【あなたの力でハッピーエンドにしてあげてったー】
http://shindanmaker.com/474708

【 蓮キョへのお題 】
あなたは『もうここには帰ってこられない、って立ち尽くす』蓮→キョーコを幸せにしてあげてください。




──もうここには帰ってこられない。

生活感の失せた自室で、蓮はその既視感に、ク、と嘲笑を漏らした。

(ここに来る時もそう思った)

あの時は、家に帰れないと思っていた。
社長に連れられ家を後にした時。又は飛行機の中から見た空と海に。
帰りたいと思う資格すら無いと、誰も知る者のない街に立ち尽くして覚悟を決めていた。
それなのに、今も同じ事を考えているなんて。

(俺って成長してないのか?)

それとも、人間の本質はそう簡単に変わらないという事なのか。不思議な感慨と、決別に似た感情を抱いたまま部屋を出る。

(ああ、そうか)

帰りたい場所は家ではないのかも知れないと、キッチンに立つ後ろ姿を見て溜め息を吐いた。
何かに気づいたように振り返ったキョーコはどうかしましたかと心配を表情に浮かべる。

「敦賀さん、忘れ物ありませんでしたか?」

濡れた手をタオルで拭いながらキョーコは蓮に歩み寄る。頷いて蓮は振り返った部屋を見渡した。

「手伝ってくれてありがとう。最上さんのお陰で早く片付いたよ」
「いえ寧ろ私のせいで荷物が増えていた気がしますし、私の方が申し訳ないくらいです」

機会がある度にキョーコは借りていたと思っていたが実は蓮が買い上げていた服の数々や、食事に誘われる回数だけキョーコが増やしていった冷蔵庫の中身やら、その時々の話題に使った雑誌とか。
それらは全てキョーコの手によって、雑誌は纏められ、冷蔵庫は数日前から空にされ、服は箱に積めてキョーコの部屋に配送済みにされた。

「あちらにはいつ発つんですか?」
「明後日、かな。今夜は社長に付き合わされるから、明日最後の挨拶して回って……」

浪費だとか説教されつつそれも楽しい時間だったと蓮が思い出に浸る?耽っている横で、キョーコは自分の手帳を捲り、音がしそうな勢いで青ざめた。

「不義理な後輩をお許しくださいィィ!!」

膝を床に激しくぶつけながらキョーコはその場に土下座した。勢いで投げ出したキョーコの手帳を拾い上げて、蓮は空白の少ない予定表に感嘆する。

「気にしないで。撮影が入っているんだろう?この連ドラ、映画化も決まったって言ってたよね。おめでとう。観に…は、行けないか……?」
「米国公開予定は御座いませんんぅぅ。私めは至らない芝居屋ですぅぅ」
「落ち着いて最上さん、大丈夫だから。不義理とか至らないとか思ってないから」

後輩の躍進を労って頭を撫でると比例するように額が床に沈んでいく。これはいけないと手帳を持っていない方の手でキョーコの手を取って無理矢理立ち上がらせると、キョーコは頭を振り回して苦悩し始めた。

