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A I love sixpence,
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「政宗様!!」
「shh」

医者と入れ替わりに足音荒く室に来た小十郎に、口許に指を立てて言う。

「大声は怪我に障るぜ?」

床につく男を見て、小十郎が口を噤んだ。

「……何処から連れて来たのですか」
「um…何処と云うか……偶然?」

犬猫とは違いますぞ、と低く唸る様な声で言う。怪我人に配慮して怒りを抑えているようだ。

「I see」

肩を叩いて落ち着くよう言い聞かせる。
そのまま動かずにいると察したのか諦めたのか、小十郎は一人退室して行った。
他人の怪我で小言をthroughできた。luckyだが此処を離れる訳にもいかなくなった。
仕方無く、床に就く男の側に座ってその顔を眺める。
どこかで見た気がする顔だが、こんな派手な頭を忘れるものかと思うと気の所為か。……地毛?

「いてぇ」

髪の毛を掴んで引っ張ると床の中から短く呻いた。

「起きてるなら礼の一つも言えよ」

俯せに寝ていた男は腕の力だけで起き上がり、心底うんざりした顔で淡々と言った。

「これはどうもありがとうございます何のお返しもできませんで」
「…って、出て行くのかよ!」

浴衣一枚掛けただけの恰好で廊下に出ようと障子に手を掛ける。

「怪我は!」
「お陰さまで楽になりましてどーもぁたっ」

言いながら敷居に躓いて、転んだまま蹲って動かなくなった。

「ほら見ろ」

転んだ男に手を差し出すと音を立てて払い除けられた。

「動けるなら帰るべきだろ」

平静な口振りで言う癖に眼光は鋭い。
目が合うと諂うように笑った。

「……動けるならな」
「な…、ぃ…っ!」

四肢をついた背を踏み付ける。手当てしたばかりの傷を探るように踏みながら、廊下へ向けて声を張り上げた。

「成実!」

指を鳴らして暫く待つ。
そのうち足音がして騒がしい声が近付いてきた。
どんだけ耳いいの、と驚いた足下の声は無視した。こっちが知りたい。

「呼んだか政宗!?」

嬉しそうに顔を出した成実に足下で這いつくばるものを指差す。

「これ見張ってろ」
「おっけー!」
「桶?痛…っ」

成実は、呟いた男の声を無視して髪を鷲掴むとその背に腕を回し力任せに引き上げて、脇に抱え上げた。

「っ!!」

乱暴に抱え上げられた衝撃で傷に響いたか開いたかしたのだろう。泣きそうだったが声を出したくないのか必死に口を押さえていた。

「───っっ!!!」
「……成実…」

何を言えばいいのかと迷っている間に、成実は男を抱えたまま足音荒く部屋に入っていって文字通り床に投げ捨てた。
怪我人を、それと知ってその行為だ。故意でも悪意でもないのが成実の凄い所だ。
後の面倒を成実に任せて部屋を後にした時、銭でも落としたのか軽い金属音が聞こえた。


何かが脳裏を掠めた気がした。


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I love sixpence,
jolly little sixpence,
I love sixpence
better than my life;

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2014/11/15 comment ( 0 )







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