制御不能1*


 下半身を襲う窮屈な圧迫感。同時にピリピリと響く鈍痛に顔をしかめながら、無意識に呼吸を止めていた。ぎゅうっと瞳を閉じれば、頭上から吐息混じりの艶かしい声が私を呼ぶ。

「……北川、」
「っぁ、う……っ」
「ばか、ちゃんと息しろ」

 息苦しさに喘ぐ私の目尻に浮かぶ涙。親指でそっと拭って、温かな手のひらが私の頬を包み込んだ。
 そっと瞳を開ければ、潤む視界に竹井の顔が滲んで見える。その表情は不安そうに曇っていて、私を心配してくれているのかと思うと少しだけ呼吸が楽になった。
 けれど竹井の片手には、いまだに私のスマホが握られていて、その存在感が不安を煽る。

 今まで竹井以外の男とも付き合ったことはある。私はあまり男の人に興味が持てなくて、でも相手がどうしても、って言うから仕方なく付き合っていた。お試し感覚の交際ではあったけれど、恋人同士がやるような行事や触れ合いは、一通り経験してきたつもりだ。デートも、キスも、セックスも。
 でも過去の男だって多くはないし、セックスの経験だって指折り数える程度しかない。その経験だって、もう何年前かという話だ。どれだけ竹井のセックステクが上手くても、経験的にまだ不馴れな挿入に痛みが伴ってしまうのは仕方のないことだった。

「そんなに締めんな……ッ」
「だって……ぁ、ぅ……ッ」

 私の膣内では、突然侵入してきた異物を押し返そうと、ぎゅうぎゅうに竹井のものを締めつけている。それでも竹井はゆっくりと、時間をかけて、陰茎を奥へ奥へと進めていく。全て埋めたところで、その動きを止めた。

「……やべ……なんだこれ。すげえ気持ちいい」
「……や、だ……抜、いて……っ」
「今更無理だって」

 無責任な発言を言い放ち、竹井がゆっくり身体を揺らす。自らの長さや形を私の膣に覚えさせるように、一度引いてはまた挿れて。一定の速さを保ちながら、絡み付く肉襞を擦っていく。痛くて息苦しくて辛いのに、先端が奥に触れると、痺れるような快感が全身を駆け巡る。トンと突かれただけで、その快楽は瞬く間に弾けた。

「あ、あっ、待って、あ……ッ、」

 竹井が動く度に、衝動から漏れる喘ぎ。痛みよりも快感の方が勝ってくると同時に、私の口から零れる吐息は次第に艶を帯びていく。竹井の息遣いが次第に荒くなっていく様は、刺激に飢える私の胸を甘く、強く満たした。

 嫌なのに。妊娠なんてしたくないのに、こんなことやめなきゃいけないのに。そう思う気持ちは確かにあるのに、色香を匂わせる男の吐息と押し寄せる快楽が、理性をあっさり捩じ伏せてしまう。

「……ナカ、だいぶ柔らかくなってきたな」
「ん……ッ」
「激しくするから。できるだけ声抑えろよ」

 私を見下ろす男が無情にそう告げる。血の気が引いて、脳がすうっと冷えていくのを感じた。
 恐怖で身体が強張る。いや、と小さく首を振っても止めてくれる気配もない。そればかりか、私の両足を肩に担ぎ直して、竹井は自身が動きやすいように体勢を整えた。
 そのお陰で奥深くに埋まった陰茎が、膣内のある場所を強く擦る。瞬間、電流が走ったかのような強烈な刺激が襲った。ばち、と頭の中で火花が散る。

「っあ、やぁ……あんッ!」

 強烈な刺激に晒されて、ビクンっと背中が仰け反る。衝撃で見開いた目から、ぽろりと零れ落ちた一粒の涙。こめかみを伝い、ソファーに黒い染みを作る。
 下半身に溜まる熱が一気に弾け、ぴくぴくと小刻みな痙攣が止まらない。指でイカされた時とは全く具合が違う、意識が一瞬にして吹き飛んでしまうほどの、大きな快楽のうねりが全身を包み込む。それだって時間が経てば落ち着いてくるけれど、波が引く前に竹井が動いてしまうから、達してもすぐに新たな波が押し寄せてくる。