「いいえ!私の努力がまだまだ足りないからに決まっています!いつかきっと全米を泣かしてみせますから!」
「うん、? ……感動ものの大作映画に出演したいってこと?」

どうやって落ち着かせようかと蓮が観察しながら相槌を打っていると、キョーコの興奮が驚くほど一瞬で冷めた。

「私程度の技量で、その、烏滸がましい事を言っていると解っていますが……」

きゅ、と繋いだままの指先に力が込められて、俯いていたキョーコはがばりと顔を上げる。

「いつかは、私も……そちらに……その、渡米、出来たら、と……。今は全然全くお話にもならないんですけども!きっと、いつかはきっと、敦賀さんに追いついてみせます!」

強い感情を込めた目を煌めかせて断言する後輩に蓮は笑みをこぼすと、わざとらしく挑戦的な声音で答えた。

「それはどうかな?俺も立ち止まってはいないよ」
「それでもっ、必ず、辿り着いてみせますから……」

わかっていますと頷いて、キョーコは指先で握っていた蓮の手を両手で握手するように握り直すと、目尻を染めてそっと目線を逸らした。

「……その時は、聞いて欲しい話があるんです……」

逸らされた目は潤んで微かに震える握った指先が熱を帯びていく。
しまった手が空いてないと蓮は内心落胆してから、いやいや逆だ手が空いてなくてよかったと自制心を取り戻した。
挑戦を受けた優位者の微笑を崩さず、蓮は不自然に声が弾まないよう細心の注意を払いながら訊ねる。

「……今じゃダメなの?」
「まだ!ちょっと、今は……自信がないといいますか……」

目を閉じて葛藤するキョーコは赤面しながら、握った手をさらに強く握りしめてぶんぶん振り回しながら気持ちが変わらない自信はあるんですけどもとうっかり口からこぼしながら悶える。
蓮は振り回される手をほどかれないように握り返しながら、帰る場所のない寂しさよりも待っていられる幸せを強く噛みしめて、お互い頑張ろうねと神々しい笑顔で言う。


「キミたち、俺がいることも思い出してくれよ」

社がソファに座って片手に携帯電話を持ちながら、逆の手で手帳に予定を書き込みながら呟いた。


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ハリウッド進出する敦賀さんとまだ主演はない最上さんの、お互い両片想い自覚後だがしかし自分的に何らかの壁を越えてないからまだ駄目だ、とか縛りのあるふたり。という設定。
むしろこのテーマで誰か書いてくれと。


2016/03/18 ( 0 )






D4-R【3つの恋のお題】
http://shindanmaker.com/125562

【ヴァルアルへの3つの恋のお題】
・寝ぼけてキスをした
・目の覚めるような青
・薄暗い部屋で二人きり


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──懐かしい夢を見た。

破綻の激痛に胸を抉られ、魔力の喪失を止める術も知らず、遺された約束を守るという矜持だけが己を奮い起たせていた、魔界の最下層に墜ちる前の。
陽光の中、笑う娘の面影を。

「おはようございます、吸血鬼さん」
「……お前は死んだはずだ……」

瞬いて、娘は揶揄の表情を浮かべて笑う。

「いやだ、夢でも見ていたんですか?」

そうだとも。そんな都合のいい現実があるものか。死んだ娘が天使になって目の前に現れるなどと。
ならばどこからが夢なのだろう。
娘の死すら悪夢なら、目の前の姿を今度こそ死なせはしない。片時も目を離さず髪の一筋すら余人には触れさせたりしないのに。いっそ誰にも害されないよう何処かに閉じ込めて自由を奪ったなら娘も今度こそ少しは恐怖を覚えるかも知れない。

「─────」

手を伸ばして娘の唇に触れながら名を呼んだ事で、見開かれた目の覚めるような青い瞳に、何をそんなに驚く事があるかと急速に頭が覚醒して、捉えていた桃色の頭をうっちゃり上半身だけ飛び起きた。
実際、目が覚めた。
男と女が薄暗い部屋で二人きりだというのに満ちる空気は厭に冷たい。冷たいというかむしろ痛い。

「……吸血鬼さん。」

冷静を通り越して平坦過ぎる声が後頭部に投げ掛けられる。顔が似ると怒り方も似るのか。そもそも紛らわしい顔を持った天使が悪いのだ。

「あ、ああ。いや、天使相手に詫びて済む事ではないと思うが、お前も悪魔相手に寝込みを襲うなど不用意に過ぎるのではないか?」
「──……わたくしが悪いとおっしゃるの」
「いやッ、それは……っ!」

