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C Fa, la, la, la, lal, de;
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日中に休んだからか目が冴えていた。
なんとなく夜の庭に目をやると朱い色が浮かんでいた。朱い髪の男が堂々と一人で歩いている。
歴とした忍びなのだが客人のような扱いな上に成実と戯れてばかりで、味方では無い事実を失念したようだ。
男はあてがった部屋に面した庭に立ち、腕を伸ばす。
「…どうしたの」
腕の中に飛び込んできた黒い影に驚きもせず呆れたような声で言った。いつかの烏だと勘で思った。
朱髪に声を掛けようとする寸前、空から男の声が降って来た。
「佐助」
「…才蔵ォ?」
思わず身を潜ませて目をやれば屋根の上に人影があった。驚いたような声を出して朱髪は見上げる。
「どうして」
「探した」
「ッ、旦那は」
焦ったような声で言う朱髪に、屋根の影は動かない。
余りの静かさに乱波はどうしたのだろうと思ったが、予想はついた。
「心配してる。怪我を?」
「そ、んな」
事じゃなくて、と呟いたあと、朱髪は暫く沈黙してから屋根を見上げた。
「まだ駄目だ」
「佐助?」
「手ぶらで帰るなんて冗談じゃないよ」
影は、わかったと溜め息のように返答した。
陰で一人、佐助と口の中で自問する。やはり知っている様な気がする。
「才蔵」
朱髪に呼ばれて屋根の影は振り向いた様に揺らいだ。
「……任せた」
「承知」
屋根の影が消えてから、烏も夜の空に消えていった。
それらを見送ってから、佐助と呼ばれた男は部屋へ戻ろうと身を翻し、こちらに気付いてわざとらしく目を見開いた。
「あれ?いたの?」
「帰ればいいだろ」
あれだけ自由に動き回っていたのだから、城内の見取り図なり状勢なり諜報し放題だったくせに。
「…だって…」
伏し目がちに目尻を染めて口ごもる。ふわりと朱髪が揺れた。
「ご飯が美味しいんだもん…」
「意地汚ぇな!」
「冗談だよ」
いや美味しいけどね、と笑いながら頭を掻く佐助は裸足だった。
素足でも外に出られると、考えていなかった事に気付いた。
「帰っても疵物で役に立たないなんて格好悪いし」
「…あれだけ帰りたがったくせに?」
「そうだよ?」
ひらりと表情を変えながら、悠々と部屋に戻ろうとする佐助の手を思わず掴んで引き止めた。
「…なに?」
何か苛々する。今までと今とで空気が違う。纏う、気配が。浮かれて。
迎えが来て、心配されて。主人に。
「惜しまれて上機嫌か」
一拍置いて、月明りですら分かる程赤くなった。
「、まさか」
手を振りほどいて逃げた。
背を向けて、逃げる。赤い髪の。旦那、の忍び、の。佐助。
「……あいつか」
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Ther were two birds sat on a stone,
Fa, la, la, la, lal, de;
One flew away, and then there was one,
Fa, la, la, la, lal, de;
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