朝、目が覚めると赤竜が幼女になっていた。


『どんな深化だ』
「五月蝿い」

呆れた声の男は溜め息を吐いて、握っていた妖精を放り捨てた。
男の握力か、腹筋と横隔膜の酷使によるものか、地に落ちた妖精はぴくりとも動かない。
踏みつける勢いで歩き出した男の足から妖精の半死体を庇うように伸びてきた盲目の男の手は無言の男に躊躇なく踏まれた。

「ちょっと待て!」

背中を丸めて蹲っていた赤竜と言い張る少女が立ち上がって怒鳴る。

「折角、ではなくてだな。わざわざ、我がこの様な有り様になったのだ、何かあるだろう!? ないのか!」
『…? こんな姿とは』

無表情でふり返る男に竜だった少女は、仁王立ちながら怒りと恥辱に打ち震え、男の視線に耐えきれず顔をそらした。

「っ…、…誇りある竜である我が、人間の姿なぞに…」
『ああ、そういう……』

男は顎に手をあてて思案する仕草をすると、間を置かず幼女の元まで引き返した。逃げ出そうとする本能に抗いその場に立ち尽くしていた少女を、軽々と横抱きに抱え上げる。

「ぉわッ!? なっ、何をする!我は竜ぞ、軽々しく持ち上げるなどっ…………た、確かに竜のままでは不可能だが、そうではなくてだな、その……、…………おい、何をして…、待てお主どこを触っ……ッ!ちょ、やめッ……!…………!」

顔を真っ赤に染めた少女は男の腕の中で文句を言っていたが、抱えられたままテントの中に消えていった。
抗うような声に、竜の姿で出来ない事と言ったらこれしか思い浮かばないが、と冷静な男の心情の吐露が割り込み、テント内の状況を予想した盲目の男は裏の林に逃げ込むべく身を翻した、直後、聞いた事もない獣の咆哮のような声が一帯の空気を震わせ、森に木霊した。
鈍い音と男の呻き声も聞いた気もするが、盲目の男は驚きと畏怖に思わず身をすくませる。

「こんな処で純潔を散らしてなるものかー!」

テントから飛び出した少女はそう叫びながら、服を乱したまま涙目で走り去っていった。
盲目の男は立ち尽くし、声を失った男はテントから出て来ない。

どうやら気も失っているようだ。



朝、目が覚めると幼女は赤竜に戻ってい。


『……深化って何だ』
「五月蝿い」

呆れた声の男は溜め息を吐いて、赤竜は首を丸めて蹲ったまま目もやらずに吐き捨てた。
美味しそうな目をする女やら匂いを嗅ごうとする男やら何事にも絶望する爺やら、竜もある意味で身の危険を感じたのかも知れない。
一人で納得して、男は顔を洗いに水場に向かう。その背中に視線を感じて何か用かと思念で問えば赤竜は、昨日の、と言葉尻を濁した。

「……あの、姿を……惜しいと思うか?」
『何故?』

男は濡れた顔を拭いながら平然と言葉にした。


5. 今のままで十分可愛い



「ばっ、馬鹿者め!馬鹿者!」
『? 何故2回言う』


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大小の問題ではなく気にしてるという事が重要だ、という話。
女神になれるということはつまりそういうことだろうという大半が下ネタになる謎。




2015/12/30 comment ( 0 )






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