震える声に思わず振り返れば俯いた天使は桃色の髪で表情を隠し、細い肩が頼り無げに揺れる。
日頃金カネ言って強欲と渾名されようと紛う事無き天使であり、清い霊の娘である事に違いはない。どれだけ言い訳を連ねても寝ぼけてキスをした事実は消えはしないのならば誇りある悪魔としても男としても言い逃れはすまいと思う。

「……………………スマン……」
「ご理解頂けて恐縮ですわ。精神的損害分は後日徴収させて頂きます」

溜めに溜めてやっと吐き出した一言に、けろりとした顔で天使は応えると立ち上がって己の体の埃を払う。投げ出した時に床から付いた塵芥を落としているのだろうと予想は付くが、その前の行為を思い出すと何故かやるせない。

「……ちょっと待て、金を取るのかッ!?」
「あら?他の方法で責任をおとりになられるの?」
「ぐっ……!」

他の方法って何だ。と思うものの訊いたら墓穴を掘りそうな予感がして言葉に詰まる。どれだけふっかけられるものかと覚悟して天使の啓示を待っていると、微かに笑う女の声が耳に響いた。口元を掌で隠しながら笑っていた天使は誤魔化すように空咳をして扉へと足早に向かって行く。

「他の方には内緒にして差し上げますわ」

言い捨てて天使は廊下に繋がる扉から去っていった。
取り残された男は天使が去っていった扉を見詰めたまま暫く固まっていたが、どうやら情状酌量と執行猶予が認められたものと理解して、誰もいなくなった部屋で肺の空気を全て吐き出すほどの重いため息を出した。




「いやですわ、もう……」

閉めた扉に寄りかかり、天使は赤く染まった頬を片手で隠すように覆う。
今さらこんな思いをするなんて思わなかったと、誰にも聞こえない声で呟くと、天使は耳に残る男の声が呼んだ女の名を深く刻み込むように、重く長い息を吐いてから顔を上げて、振り返る事無く吸血鬼の自室を後にした。


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ヴァルアルではなくヴァルブル(仮)でしたが。


2016/03/18 ( 0 )





【幸せにしてあげて】
http://shindanmaker.com/524738


【 カイト×リン 】

・貴方は自分の実力を最大限に使って『左手の指輪をうっとり見つめているカイト』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
・貴方はなんかかきたいと思ったら『唇を尖らせて拗ねている相手をかわいいと思ってるリン』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。


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唄う事を生業にした、存在自体が唄う為にある少女は、酷使した喉を潤す為に廊下に出ると備え付けられた自動販売機に硬貨を入れて光るボタンを押した。

「ねぇGUMIちゃん」
「何だいKAITO君」

陰鬱な表情でずっと自販機に寄り添っていた青い男に名を呼ばれ、少女はめんどくさそうな空気を悟ったが一応聞き返してあげた。

「この前、がっくん何か言ってた?」
「キミんちの双子の妹の方と出かけていたよ」
「知ってる。……他には?」

自販機からサイダーを取り出して、GUMIは数日前の兄とのやりとりを思い出しながら言う。

「んー?妹として見習えとかなんとか言われたかな。可愛かったんじゃない?」
「wVu:wVu:wVbh@U」
「──ため息、だと……?」

自販機の側面にへばりついたままカイトは人ならざる音を喉から絞り出すと額を自販機にぶつけながら愚痴る。

「がっくんカッコいいもんねぇぇーどうしようリンちゃんにがっくんの方がいいとか言われたらもう」
「ウチのお兄ちゃんは右側だから関係無いと思うけど」
「え?右?」

いるの?とカイトが振り返ると、ちょうど廊下の角から白いリボンと黄色い頭が飛び出してきた。

「見つけた!カイト兄ー!」
「あれ?リンちゃん?」

長い廊下を全速力で駆け抜け全力で飛びかかったリンを、カイトは両腕で受け止めきれず腹に頭突きを食らっていたがGUMIは見なかったふりをした。

「どうかした?何かあったのかい?」
「あのね、プレゼントがあるの!一番最初に渡したかったのに、起きたらカイト兄いないんだもん」

マフラーを引っ張りながら訴えるリンに首を絞められながらカイトは視線を合わせようと前屈みになる。同じ目線の高さに満足したリンは、マフラーから手を離してポケットを漁りながら言った。

