「そんなの知ってるよ」
頬を抓っていた手が放れた。
「馬鹿だよ」
言いながら机に肘をついて頬を支えて窓の外を見る。瞬きの度に睫毛を掠めて落ちる涙に頓着もしない。
「好きな子に好きな男の情報教えたり、学校違う男の愚痴の相手したり」
もう溢れはしないが流れるまま放置されている滴が気になって手を伸ばした。
「大嫌いな奴と四六時中一緒にいたりしてさ」
がちん、と歯を鳴らして噛みつく真似をされたから手を引く。
今生で嫌う理由を聞けばきっと答えられないだろうが、ならば何故自分が未だこの男に拘っているのか説明も出来ない。
「あいつがいればなぁ……」
外を眺めながら言うから、窓から空を見上げる。鴉が鳴きながら夕焼けの中を飛んでいた。
「鳥になりたいなぁ」
呟いた後、何かに気づいた様にひとり怪訝な顔をして、あは、と笑った。
「あんたの科白か」
言って、席を立ち、未だ教室の真ん中で鼾をかいている馬鹿の頭を叩く。
「旦那いい加減起きろ」
帰るよ、と言うが寝穢い鬼は何か寝言を呟いただけだった。苛立たしげに肩を掴んで揺らすのを横目にしながら、窓際の席を立つ。
窓から見下ろす先に歩く人物がいた。颯爽とした、歩き方の。
何故そう思ったのかわからない。この距離で顔なんか判らない。制服が違う事しか。けれど間違いないと思った。間違えない。
絶対に。
「何かあんの?」
隣に立って窓の外を覗こうとした男の視界に割り込んで、遮る為だけにキスをした。
「なんなんださっきからッ」
嫌がって身を引く男の手には翼も無ければ暗器も無い。
「なんとなく、」
鳥ではないけれど鳥の雛の様な男だから。
きっと今直ぐにでも。窓から、
翔んでいってしまいそうだ
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一学年下とかに転校して来るのではなかろうかと。