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D Pussy cat, pussy cat,
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小十郎に訊ねれば初めから知っていて今更と呆れられた。仕方無い、あの男との勝負が始まってしまえば他は目に入らなくなるのが常だ。思い出した今ですら、そういえば居たな、ぐらいの印象だ。

「政宗!」
「Ah?」

呼ばれて室内に振り返るが誰もいなかった。
人の気配がした気がしたが、何だったのかを確かめる前に庭から顔を出した成実が一人勝手に喚く。

「あいつがいなくなった!」
「あいつ?」
「あの怪我してた奴!」
「見張ってろっつったよな?」
「! いや、だからその」

あたふたと言い訳する成実を放置して、佐助の部屋に行く。襖を開いた瞬間、目の前にのけぞった佐助が立っていた。

「わ。びっくりした…」
「あってめぇーっ」

後からついてきた成実が佐助に詰め寄る。

「何処行ってたんだよ!」
「え?厠?」
「なっ…んだ、そうなのか?」
「納得すんな」

あっさり騙される成実に佐助は笑いながらも肯定するように頷く。目が合うと肩を払う様に叩きながら愛想よく笑った。

「お仕事放っぽり出していいのかな?」

さっきの部屋での気配はこいつかと、思ったら無性にこの扁平顔を歪ませたくなって唇に噛み付いた。

「え。痛っ、ンんっ?」

佐助は腕の力で無理矢理剥がれると、小さく噴き出した。佐助の視線を辿れば、成実が手で眼を覆いながら指の隙間から覗いていた。

「成実、house」
「うぁっッい!」

成実は大声で返事をし、気を付けをしてから、ばたばたと走って逃げていく。成実には最後まで構わず、佐助を部屋に押し戻して組み敷いた。

「ん、っーと、一応病み上がり、なんだけど…」

一瞬顔を顰めたが恐らく押し倒した背中の傷が痛んだだけだろう。押さえ付けた腕は抗いもしない。

「嫌がらないのかよ」
「女の子に比べたら嫌だけど」

別に初めてでもないし、と唇を尖らせる。

「誰かと違って、泣いたって庇ってくれる人もいないしねぇ」

そんな事を言って、不満があるならそんな場所に自ら戻ろうとするものか。
なんだかつまらない上にムカついて気が殺がれた。押さえていた手を放し身を起こす。

「あいつの何がそんなにいいんだ」
「あんたが言うの?」

思わず出た言葉に失態を感じる前に言い返された。
誰とは言及していないと目で訴えると佐助はあからさまに顔を顰める。諦めた様に笑って、しまったなと呟いた。

「内緒にしてね」
「ぁあ?」
「独眼竜のおうちにお泊まりしてきたなんて言ったら、減給されちゃうし?」

本気かどうかは怪しいが、知られたくはないらしい。麾下に傷をつけたと教えてやったらあの男はどうするだろう。そしてこの男は。

「どうすっかなァ…」
「ちょっとー。馘にされたらどうしてくれる」
「オレが飼ってやるよ」
「冗談だろ?」

へらへら笑う佐助に言われて、目が覚めた様な感覚がした。本気で言った訳じゃないが冗談ではなかった。
顔を近付けられて迂闊にも身構えてしまう。その隙に横をすり抜けて、部屋から出て行こうとした佐助の腕を掴もうとしたが触れる前に反射の様に手を引いた。

今捕まえれば帰したくないと縋ったようになる。逃げきられると判っていてそんな醜態を晒せるか。手に入れるなら必ず、残らず全て奪ってやりたい。今は逃がしてでも。

「…次はねェぜ」
「…分かってるじゃん」

次の機会など無いと、笑って佐助は歩いて部屋から出て行った。確かめたりはしないが、もう廊下に姿は無いだろう。
自分でもアイツの何にそんなに拘っているのか解らないまま、もういない部屋の中で二度目の邂逅をどう誑かしてやろうかとそんな事ばかり考えていた。


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Pussy cat, pussy cat,
Wilt thou be mine?
Thou shalt not wash dishes
Nor yet feed the swine,

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2014/11/07 comment ( 0 )






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