アクアリウムにゆれる視界の端を魚影が横切った。
水槽からの淡い光に照らされて目の前の髪が鈍い赤に見える。
「ほら伊達ちゃん、おさかなだよー」
水槽の前で、泳ぐ魚群を指差しながら振り返って笑う。
「見ればわかる」
「おいしそうだねっ」
「それは思ってても言うんじゃねぇ」
「ね、伊達ちゃん伊達ちゃん」
足取り軽く先へ進んでいた男が立ち眩んだ様にガラスへと凭れ掛かる。
「男同士で水族館ってどうなの……」
「てめぇがどっか連れてけって言ったんだろうが」
買ったはいいが都合がつかなくなった元親から譲って貰ったticketだ。文句は元親に言え。
人の話を聞いてない男は、すぐ傍に立っていたcoupleに場所を譲ってその二つ並ぶ背中を物欲しそうに見ていた。
「二枚って事はさ、いいのかな?元親さん」
「仕方無いだろ」
都合が悪くなったのは元親が誘っていた相手の方で、本当はそれなりの値段で買ったんだが。
教えれば割り勘だの食事代奢るだの色気のない事を言うだろう。……男同士なのだから別にこだわらなくてもいいのだけれど。
「泳がないと死んじゃうんだっけ?」
「ああ?」
誰がだ、と呟いたらあれ、と魚を指差した。……鮪?か?動くものを指差しても何を示しているのかさっぱりわからない。
「一生休めないってことかな?気の毒ーしかも食うと美味いっていうね、なんだかね」
「そっくりじゃねぇか」
「え」
ぎこちない動きで振り返る男の顔が珍しく動揺を露わにしていた。
なんだ。どこにそんなに驚いたんだ。休みが欲しいといつも愚痴を言うくせに。俺さまは安くないよとか固辞するくせに。
「……jokeだろ」
「ああ、そっか、そうか」
焦った様に早口で何度も頷くのを見て、やはり冗談にするしかないのかと、小さく息を漏らすと同時に安堵した様な小さな溜め息が聞こえた。
「誰に聞いたのかと思った」
……ちょっと待て。
喰われた事があるのか。
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佐助は結局誰でもいいんですヨ。