悪戯にわらうよこがおの矛盾


一つだけわからない事がある。

先刻まで派手に繰り広げられていた三つ巴の喧嘩は鬼の旦那の一喝で幕を下ろした。
壊した物の弁償は武士の威光で免れたし(被害者に頭下げた俺さまのお陰だけど)、当初の目的通り船を見に行った。
帰宅した家人の様な厚かましさで、出迎え御苦労とばかりに堂々と乗船する三人に、鬼の旦那はよく来たなと笑って迎え入れてくれた。突然船の帆柱のてっぺんに登って絶景!とか叫ぶ風来坊にも、これはまことに海に浮かんでいるのかと喚きながら上に下に走り回る旦那にも、kingOFpiratesもいいなとか言って力任せに舵を回しまくる独眼竜にも、そして三人の行動に困惑する子分達にも、鬼の旦那は鷹揚に構えてみせた。
もう此所に住むかなーとか思っていた俺さまの熱視線に気付いた訳でも無かろうが、鬼の旦那がお前疲れた顔してんぞとわしわし頭を撫でるので、若干の寝不足と心労と空腹で実際疲れていたからちょっと泣けてきた。(やっぱり此所に住もうかな)
そんな鬼の旦那の神懸かった優しさにめろめろになりそうだった俺さまの背中に超突き刺さる視線を感じて、見れば独眼竜が刀に手をかけてやっぱり海賊は狩るもんだろうとか呟いていた。賞金首でもないのに鬼の旦那が斬られてしまう。独眼竜を止めようと前に出たらあーあー喚き散らしながら縄にぶら下がって飛んできた風来坊に蹴飛ばされた。佐助みたいだな前田殿!と旦那は楽しそうに言う。(そんな馬鹿と一緒にしないで!)
一瞬怒りで意識が途切れた後、気付いたら鬼の旦那の厚い胸と逞しい腕に支えられていた。大丈夫かと笑う鬼の旦那の優しさが逆に怖い。何が怖いって背後にいるはずのさっきまで殺気立っていた人が静かなのが。恐る恐る振り返ったら、独眼竜はなんか傷ついたような顔をして、あーあー喚き散らしながら縄にぶら下がってきた旦那に蹴られた。そして判りやすくキレた。
意味不明な事してんじゃねぇと独眼竜が縄を切り落としたら、恐らく船に必要な部品だったのだろう、鬼の子分共が怒り出して風来坊がそれに加勢していた。ぎゃふんと縄ごと床に落ちた旦那が、前田殿に誘われたので、と悪びれる事なく白状し、子分共に風来坊が詰め寄られるのをいい気味だと思っていたら、佐助ー尻打ったーと痛そうに寄ってくる旦那の尻を独眼竜がさっきの仕返しとばかりに本気で蹴りあげた。
手負いを後ろからとは卑怯でござる、いつまでくっついてんだ、どうしていつもオレばっかり責められなきゃいけないんだい、会話が噛み合ってない三人は行動だけ通じ合って再び得物に手を伸ばす。
しかし俺さまも一つ賢くなりました、喧嘩はやめなさいと誰よりも声を張ったのだが、即座にうるさいと一蹴された。(…話違くない?)
諦めて先に船の損害分を謝っておこうと鬼の旦那を見上げると、見下ろしていた旦那と目が合った。何故かにっこり笑った鬼の旦那に耳打ちで、これで絶対喧嘩が止まるという方法を教えられ、言葉の意味を目で尋ねるが笑うだけで答えは無かった。それで止まるならと鬼の旦那に教えられた南蛮語なのか意味の解らない単語を、喧嘩しないでと叫んだら、独眼竜が急停止して、その所為で風来坊が空振りして滑って床につんのめり、巻き込まれない様に咄嗟に避けた旦那は体勢を崩して独眼竜を下敷きにして、独眼竜は先に倒れていた風来坊の上に重なって三人は静かになった。
本当にあっと言う間に片付いた。

「すごい鬼の旦那!なんでなんで!? 何の呪文なの!?」
「てめぇ…元親…っ」

旦那の下敷きになったまま独眼竜が悔しそうに呻いて、それを見ながら鬼の旦那には珍しくにやにやと下卑た笑い方をしていた。

「…で、だーりんってどういう意味?」

這い出た後の独眼竜に問うと他の奴に言わないなら教えると顔を逸らし、鬼の旦那は教えたらオレにも言ってくれるかと笑う。
どちらかを選んでもよかったがその答えが正しいのかも解らないから、結局左右に並ぶ横顔を眺めるしか無かった。


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本当に何しに来たのアニキ


2014/10/26 ( 0 )







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