「いやっ、あ、ぁあ……っ!」

 ふるふると身体を震わせる。
 荒い息をつく私の耳元で、男の微笑が妖しく掠めた。

「……へえ、ここがイイのか」

 狂気を孕んだ囁きにゾクリとする。私が達したことで一度緩まった動きは、程なくしてすぐ律動が再開された。
 ぐっと腰を押し付けて、子宮の入り口を抉るように竹井は腰をぐるりと回す。私も知らない、私の中にある性感帯を、私自身に自覚させるかのように、執拗にイイ場所ばかりを責めてくる。

「あっ、あぁあッ!」

 自我が壊れてしまいそうな程の、快楽。
 まるで地獄だ。
 がむしゃらに奥を突かれてイク方が、まだマシだった。

「嫌っ、あぁ! やめ……ッ、やああ」
「今更なに言って……さっきからイキまくってるくせに。これで嫌なわけねえだろ」
「アッ、だめっ、そこだめ、やだあっ! ぁっ、ああッ!」



 ───……壊れ、そう。


 イッて、イッて。またイッて。
 馬鹿みたいに何度も突かれてイキ狂う。止まらない。

 いやだ、こんなの。
 こんなセックスは知らない。
 イクのが止まんない。怖い……っ!


「は、すっげ。ぎちぎちに締まるんだけど」
「や、だめっ……あっ、アンッ! あ、あぁ、やぁあッ」

 パンパンと肌がぶつかりあう音と、繋がった場所からぐちゅぐちゅと、愛液の混じる音が響き渡る。耳を塞ぐこともできず、逃れることもできず、ただただ竹井の乱暴をこの身ひとつで受けることしかできなかった。



 死ぬほど気持ちよかった。
 セックスがこんなに気持ちいいなんて、私は知らなかった。
 でも、でも。どうしても竹井との行為に溺れることができない。心が頑なに竹井を拒絶する。
 感じているのを認めたくない。他の子達と同じ扱いをされたくない。この快楽に屈したくなくて、何度も絶頂に追いやられながら必死に首を左右に振る。

「あ……っ! や、だ、もうやめてっ」
「それ本気で言ってんの?」
「あっ、ぁあ!」

 パン、と一際強く奥を突かれて、目の前で星が散る。私がイッたのを見届けてから、竹井は勢いよく自身の陰茎を抜いた。そして、ぐるりと私の身体を反転させる。
 ソファーの背に手を置いて崩れ落ちる。竹井の手が私の腰を掴み、四つん這いみたいな体勢に変えられた。いまだに硬度を保っている竹井自身が、秘裂に沿って動く度に腰が震える。

「ん、あっ」
「こんな状態で、やめろなんてよく言えたよな」
「……んっ!」

 陰茎が、ずぶずぶに濡れた膣内に埋まっていく。奥から溢れた蜜が、内股をゆっくり伝って落ちた。

「やぁ……ッ」
「ほら、わかんだろ。簡単に飲み込んでくじゃん。北川が欲しがってる証拠だよ」
「……っ」

 膣内の襞が竹井の陰茎に吸い付いて、離すまいと必死に食らいついて扱き立てる。痛みなんてものは既になく、竹井が最奥を擦る度に、凄まじい快楽が渦となって全身を支配した。
 竹井も余裕がなくなってきたのか、苦しげな吐息を漏らしながら乱暴に腰を振っている。気が狂いそうになるほどの快楽に、ソファーに爪を立てながら必死に耐えた。

「あー……、まじでヤバイ。イキそう」

 こんなときでも冷静な竹井は、涼しげな声で恐ろしいことを平気で言う。快楽に染まりかけていた思考が一瞬にしてクリアになった。

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