「がっくんに手伝ってもらって、リンが選んできたんだよ!」
「え?…あ!そ、それならそうと言ってくれれば」
「ヤキモチ妬かなくて済んだのに?」
「べ、別にそんなんじゃないんだからねっ?」

GUMIの言葉を疑問符で否定しながら、なんだーそっかぁーとあからさまに安堵しているカイトをさらりと無視してリンはポケットから小さな箱を取り出した。カイトの顔の前に両手で持ち上げると蓋を開く。
中には煌めく指輪が鎮座していた。
ヒッ、と息を呑んだ音が二つ。

「ハッピーバースデー!カイト兄、幸せにしてあげるからね!」
「ああああありがとう、でも逆だよね!いろいろと!」

未成年の少女には高価過ぎる中身に青ざめたGUMIにどうにかしろと肘でどつかれながら無言で促されて、重すぎるプレゼントに真っ赤になったカイトは焦った勢いで目の前の蓋を閉めた。
大人たちの動揺など気付かずに、だって待ってらんないんだもん!とリンは歯の隙間からニシシシと笑う。

「いやいや、待ってえっと、リンちゃんにやられると、年上とか、男としてっていうか、僕の面子みたいなものが……」
「想定内!凹め!」
「えぇー!」

溌剌とした笑顔でリンに言われ、カイトはひどい、とちょっと半泣きになった。唇を尖らせて拗ねているカイトを見つめ、リンは陶然とした表情で、同じように唇を尖らせて涙目のカイトの顔に近づいていく。

「かわいいカイト兄かわいい」
「まままってまってリンちゃんそれはアウト」
「通報しようか?」
「やめて!」

真顔のGUMIに訊ねられカイトは風を切る音を出して首を振りながら即答する。

「あっ!そうだ、カイト兄、手ェ出して!」
「えっ、あっ、いいけど……」

指輪の箱をカイトに押し付けて、リンはカイトに手を差し出す。カイトは半ば呆然と、差し出された手に手を伸ばした。

「手ェ出すの?通報しようか」
「そーゆー意味じゃないから!」

親指と小指を突き出した拳を顔の横で軽く振りながら真顔のGUMIに再び訊ねられカイトは更に鋭く風を切りながら首を振って否定する。
その間にリンは、押しつける前に箱から取り出しておいた指輪をカイトの左手の薬指に嵌めた。
それはちょっと本気で男の沽券に関わるとカイトが慌てて口を開いたが、声を出す前にリンは指輪を嵌めた手を持ち上げてその甲にキスを落として微笑んだ。

「いつか、お嫁にきてねカイト兄」

男前な笑顔をうかべるリンを左手の指輪越しにうっとりと見つめ、カイトはうっかり頬を赤らめて、はいと頷いていた。

「これが不憫か」

思わず本音が口から零れてしまったGUMIは誤魔化すようにサイダーを一気に飲むと、全部持っていかれたヘタレが我に返って鬱全開になる前にさっさとその場を後にした。



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どうでもいい設定ですけどGUMIはボクっ娘です。そしてリンカイじゃないつもりなんです。


2016/03/18 ( 0 )






【無理矢理キスしてみたー】
http://shindanmaker.com/183568

ディスガイア4R(ヴァルアル)
⇒天使が暴君を押し倒して唇を奪うと無感動な醒めた表情でじっと見つめられました。


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物音がした気がして、開かない瞼を無理矢理に開ける。朦朧とした視界の中で閉めた筈の窓が開け放たれカーテンがたなびいていた。
ベッドに沈んでいたいと抗う半身を無理矢理起こして瞼を擦っていると、ひやりとした空気が首筋に流れて思わず首をすくめ、背後を振り返る。
闇の中浮かび上がる二つの赤い光が瞬いて、ひとの形をした誰かの瞳だと知れた。
暗闇の中から伸びてきた腕は異様に白く、首に回された指は上等の絹の滑らかさを持つけれど屍体のように冷たい。

