曖昧な声と泳いだ目と掴んだ手と



堂々巡りな会話に疲れた小十郎は一人部屋を後にした。

「おっちゃん!」

場所に不似合いな幼い声に視線をやれば、何時ぞやの小娘が廊下を小走りで駆けてくる。知った顔を見てか安堵した様に小さく息を吐いた。

「青いお侍ぇに会いに来ただよ」
「……政宗様は……」

来客中だと答える前に、Getout!まだまだぁ!旦那鼻血!と続け様に喚声が響き、何か破壊音がしていた。こっちだな?と腕を振って横をすり抜けようとした小娘の片手を取ってくるりと向きを反転させる。

「……今は大変お忙しいのだ。先に用件だけ聞いておこう」
「村の米を持ってきたべ」
「それは助かる」

馬鹿のように食う輩がいるからな。今は鼻血を出しているらしいが。騒ぎの収まらない部屋から遠ざけようと、小さな頭を押しながら先へと促して歩き出す。

「政宗様が落ち着かれるまで誰かに相手をさせよう」

どうせ政務も進まないなら今のうちに畑に手を入れておこうと、この喧騒から遠い部屋と、手が空いている者は誰だろうと考える。

「……おっちゃんは?どこ行くだか?」
「畑だ」
「おらも行くだよ」
「だが…」

敷居の高い思いをしてまで政宗様に会いに来たのではないのかと、振り返れば、死にさらせぇ!ぐわぁー!障子壊れたぁー!の声とほぼ同時に部屋から粉砕された障子と真田が飛んで出てきたが、小娘の背後だから見えていないようだった。

振り返らず、見ないようにしていた。

「……お侍ぇは嫌いだよ」


-----------------
小十郎だぜは土を弄っているのでお侍認識が低いのだよというはなし。


2014/11/01 ( 0 )







戻る



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -