D4-R【3つの恋のお題】
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【ヴァルアルへの3つの恋のお題】
・寝ぼけてキスをした
・目の覚めるような青
・薄暗い部屋で二人きり


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──懐かしい夢を見た。

破綻の激痛に胸を抉られ、魔力の喪失を止める術も知らず、遺された約束を守るという矜持だけが己を奮い起たせていた、魔界の最下層に墜ちる前の。
陽光の中、笑う娘の面影を。

「おはようございます、吸血鬼さん」
「……お前は死んだはずだ……」

瞬いて、娘は揶揄の表情を浮かべて笑う。

「いやだ、夢でも見ていたんですか?」

そうだとも。そんな都合のいい現実があるものか。死んだ娘が天使になって目の前に現れるなどと。
ならばどこからが夢なのだろう。
娘の死すら悪夢なら、目の前の姿を今度こそ死なせはしない。片時も目を離さず髪の一筋すら余人には触れさせたりしないのに。いっそ誰にも害されないよう何処かに閉じ込めて自由を奪ったなら娘も今度こそ少しは恐怖を覚えるかも知れない。

「─────」

手を伸ばして娘の唇に触れながら名を呼んだ事で、見開かれた目の覚めるような青い瞳に、何をそんなに驚く事があるかと急速に頭が覚醒して、捉えていた桃色の頭をうっちゃり上半身だけ飛び起きた。
実際、目が覚めた。
男と女が薄暗い部屋で二人きりだというのに満ちる空気は厭に冷たい。冷たいというかむしろ痛い。

「……吸血鬼さん。」

冷静を通り越して平坦過ぎる声が後頭部に投げ掛けられる。顔が似ると怒り方も似るのか。そもそも紛らわしい顔を持った天使が悪いのだ。

「あ、ああ。いや、天使相手に詫びて済む事ではないと思うが、お前も悪魔相手に寝込みを襲うなど不用意に過ぎるのではないか?」
「──……わたくしが悪いとおっしゃるの」
「いやッ、それは……っ!」

震える声に思わず振り返れば俯いた天使は桃色の髪で表情を隠し、細い肩が頼り無げに揺れる。
日頃金カネ言って強欲と渾名されようと紛う事無き天使であり、清い霊の娘である事に違いはない。どれだけ言い訳を連ねても寝ぼけてキスをした事実は消えはしないのならば誇りある悪魔としても男としても言い逃れはすまいと思う。

「……………………スマン……」
「ご理解頂けて恐縮ですわ。精神的損害分は後日徴収させて頂きます」

溜めに溜めてやっと吐き出した一言に、けろりとした顔で天使は応えると立ち上がって己の体の埃を払う。投げ出した時に床から付いた塵芥を落としているのだろうと予想は付くが、その前の行為を思い出すと何故かやるせない。

「……ちょっと待て、金を取るのかッ!?」
「あら?他の方法で責任をおとりになられるの?」
「ぐっ……!」

他の方法って何だ。と思うものの訊いたら墓穴を掘りそうな予感がして言葉に詰まる。どれだけふっかけられるものかと覚悟して天使の啓示を待っていると、微かに笑う女の声が耳に響いた。口元を掌で隠しながら笑っていた天使は誤魔化すように空咳をして扉へと足早に向かって行く。

「他の方には内緒にして差し上げますわ」

言い捨てて天使は廊下に繋がる扉から去っていった。
取り残された男は天使が去っていった扉を見詰めたまま暫く固まっていたが、どうやら情状酌量と執行猶予が認められたものと理解して、誰もいなくなった部屋で肺の空気を全て吐き出すほどの重いため息を出した。




「いやですわ、もう……」

閉めた扉に寄りかかり、天使は赤く染まった頬を片手で隠すように覆う。
今さらこんな思いをするなんて思わなかったと、誰にも聞こえない声で呟くと、天使は耳に残る男の声が呼んだ女の名を深く刻み込むように、重く長い息を吐いてから顔を上げて、振り返る事無く吸血鬼の自室を後にした。


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ヴァルアルではなくヴァルブル(仮)でしたが。




2016/04/17 comment ( 0 )







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