【あなたの力でハッピーエンドにしてあげてったー】
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【 蓮キョへのお題 】
あなたは『もうここには帰ってこられない、って立ち尽くす』蓮→キョーコを幸せにしてあげてください。




──もうここには帰ってこられない。

生活感の失せた自室で、蓮はその既視感に、ク、と嘲笑を漏らした。

(ここに来る時もそう思った)

あの時は、家に帰れないと思っていた。
社長に連れられ家を後にした時。又は飛行機の中から見た空と海に。
帰りたいと思う資格すら無いと、誰も知る者のない街に立ち尽くして覚悟を決めていた。
それなのに、今も同じ事を考えているなんて。

(俺って成長してないのか?)

それとも、人間の本質はそう簡単に変わらないという事なのか。不思議な感慨と、決別に似た感情を抱いたまま部屋を出る。

(ああ、そうか)

帰りたい場所は家ではないのかも知れないと、キッチンに立つ後ろ姿を見て溜め息を吐いた。
何かに気づいたように振り返ったキョーコはどうかしましたかと心配を表情に浮かべる。

「敦賀さん、忘れ物ありませんでしたか?」

濡れた手をタオルで拭いながらキョーコは蓮に歩み寄る。頷いて蓮は振り返った部屋を見渡した。

「手伝ってくれてありがとう。最上さんのお陰で早く片付いたよ」
「いえ寧ろ私のせいで荷物が増えていた気がしますし、私の方が申し訳ないくらいです」

機会がある度にキョーコは借りていたと思っていたが実は蓮が買い上げていた服の数々や、食事に誘われる回数だけキョーコが増やしていった冷蔵庫の中身やら、その時々の話題に使った雑誌とか。
それらは全てキョーコの手によって、雑誌は纏められ、冷蔵庫は数日前から空にされ、服は箱に積めてキョーコの部屋に配送済みにされた。

「あちらにはいつ発つんですか?」
「明後日、かな。今夜は社長に付き合わされるから、明日最後の挨拶して回って……」

浪費だとか説教されつつそれも楽しい時間だったと蓮が思い出に耽っている横で、キョーコは自分の手帳を捲り、音がしそうな勢いで青ざめた。

「不義理な後輩をお許しくださいィィ!!」

膝を床に激しくぶつけながらキョーコはその場に土下座した。勢いで投げ出したキョーコの手帳を拾い上げて、蓮は空白の少ない予定表に感嘆する。

「気にしないで。撮影が入っているんだろう?この連ドラ、映画化も決まったって言ってたよね。おめでとう。観に…は、行けないか……?」
「米国公開予定は御座いませんんぅぅ。私めは至らない芝居屋ですぅぅ」
「落ち着いて最上さん、大丈夫だから。不義理とか至らないとか思ってないから」

後輩の躍進を労って頭を撫でると比例するように額が床に沈んでいく。これはいけないと手帳を持っていない方の手でキョーコの手を取って無理矢理立ち上がらせると、キョーコは頭を振り回して苦悩し始めた。

「いいえ!私の努力がまだまだ足りないからに決まっています!いつかきっと全米を泣かしてみせますから!」
「うん、? ……感動ものの大作映画に出演したいってこと?」

どうやって落ち着かせようかと蓮が観察しながら相槌を打っていると、キョーコの興奮が驚くほど一瞬で冷めた。

「私程度の技量で、その、烏滸がましい事を言っていると解っていますが……」

きゅ、と繋いだままの指先に力が込められて、俯いていたキョーコはがばりと顔を上げる。

「いつかは、私も……そちらに……その、渡米、出来たら、と……。今は全然全くお話にもならないんですけども!きっと、いつかはきっと、敦賀さんに追いついてみせます!」

強い感情を込めた目を煌めかせて断言する後輩に蓮は笑みをこぼすと、わざとらしく挑戦的な声音で答えた。

「それはどうかな?俺も立ち止まってはいないよ」
「それでもっ、必ず、辿り着いてみせますから……」

わかっていますと頷いて、キョーコは指先で握っていた蓮の手を両手で握手するように握り直すと、目尻を染めてそっと目線を逸らした。

「……その時は、聞いて欲しい話があるんです……」

逸らされた目は潤んで微かに震える握った指先が熱を帯びていく。
しまった手が空いてないと蓮は内心落胆してから、いやいや逆だ手が空いてなくてよかったと自制心を取り戻した。
挑戦を受けた優位者の微笑を崩さず、蓮は不自然に声が弾まないよう細心の注意を払いながら訊ねる。

「……今じゃダメなの?」
「まだ!ちょっと、今は……自信がないといいますか……」

目を閉じて葛藤するキョーコは赤面しながら、握った手をさらに強く握りしめてぶんぶん振り回しながら気持ちが変わらない自信はあるんですけどもとうっかり口からこぼしながら悶える。
蓮は振り回される手をほどかれないように握り返しながら、帰る場所のない寂しさよりも待っていられる幸せを強く噛みしめて、お互い頑張ろうねと神々しい笑顔で言う。


「キミたち、俺がいることも思い出してくれよ」

社がソファに座って片手に携帯電話を持ちながら、逆の手で手帳に予定を書き込みながら呟いた。


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ハリウッド進出する敦賀さんとまだ主演はない最上さんの、お互い両片想い自覚後だがしかし自分的に何らかの壁を越えてないからまだ駄目だ、とか縛りのあるふたり。という設定。
むしろこのテーマで誰か書いてくれと。




2016/04/17 comment ( 0 )







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