「ヴァルバトーゼさん……?」

名を呼ぶと指は一瞬身じろいだように跳ねたが、再びゆっくりと首に伸ばされ脈を探るように蠢く。
再会を果たしてからの吸血鬼は偶に、脈を確かめたり体温を感じたり、生きている証を探るような仕種をするから、今も敢えて妨げはしなかった。

「窓……閉めて下さいって、言いましたのに……」

宵闇に語られる者として窓からの侵入は礼儀だと胸を張る青年に、誰が開きっぱなしの窓を閉めると思いますのと責めたのはまだ記憶に新しい。
無意識に閉じようとする瞼と戦っている間に、窓が閉じられた音が耳に届いて、じゃあ無理に起きなくてもいいかしらと睡魔に抗うのをやめた。
鉛のように重く感じる腕を上げ、傍にいる筈のひとを探す。支えるように触れてきた手を引いてベッドに再び沈むと待ちわびた弾力に全身から力が抜けた。
柔らかい何かが唇を掠めたが、すぐ側で息を飲んだような硬い気配がして、悪戯が成功したような笑いが込み上げてくる。

「今夜は、しませんからね……」

昼間、今日はきっと徹夜になると彼が言ったのだ──だから待たなくて良いと暗に言い含めるように。
別に期待していた訳ではないけれど、否、期待は少なからずしていたし気分も落ち込んだりしたけれど、それは二人きりになれる機会が消えた事に対してであって、そんな、男女のアレやコレを想像したりなどしていない。ええ、決して、そんなことは考えたりしていません。
だから、女性の寝室に無断で侵入するような不埒者には、触れられても耐えるだけ、触れる事は許さないくらいの罰はあって然るべきなのだ。
いつからか、こんな態度をとってもきっと彼は怒らないと知っているから、彼の優しさに甘える事を覚えた。悪魔に優しいなんて言ったら、また怒られるかも知れない。惜しむらくは胸に耳を当てても心音が聞こえないことだろうか。
うつらうつらと伸ばしていた腕を引き戻しているとするりと指に髪が絡む感触がした。反射のようにくるりと指に遊んでしまう。
吸血鬼さんの髪が指に絡まるなんて、こんなに長かったかしら、ああでも昔は髪も長くて、上背もあって暴君の名に相応しい姿をしていらして、正に今その姿を目の当たりに──

「え」

かち。と音がしそうな程、紅い瞳と目が合った。それは部屋に置かれた時計の音だったのかもしれないが、眠気を飛ばすには充分の衝撃をもたらした。

「えっ?」

血を吸って昔の姿に戻ったのならば喜ばしい事だけれども、約束を大事にするひとが自分以外の血を飲むだろうか。
心臓が激しく脈打ち、頬が尋常ではない熱をもち始めた。もう現実を理解しているが思考が追いつかない。
先日、過去からの来訪者を受け入れた党は騒然とした。生ける伝説と化した、魔界最強と謳われていた吸血鬼が当時の姿そのままで地獄に現れたから。自分も、仲間たちに囲まれている彼を懐かしさと申し訳ない気持ちで眺めたのを覚えている。その彼が。
自分の体の下から無感動な醒めた表情でじっと見つめていた。

