十二国【誓約前日】マギ

「ぃよう、バカ殿ー!元気かー!?」

馬鹿呼ばわりされた男は開けたばかりの房室の窓を閉めて溜め息を吐いた。
何してんだよ、と破壊しそうな勢いで開け直した窓から黒髪の少年が室内に侵入する。
何すんだよは此方が言いたい。二階の窓を開けたらいきなり人間が浮いていて驚くなと云う方が無茶だ。そんな厄介な者の相手などしていられない。
そう結論に至った男は窓から帰って頂こうと少年を外に押し出そうとするが、少年はそうはさせじと男の腕に絡み付いて喚き立てる。

「わざわざオレ様が会いに来てやったんだぞ!? なぁ、オレと世界せーふくしようぜー?」
「しない。放せ」
「何でだよ!しようぜ!絶っ対ェ楽しいからさ!」
「楽しくない」
「なんだよつまんねぇーなァー!バカ殿のバーカ!」
「馬鹿はおまえだ」
「ハァ?何言ってんの?オレ、バカじゃねェし」
「シン」

卓子に茶器を並べて催促する連合いに相槌を返して榻(ながいす)に座る。腕にくっついたままの少年も一緒に、隣に腰を下ろして茶杯を手渡されていた。この少年は口に何かを含んでいる間だけ静かになる。

「なぁ、ジュダル」

声をかけると嬉しそうに首を傾げて見上げてくる顔は、ただの無邪気そうな少年にしか見えない。

「世界征服って、どうやって」
「戦争だよ。当たり前だろ!」
「やっぱりこれ偽物じゃないかなジャーファル君」
「立派な黒麒麟だったじゃないですか。腹まで真っ黒な」
「そうだそうだ。おまえが信じないから麒麟の姿も見せてやったのに」

格好よかっただろとジュダルは自慢気だが、今のは嫌味を言われたのだと教えてやるべきか。否、黙っている方が平和だろう。

「戦争を勧める仁の生き物がどこにいるんだ…」
「やっぱりバカだなーバカ殿は!目の前にいるじゃねーか」
「とにかく断る。王様を探すなら他を当たってくれ」

空になった茶杯をジャーファルに手渡して、青楼にでも行こうかなと立ち上がる寸前、肩に衝撃を受けて榻に倒された。何事かと見上げた視界の端で放り投げられた茶杯をジャーファルが周章てて受け止めていた。
真正面にはジュダルが馬乗りで、至近距離から見下ろしてくる。

「オレはおまえがいいんだよ!なぁ、オレのものになれよシンドバッド!」

そんな必死な顔で、欲を含んだような目をして──胸座を締め上げて言う言葉ではない。

「何してんスか、あれ」
「揺らいでるんですよ」

シンドバッドの腕はジュダルの腰に触れない位置で固まり続け、正直マスルールはあの手は変態臭いと思ったが、関わらない方がいいという先輩の忠告に従う事にした。


-------------
マギの十二国記パロ、一番最初に書いたヤツです。



2016/02/05 comment ( 0 )






戻る



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -