欲しいのはあなただけ1*


 背中に回された彼の片手が、ブラのホックを静かに外す。胸を覆っていたものが手元に落ち、ふるりと乳房が姿を見せた。
 彼の手で優しく揉みしだかれて、息が上がる。
 やわやわと形を変えていく様に、瞳がとろんと蕩けていく。
 微弱な刺激とその光景は、確実に私の興奮度を高めていった。

「ん……」
「ねえ、こんなに勃ってる。ほら、」
「あっ」

 キュンッと主張してるピンクの先を、指先でピンッと弾かれた。
 ぴくっと反応した私に、彼は満足そうに微笑む。

「いつからこんな風になってたの?」
「あ、やだ、つんつんしないで……ッ」
「ねえ、いつから?」
「わ、かんない」
「んー……そっか。じゃあ、」

 手を止めて、速水くんの顔が胸の頂へと下りていく。何をされるかなんて、今までの経験上から既に察しがついた。
 谷間にちゅっと口づけられて、ぷっくり膨らんだ胸の蕾を、彼の唇がついに捕らえる。そのまま口内に含んで、ちゅうっと軽く吸い上げた。

「……ひゃあ、ん……っ!」

 待ち望んでいた快感に身体が震える。反射的に腰を引いてしまい、彼の片手に支えられた。
 その間も速水くんの愛撫は止まらない。
 舌先で先端を転がしながら、舐めては吸って、甘く噛む。強弱をつけながら弄び、わざとらしく、音を立てる。思う存分堪能した後は、もう一方にも吸い付かれた。
 押し寄せる快楽の波に、私は身震いしながら喘ぎ啼くしかない。

「あ……ぁん、きもちい……ッ」
「……感じてる天使さん、可愛い」
「んっ、あ」

 ちゅくちゅくと、舌で散々貪り尽くされた後に解放されたソコは、ピンッと上向きに張り詰めていて、唾液でてらてらと濡れている。
 その光景があまりにも卑猥で、腰にぞくりと甘い快楽が迸った。

 ベタ座りしている太股を、軽く擦り合わせる。
 直後に感じた、股への違和感。
 脚と脚の合間から聞こえた、粘着質な響きを含むその水音に、私は言葉を失った。
 濡れ始めていたのは気付いていたけれど、こんなにも酷い惨状になっているとは思ってもいなかった。私の愛液を含んだショーツは既にぐっしょりと濡れていて、ベッドのシーツにまで染み渡っている。
 汚してしまったことへの申し訳なさを感じると同時に、自分の身体の変化が怖くなった。こんなにも私は、濡れやすい体質になってしまったのかと。

「……や、やだ……っ」
「……何がやなの?」
「っ、な、んでもない」

 隠したところですぐバレるのに、こんなに濡らしてしまったという事実が恥ずかしすぎて、とても口には出せなかった。
 直視もできずショーツから目を逸らした時、訝しげな表情を浮かべている速水くんと目が合う。思わずギクッ、と肩が跳ねた。

「……怪しいね」
「あ……っ!」

 際どい場所に彼の指先が滑り、思わず声を張り上げる。中心に溜まる熱と湿気を帯びた内股は、しっとりと汗ばんでいた。

「まって、触っちゃだめ、あっ、ん……ッ」

 弱々しい抵抗も虚しく、彼は私のショーツの中へ、大胆にも手を潜り込ませてきた。
 ぬかるみに触れる指先が、濡れている秘所をまさぐり始める。浅い場所を何度も行き来して、くちゅくちゅと奏でる音が耳を衝いた。

「わ、すご……そんなに気持ちよかったの?」
「あっ、あ、だめ」
「だめなの? こんなに濡れてるよ?」
「んっ、ごめ……ッ、」
「……なんで謝るの?」
「シーツ、汚しちゃった、から。ごめんなさい……」

 私の控えめな謝罪に、彼の指が止まる。

「……え? え、なにまって可愛い。そんなこと気にしてくれてたの? 天使さん、ほんとに可愛い」
「………」
「じゃあ、今度からタオル敷いておこう。それで万事解決。ね?」
「タオルが汚れる……」
「それ言い続けてたらキリないよ?」

 苦笑混じりに呟いて、彼は愛撫を再開する。焦らすように撫でていた指を、つぷりと入口に突き立てた。
 瞬時に身体が強張って、彼の腕を掴む。

「やっ、ゆび、いれないでっ、だめ……ッ」
「どうして? 指欲しくない?」
「またシーツ汚しちゃう」
「そんなの気にしなくていいの。それより、こっちに集中して? 気持ちよくしてあげるから、膝立ちして?」