「きゃぁああああああっ!?」




夜食を探しに調理場を訪れていたヴァルバトーゼは悲鳴を聞いて、イワシを片手に廊下に飛び出した。暗路を足音高く駆け抜けてきた天使の姿に手を差しのべて呼び止める。

「アルティナ!? 何事だ……ぶッ!?」

吸血鬼の腕のなかに飛び込んだ天使は間髪を容れずその青白い頬に平手打ちを喰らわせると潤んだ目で睨め上げて震える声で詰った。

「あなたがそんな方だったなんて!見損ないましたわ吸血鬼さんッ!!」
「はァッ!?」


勘違いだった己の所業に赤面が止まらないまま八つ当たりする天使と、状況が全く理解出来ないまま打たれた上に天使に密着されて異様に狼狽える吸血鬼は、駆けつけた人狼の執事が止めに入るまで二人でじたばた騒いでいた。

そして暴君は、彼の下僕がその存在に気づくまで沈黙を守って佇みながら、未来の己の醜態を無感動な醒めた表情でじっと見つめていた。



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] 暴君 → ○ 閣下

そもそも変換する字を間違えた、という話。


2016/03/02 ( 0 )





十二国【誓約前日】マギ

「ぃよう、バカ殿ー!元気かー!?」

馬鹿呼ばわりされた男は開けたばかりの房室の窓を閉めて溜め息を吐いた。
何してんだよ、と破壊しそうな勢いで開け直した窓から黒髪の少年が室内に侵入する。
何すんだよは此方が言いたい。二階の窓を開けたらいきなり人間が浮いていて驚くなと云う方が無茶だ。そんな厄介な者の相手などしていられない。
そう結論に至った男は窓から帰って頂こうと少年を外に押し出そうとするが、少年はそうはさせじと男の腕に絡み付いて喚き立てる。

「わざわざオレ様が会いに来てやったんだぞ!? なぁ、オレと世界せーふくしようぜー?」
「しない。放せ」
「何でだよ!しようぜ!絶っ対ェ楽しいからさ!」
「楽しくない」
「なんだよつまんねぇーなァー!バカ殿のバーカ!」
「馬鹿はおまえだ」
「ハァ?何言ってんの?オレ、バカじゃねェし」
「シン」

卓子に茶器を並べて催促する連合いに相槌を返して榻(ながいす)に座る。腕にくっついたままの少年も一緒に、隣に腰を下ろして茶杯を手渡されていた。この少年は口に何かを含んでいる間だけ静かになる。

「なぁ、ジュダル」

声をかけると嬉しそうに首を傾げて見上げてくる顔は、ただの無邪気そうな少年にしか見えない。

「世界征服って、どうやって」
「戦争だよ。当たり前だろ!」
「やっぱりこれ偽物じゃないかなジャーファル君」
「立派な黒麒麟だったじゃないですか。腹まで真っ黒な」
「そうだそうだ。おまえが信じないから麒麟の姿も見せてやったのに」

格好よかっただろとジュダルは自慢気だが、今のは嫌味を言われたのだと教えてやるべきか。否、黙っている方が平和だろう。

「戦争を勧める仁の生き物がどこにいるんだ…」
「やっぱりバカだなーバカ殿は!目の前にいるじゃねーか」
「とにかく断る。王様を探すなら他を当たってくれ」

空になった茶杯をジャーファルに手渡して、青楼にでも行こうかなと立ち上がる寸前、肩に衝撃を受けて榻に倒された。何事かと見上げた視界の端で放り投げられた茶杯をジャーファルが周章てて受け止めていた。
真正面にはジュダルが馬乗りで、至近距離から見下ろしてくる。

「オレはおまえがいいんだよ!なぁ、オレのものになれよシンドバッド!」

そんな必死な顔で、欲を含んだような目をして──胸座を締め上げて言う言葉ではない。

「何してんスか、あれ」
「揺らいでるんですよ」

シンドバッドの腕はジュダルの腰に触れない位置で固まり続け、正直マスルールはあの手は変態臭いと思ったが、関わらない方がいいという先輩の忠告に従う事にした。


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マギの十二国記パロ、一番最初に書いたヤツです。


2016/02/05 ( 0 )




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