変わらない歪みのない笑顔
「初めに言ったよねぇ」
愉しそうに嬉しそうに、笑顔を張り付けた女は褥の上で膝を立てて座っていた。
「国ひとつ、引き替えだって」
穏やかでない事を笑顔で言う。
あまりに暴利だと、不当だと言ってやってもいい。自ら闇夜に男の閨に来て誘っておいて何を。そう、誘いに乗った時点で負けだ。女の言が嘘でもこんな好機は二度とない。
真実なら。
結局、女一人を惜しんだところで決まっていた。
「アンタの為なら国のひとつぐらいすぐに奪ってきてやるよ」
「ううん、貰っても困るし?」
女は笑顔のまま、ふるりと首を横に振った。
「これなら、ちょちょちょいって。済むから」
どこから出したのか女は書状を目の前に広げてみせる。
「はいここに署名と押印をお願いしまーす」
夜着に袖を通しながら確かめると武田との同盟と云う大して変哲も無い内容だった。
「奥州が欲しいなら嫁に来いよ」
「うん。きっと美人さんが来るんじゃない?出来れば伊達から誰か真田の旦那に嫁いでくれればいいのに……」
「待て何を他人事にしてthroughしてんだ」
「うぇぶッ」
書状の上から女の顔を鷲掴む。命より仕事が大事らしいこの忍びは、顔は引かずに人の腕を掴んで引き剥がして、すはぁ、と大きく息を吸った。
「アンタが来いよ!」
「なんで?」
「なんでって……」
書状を床で丁寧に引き延ばしながら不思議そうに訊き返された。
むしろこの状況でなんでってなんでだ!?
「いいけど……武田が戦の度に行方知れずになってもいいなら」
「人質の意味がねぇ!」
「真田忍隊だもん」
「だからオレのものになれよ!」
「同盟一つで女と有能な忍びの二つ強請るなんて欲張りだな。何様?政宗様?」
胡坐をかく様に足を開いて、膝に手を置き前屈みで眼で凄む。仕種はオッサンだが、好い加減に足を閉じるか前を隠すか服を着るかしろ!
「違うだろ!アンタが嫁に来いって言ってんだ!つーか他の女の話はしてねぇ!」
「えぇ?俺?」
鼻に皺を寄せてすこぶる嫌そうな顔をされた。
一夜を共にしてこの反応。何なんだ。オレの勘違いなのか。
「アンタ、オレに惚れてんじゃねぇのか……」
「えっ!? なんで知ってんの!?」
頬を赤らめて、心底驚いたような声で言われた。
「医者に行け!」
頭の。
--------------------
positiveにthinkingすれば両想いですが。