制御不能2* 「や、やだイかないで、中はだめ……ッ」 「そんなに嫌かよ」 「当たり前……んっ、あ、ぁあ、」 「あ、そう。じゃあ───"コレ"、鈴原に送っちゃおうかな」 「……え?」 律動を緩めながら、竹井は私の前にスマホの画面を持っていく。そこに映し出されていた映像に、言葉を失った。 「───なっ……、」 『あっ、あん、やぁ……んッ』 『ほら、わかんだろ。北川が欲しがってる証拠だよ』 『あ、あぁ、た、けいっ……あっ……!』 「……なんで、」 スマホの媒体から流れる、卑猥な会話と淫らな音。いやいやと首を振りながらも、必死に竹井を求めている私の姿が瞳に映る。私達の行為が鮮明な画質で撮られていて、酷い嫌悪感に襲われた。 直視するのも耐えられなくて視線を逸らす。心臓が痛い。いつ、いつの間にこんなの撮ったの。何のために、私を脅すため……? 「どーする? これ鈴原に送ってもいい?」 「やだっ、お願いやめて……っ!」 「なら言えよ。中に出してって」 「……っ、」 ……最低。最低最低最低。なんでこんな酷いことするの。なんでこんな辱しめを受けなきゃいけないの。責めたい気持ちはいっぱいあって、でも、今はそれどころじゃない。私のナカを行き来する竹井の陰茎は脈動すら感じ取れるくらい張りつめていて、今にも欲望を吐き出したいとばかりに猛然と腰を振るい始めた。私自身も、絶頂の波がすぐそばまで来ているのがわかる。 中に出されるなんて絶対に嫌だ。妊娠が怖いし、そもそも竹井とは、何もかも全て捧げられるような関係じゃない。 でも、鈴ちゃんに動画を送られるのも嫌だ。 「……だして」 鈴ちゃんは私にとって、かわいい弟みたいな子。 好きな人に一直線で、純粋で、素直に想いをぶつけられる姿が私とは違って眩しくて。 大好きで。 「……中に、出して。……っ、お願い……」 ……あの人懐っこい笑顔が、嫌悪に歪むところなんて見たくない。 「……んッ……!」 急に頭を掴まれて、顔を後ろに向けられて。竹井の唇が強引に、私の唇を無理やり奪う。隙間をこじ開けて侵入してきた熱い舌が、私の舌を絡ませながら口内を蹂躙する様を受け入れた。 夢中になってキスに応じる。貪るような口づけを交わしながら、竹井は一度も速度を落とすことなく、猛然と腰を振っている。喘ぎ啼く声は竹井の口内にかき消され、肉を穿つ音と濡れた音だけが、質素な空間にぶつかりあう。唇が離れると同時に、一筋の唾液がだらしくなく顎を伝った。 「っ、は……ッ、もう、出すから」 「あ! あっ、待っ、やだイっ……! ああぁ、あッ!」 「……くっ、」 盛んに腰を使う竹井の動きが一層激しさを増す。一思いに陰茎を奥へ押し込んでから、ぴたりとその動きを止めた。 膣内にじんわりと広がる熱。迸る液が、温度を伴って子宮を汚しているのを感じ取る。そして竹井の後を追うように、私の身体も深い絶頂に見舞われた。 ・・・ 酷い倦怠感だった。 身体が重くて動かない。後処理を済ませた竹井がソファーから離れ、支えを失った私の身体は、力尽きたように背もたれに倒れかけた。 ズルズルと虚しく崩れ落ちる。中心からドロリとしたものが溢れ出る。それが何かなんて、確認しなくてもわかっていた。 背後では竹井が、床に散らばった私の衣服を拾い上げていて。無造作にソファーへと差し出してきた。 「……ほら。スマホも返すから」 「………」 「北川」 「……ひどい」 ぽつりと呟いた悪態の言葉に、竹井の手が不自然に止まる。私は竹井に背を向けたままぐったりしている状態で、彼の顔を見れなかったし見る気にもならなかった。 身体の火照りが引いていくと同時に様々な感情が込み上げてくる。怒り、悲しみ、失望、どれもこれもが負の感情で埋め尽くされた。 「何で、こんなことするの……」 目頭が熱くなる。涙が溢れて零れ落ちそうになった時、突然後ろから二の腕を掴まれた。力任せに引っ張られて、至近距離に迫っていた竹井の顔が傾く。 「……!」 互いの唇が重なり合う。驚きで目を見開く私は抵抗もできず固まっていて、竹井はソファーに片足を乗せて、私との距離を詰めてきた。 背もたれに身体を押し付けられ、何度も角度を変えながら震える唇を唇で塞ぐ。 「ん……っ、」 切羽詰まったようなキスが悲しくて、切なくて胸が痛む。でも拒むこともできなくて、静かに瞳を閉じて竹井のキスを受け入れた。 一粒の滴が頬を伝い落ちていく。瞳を薄く開けば、涙で霞んだ視界の先に竹井がいる。切なそうに瞳を細めている顔を見た瞬間、ぎゅっと胸が強く締め付けられた。 「……今日、」 唇を触れ合わせながら、竹井が甘く囁く。 「あとで、部屋に行くから」 「………」 「プロポーズの返事、聞かせろよ。ベッドの中で」 二の腕を離されて、身体が解放された。 竹井が静かに立ち上がり、私に背を向けて去っていく。パタン、と扉が閉まると同時に全身の力が抜け、膝から一気に崩れ落ちてしまった。 ぽたぽたと涙が頬を濡らす。 徐々に小さくなっていく足音を、ただ静かに聞き届けることしかできなかった。 トップページ |