 そんなこと言われても素直に頷けるわけがない。彼の肩に額を押し付けて、いやいやをするように首を振る。
 ぺた、と座り込んでいる体勢のお陰か、中途半端に挿れられた指が、奥まで埋まることはない。でも膝立ちすれば確実に、指の届く範囲まで、散々犯されるであろうことは目に見えている。はあはあと浅い呼吸を繰り返しながら、私は口を開いた。

「指、いれられたら、わたし変になる……っ。速水くんのこと、もっと欲しがりになっちゃうからダメ、困らせたくないの……」
「……ねえ、それ素で言ってるの」

 耳元で低く囁かれて、ぞくっと震え立つ。官能的な響きを纏った声は少し掠れていて、身を強張らせている私に構うことなく、彼はさっさとベルトを外し、ズボンとボクサーパンツを脱ぎ捨てた。
 素早く避妊具を装着して、私の身体を抱き寄せる。
 そのまま一緒に横倒れになって、私は速水くんの上に、覆い被さるような体勢になってしまった。
 焦って身体を起こしてとしても、手首はしっかりと掴まれていて、離す気がない意志が、握られた強さから感じ取れた。

「は、速水くん?」
「……ほんと、俺を煽るのが上手いよね。天使さんは」
「え……?」
「ねえ、跨がって。上に乗ってよ」

 はた、と瞬きを落とす。
 その言葉の意味をすぐに理解できなくて、私は固まったまま、彼の目を凝視する。
 速水くんも同じように、私の目をじっと見ていた。
 その真摯な眼差しは、冗談を言っている人の視線とは思えなくて、こくん、と緊張で喉が鳴る。

「の、乗る……?」
「騎乗位」
「き……っ?」

 聞き慣れていないその単語を、まさか速水くんの口から聞かされる日が来るなんて、思ってもみなかった。

「俺の上に乗って、自分で挿れて腰振ればいいだけだよ。簡単でしょ?」
「え……」

 簡単……な、わけがない。
 常に受け身だった私にとって、体位的にも精神的にも、難易度が高すぎる。それは速水くんだって、知ってるはずなのに。
 それに自分で挿れて腰振って……って、それはまるで、自慰しろと言われてるみたいで悲しくなる。

「………」

 切ない気持ちに心が揺れる。
 それでも私は逆らえなくて、ショーツの紐をしゅるりと解いて、自ら下着を剥ぎ取った。
 ゆっくりと脚を動かして、彼の上に跨がってみる。やり方なんて当然わかるわけがない。曖昧なイメージを思い浮かべながら、彼自身を緩く握って、濡れているソコに突き立てた。
 ゆっくりと腰を落とせば、彼のものが私のナカに埋まっていく。

「んっ……」

 瞳をぎゅっと閉じて、びりびりと迫る快楽に必死で耐える。時間をかけて進めていた行為は、彼のものが全部埋まってから動きを止めた。とりあえず、第一関門はクリアできたらしい。
 でも、これで終わりじゃない。
 この先、どうやって進めたらいいのかわからない。
 どう動けばいいのかはわかるけど、自ら腰を振ることに、耐え難い羞恥心が湧き起こる。縋るように、彼へ視線を送った。

「は、速水くん……」
「……自分のしたいように動いてみて?」
「………」
「……無理?」
「……うん……」
「んー……じゃあ、どう動けば俺が気持ちよくなるかなって、考えながら動いてみて?」
「……え」

 ぱちぱちと瞬きを繰り返す私に、速水くんはにっこり笑う。

「俺はいつも、そう考えながら天使さんに触れてる。気持ちよくしてあげたいし、自分も気持ちよくなりたいし。一方通行じゃ無理なんだよ」
「……うん」
「さっき、欲しがりになるって言ってたよね? 俺から言わせれば、全然足りない。もっと困らせてもいいから、俺のこと欲しがってよ。今こんなこと言うの卑怯かもしれないけど、たまに俺ばっかり好きすぎて、本当はまだ片想いなんじゃないかなって思う時があるし」
「………」

 確かに、速水くんに対して消極的になってしまう部分はあった。
 先日の旅行でも、言葉足らずな部分を反省したはずなのに。

「不安にさせてごめんなさい……あの、心配しないで。すごく好きです」
「はは(笑)」
「なんで笑われたの……」
「可愛すぎ」

 からかうような口調に、ほっと胸を撫で下ろす。
 独り善がりな行為を迫られたと思って、沈みかけていた心は一気に浮上した。
 私だって、速水くんにたくさん求められたら、大変な時もあるけれど嬉しい。欲しいって言うなら、いくらだってあげられる。
 きっと、速水くんも同じ気持ち。

「……う、動いても、いい?」

 一方的な行為じゃないと知った途端、何でも出来るような気がしてきた。
 そう宣言すれば、速水くんも頷いてくれる。
 ゆるゆると腰を動かしてくれて、その動きに合わせて、私も一緒に動いてみた。

 ……動いてみた、けれど。

mae表紙tugi

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