがいる船にいるなら彼も海賊だろう。一変した表情も取り繕ったものかも知れない。などと考えているといつの間にか手を取られている事にも驚いた。

「…クラッチ!」

金髪の青年を甲板に沈め、視線を巡らせる。
よく見れば船は陸に繋がれていて縄梯子が下ろされていた。
これは好機かも知れず、何故ここにいるのか謎は気になるけれども海賊に深入りしても禄な事は無い。
船を降り、港から距離を置かず、男女の二人組が町から歩いて来るのが目に入った。

「ロビン?どうしたの?」

駆け寄ってきた少女に身構える。どうやら不運にも帰船した仲間と鉢合わせたらしい。

「迷ったのか?」
「あんたと一緒にするんじゃないわよ」

少女の後ろから剣士らしき男が言い、少女がその脇腹を殴っていた。男は何か文句を言っていたが両腕が埋まったままでは何の威力も無い。

「町に用事があった?」

言ってくれれば一緒に行ったのに、と少女は首を傾げながら何故を問うて来る。

「いえ、用と言う程では…」
「放っとけ。そいつの勝手だろ」

言って、男は片腕に抱えていた荷物を掲げる。自分の両脇から伸びた腕が男の腕から荷物を奪った。

「!」

自分の咲かせた腕かと思う程不自然に伸びた手は、荷物を持ったまま船の甲板に戻って行く。
男は空いた片腕で器用に縄梯子を上がって行った。

「肉だー!!」
「ちょっと何してるのよ!? こら勝手に食べるんじゃない!!」

甲板からの雄叫びに、少女は怒鳴りながら梯子を素早く上りきり殴打の音を響かせた。
間を置かず、麦藁帽子の上から頭を押さえて、モンキー・ D・ルフィが船端から顔を覗かせる。

「ロビン。どこか行くのか」

真っ直ぐに見つめてくる彼に返答を躊躇う。
答えを間違えれば命取りになるのかも知れない。
見下ろす黒い瞳には悪意が無いように見える。けれど善意のようなものも感じられない。
ただ単純に、純粋に、見ている。

「あれ?行かないのか?」
「今は、行かないわ」

梯子を登り、船に戻ると、にししし、と彼は特有の笑いをした。

この少年に全く惜しまれないのも少々悔しいと思ってしまった自分に、人情とは不思議なものね、とロビンは内心苦笑しながら、甲板に沈む料理人の事をどう説明しようかと笑う麦わら帽子を眺めていた。


2013/03/10 ( 0 )







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