十二国【ふたりへのお題ったー】マギ
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【 シンジュへのお題 】

・てのひらに飴玉
・「泣き顔がすきだな」
・かみさまのいうとおり



──廉麒失道。

廉王シンドバッドが、その青鳥(しらせ)を受け取ったのは土匪と和解したその夜、義倉を解放しての宴の最中だった。

王の説得で王師に降り、今では王の深慮とその治世を誉めそやしていた首魁の男は、口を開けたまま動かなくなった。
王の膝の上で杯に酒を注いでいた女は酒器を傾けたまま凍りつき、注ぎ口から垂れ流しの酒で王の服が濡れたが誰も気づいていないようだ。
報告をしたピスティは酔っているのか仄かに赤らんだ頬を愉快そうに緩めている。

「まさか。冗談だろう?」
「青鳥は国府からなのにー」

シンドバッドが笑って答えると、ピスティは唇を尖らせて嘘じゃないですよと笑った。

「お前を疑っている訳じゃないんだが…」
「あれ〜?飲まないんすか〜?」

ふらふらと揺れながら歩いてきたシャルルカンが、シンドバッドの傍で凍りついたままの周囲に首を巡らして何かあったのかと問う。ピスティが笑みを溢してそれに答えた。

「台輔が失道したんじゃないかって青鳥が来たんだよ」
「マジで!? そうか〜遂にか〜」
「お前達、信じるのか?」

驚いたように瞬いてシンドバッドは二人を見るが、王の予想に反して臣下の視線は冷たかった。

「だって主上、その格好」
「酒池肉林以外の何だって言うの?」

言われて、周章て膝から降りた女性が平伏すると波が引くように周囲の頭が下がっていって、その場に立っているのは官吏二人だけだった。軽く拒絶されたような振る舞いに王は少し切なくなって、問いかける声もきつくなる。

「ちょっと浮かれてたのは認めるが!女性と仲良く酒を飲むのが天命を失う程の罪か!?」

当たり前だこのバカ殿、浮気者ー!と、妙にはっきりとした幻聴と共に赤い目を吊り上げた顔が思い浮かんで、シンドバッドは何もない空間に追い払うように手を振った。

「うーん…失道はさすがに無いと思う。王様に置いていかれたから拗ねてるのかな?」
「俺は真実に賭けるぜ!」

シンドバッドの奇怪な行動など無視してピスティは呟き、酔いのせいで声が大きいシャルルカンが財布を取り出して音を立てて卓子に叩きつける。

「俺が死んでもいいのかお前は」
「勿論、台輔の快癒を疑っておりません。我が王よ」
「王様は〜?」

膝までついてきっちりと礼をとるシャルルカンにシンドバッドは呆れ、ピスティは懐から出した自分の財嚢とシャルルカンの財嚢を麾下に預けながら、どうするの?とシンドバッドを見遣る。

「勿論、ピスティに」

のる、と財嚢を持っていない王は酒杯を捧げるように軽く挙げてから卓子に置いた。
では一月で、と二人が供手して話は成立した事を示し、財嚢を押し付けられた麾兵が不謹慎ですと責める口調で言ったが誰にも聞き入れられず、静まり返った宴は終了した。




「お戻りなさいませ」

王宮に戻ると冢宰を筆頭に整然と並んだ官吏に出迎えられて、シンドバッドは並んでいた諸官を労いながら、軽々と登壇し玉座に座る。

「顔色が悪いぞ、ジャーファル。また徹夜か?」
「主上が仕事を残して反乱の鎮圧に行ってしまったもので。ええ、四日くらいの徹夜など大した事ではありませんとも」
「すみませんでした…」

棘のある声音で目の下に隈を浮かべながら微笑む冢宰に、国王は冷や汗を浮かべて素直に謝罪を口にした。
土匪鎮圧の報告と内政処理の判断との情報を何事もなく交わし終え、その早さに違和感を覚えたシンドバッドは、何時もなら飛び出してきて騒ぎ立てる人物が今日は気配も無い事に気付いた。

「……ジュダルはどうした?」
「…台輔は、体調が優れないと報告があったような…?」

自室に篭って徹夜していたジャーファルも詳細は知らないらしく、ジャーファルの警固についていたマスルールが代わって言葉短く肯定を返した。
仮病に賭けていたピスティは、財布を握った麾下をシャルルカンから遠ざけつつ、まだわからないよと渋っている。
確認がてら見舞いに行くかと、向かった仁重殿は異様に静まり返り、臥室まで行くと牀榻に動かない黒髪を見つけてシンドバッドの声も思わず大きくなる。

「ジュダル!」
「…おまえ、おそい……」

踞って寝ていたジュダルは顔だけ仰向けて、シンドバッドを見る。貼りついた前髪で表情がよくわからず、覗き込もうと寝台に置いたシンドバッドの手にジュダルが擦り寄って、疲れたように吐息をついた。その触れた肌の冷たさに深刻さを悟る。

「何があったんだ…?」
「おまえがオレを置いてった」

あんだけ言ったのに、と恨みがましく見上げてくるジュダルにシンドバッドは溜め息をつくしかない。
戦争するなら一緒に連れて行けとせがまれたが血の穢れで病むような生き物を軍場に連れて行くのもどうかと、思いやっての行為を責められた。
堂室の外では、したり顔のピスティがシャルルカンの脇腹を肘でつついていた。

「すまなかったな、ジュダル」

宥めるように頭を撫でてやればジュダルは小さな声で文句を呟いていた。聞き取れず、身を乗り出したシンドバッドの爪先が何かを蹴った。
見れば何かの骨──明らかに食後の残骸にしか見えないものが、褥の下から幾つも転がり落ちていく。

「……ジュダル?」
「…………知らねェ」

笑顔で訊ねれば、ジュダルは顔を背け不機嫌な声を返したが、逸らした視線は動揺して泳いでいる。
頭を撫でていた手のまま、シンドバッドはその頭蓋を鷲掴む。

「お前の身体に肉は毒なんだと何度言ったら理解するんだ!」
「痛ぇー!放せバカ!嫌いだっつってんのに、野菜ばっか食えるか!」

さっきまで弱っていたのが嘘のように暴れるジュダルに、シンドバッドは掴んだ頭を投げ捨てて、好き嫌いの問題じゃない、ちょっとそこに座んなさいと母親みたいな説教を始めた。
堂室の外では、あぁー、と失意の息を吐くピスティとシャルルカンの財嚢を預かりながらジャーファルが、王の禁酒を取り付けたのは上策でしたと二人の落とした肩を叩いて労った。



Q.台輔の不調の原因は?
∴食肉による胃もたれ。


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桃≧王>肉>>>野菜くらいの麒麟です。
麒麟ですから「肉美味い」って自分から食べておきながら後で「オェッ」てなります。
覇王は腐らないけど桃は傷むので、桃の方が大事です。

禁酒して浮いた酒代がお小遣いとして配当される仕組みでしたが、内容が不謹慎故に冢宰に徴収されました。
pixivから再録。



2016/01/10 comment ( 0 )






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