情欲2* 「あっ! ん、あっ、あッ……!」 私の両膝を掴み、彼が激しく腰を振るう。バンパンと肌がぶつかり合い、繋がった中心から、ぐちゅぐちゅと淫らな水音が混じる。 出たり入ったりを繰り返す動きは単調なものなのに、彼に開発され尽くされた身体は、そんなシンプルな動きでも感じてしまう。 「あぁ、やっ、あ、あん、きもちい……っ」 「すご……、どんどん溢れてくる」 ずんずんと奥を突かれて、強烈な快感がひっきりなしに襲ってくる。気持ちよくて気持ちよくて、頭がおかしくなりそうだった。 再び込み上げてくる絶頂感。 ああ、またきちゃう。イッちゃう───そう悟った直後。 急に彼が腰の動きを止めた。 イく寸前で放置され、おいてけぼりをくらったような心境に陥る。 更に彼は、自身のものを抜いてしまった。 「速水くん……?」 不安に襲われて、私は彼の顔を見上げる。 見下ろす瞳は深い優しさを帯びているけれど、 「今までで一番、気持ちイイことしてあげる」 その一言に、悪寒が走った。 つい逃げ腰になる私の肩をがっしり掴み、いとも簡単に身体を反転させられた。 突然うつ伏せにさせられて、枕にぽす、と顔が埋まる。いきなり縛ったり意地悪だったり、今日の速水くんは予想のつかないことばかりする。 「───"これ"。なにかわかる?」 目の前に差し出された『これ』を見て、脳が最初に認識したのは、色。そして形。全体的にピンク色で、うずらの卵みたいな小さい球体が、1本のコードで繋がれている。コードの先にはリモコンがあり、電源らしきスイッチが見えた。 玩具だ。どう見ても明らかにわかる。 でもただの玩具じゃない。 ここはラブホなんだから、その玩具も当然、大人向けのソレなわけで。 「ローター……だよね?」 「うん。天使さんが浴室に行ってる間に買ったんだ」 速水くんの視線が、部屋の角に動く。そこにあるのは、客室内に設置されている販売用冷蔵庫。 ラブホならではのグッズが内蔵されていて、ローターも一緒に販売されている筈だけど。 「え……買ったの?」 「うん」 平然と答える速水くんに、複雑な心境を抱く。 「……興味、あるの?」 「ローターに興味はないけど、ローターで乱れる天使さんには興味ある」 「………」 彼の意外な一面を垣間見たような気がして反応に困る。実際に目にするのは初めてだし、こういった類いの物を使ったことは一度もない。使いたいと思ったこともない。自分には縁のない代物だと思っていただけに、意表を突かれてしまった。 唖然としながら、顔を捻って彼を見上げる。 私の膝裏に腰を落とした速水くんは、目が合った瞬間、にっこりと優しげに微笑んだ。 ……ああ、この笑顔。 嫌な予感しかしない。 「それ……どうするの?」 「ん? こうするの」 未だにヒクついている私の中心に、速水くんはそれを押し当てた。陰核に無機質な冷たさが触れ、身体が自然と強張ってしまう。 振動はまだ伝わってこない。 今の私はうつ伏せのまま、股にローターを挟みこんで固定している状態だ。私が動かない限り、ローターを取り除くことは難しい。 「え……待って、こわい」 「大丈夫。何も怖くないよ。天使さんはただ気持ちよくなってくれたらいいから」 そう言いながら、速水くんは私のお尻を両手で押し広げ、ゆっくりと腰を沈めた。 ぬぷ……、と彼のものが膣に埋まっていく。 「……ぁ、う……ん、」 うつ伏せの状態で挿れられると、圧迫感がすごい。は、と息を詰めて、顔を枕に押し付ける。 体勢的に全部は入らなかったようで、彼の動きはすぐに止まった。 「天使さん、平気?」 「ん……」 「すぐに良くなるから大丈夫だよ」 本当に大丈夫、なのかな。 下腹部の圧迫感とローターの異物感が安息の邪魔をする。 押し寄せる不安を拭えなくて、私は身を強張らせながら次に来るであろう衝撃を待つ。 「───入れるね」 何を? という疑問は、次の瞬間に霧散する。 すぐ傍でカチッ、と音がした。 「ひゃ、あ!?」 振動が陰核を刺激して、電流が走ったような快感が突き抜ける。小刻みに震える物体に、私はあっさりとイかされてしまった。 玩具自体は本当に小さくて、手のひらで収まるくらいの代物だというのに、この破壊力は一体何事だろう。達した直後、膣に埋まっている彼のものをぎゅうっ、と強く締め付けていた。 「わ、すご……搾り取られそう」 「や、とって、これ取って……!」 「だーめ」 「あっ、うそ、やだっ、んー……ッ!」 訴えは聞き入れてもらえず、ローターのスイッチも入ったまま放置される。機械音が下半身から響き、止まない振動に私はビクビクと身体を震わせる。 まさか彼がイクまで、私はこの連続で襲い掛かる快楽に耐え抜かなきゃいけないのかと。そう考えていた私は、相当甘かったらしい。 「……っ!?」 プツン、とブラのホックが外される。ニットと一緒に剥ぎ取られ、両脇から差し込まれた手のひらが、胸をやわやわと揉みしだく。 ツンと張った突起を撫でられ、ローターの振動が陰核を刺激し、膣は彼のものが埋まってる。ありとあらゆる所から責められて、また達してしまいそうになる。 「いや……っ、は、やみく……まって……!」 「待たない。一番気持ちいいことしてあげる、って言ったでしょ」 「や……!」 「だから言ったのに。素直にならないと痛い目に合うのは天使さんだよ、って」 まるで私が全部悪いかのような言い草だ。理不尽すぎて納得がいかない。 そうは思っても、彼はもう止まらない。 私にぐっと体重を掛けて、耳元で甘く囁いた。 始まりの合図を。 「───俺も、動くね」 そこからはもう、ただ啼き叫んでた。 「あっ、あ、ぁあんッ、奥、あ、イッちゃ──……ッ! ……や、だめっ、今動かないで……っやだ、またキちゃっ……! ふ、ぁあッ!」 もう何度目かもわからない絶頂に、身体は疲弊し声が掠れる。嬌声なんて可愛いものじゃない、既に悲鳴に近かった。 イく度に意識が飛びそうになって、奥を突かれて引き戻される。ローターでイかされて、次はナカでイかされて、もう何が何だか自分でもわからない。快楽が処理しきれない。 胸の愛撫も全然止む気配がなくて、何度達しても昂る欲が消えてくれない。 「っあ……!」 更に耳朶を甘噛みされて、彼は舌をねじこませてくる。くちゅくちゅと水音が響いて鳥肌が立つ。 速水くんは時折こうして、腰の動きを緩めて私の耳を愛撫する。散々弄んでは甘い囁きを落とし、離れては腰を振って責めてくる。 「イキまくりだね。天使さん、同時責めされるの大好きだもんね。このまま、俺でしか満足できない身体になればいいのに」 「や、むり、とめて、もぉやら……ッ」 「呂律回ってないよ。ほんと可愛いな」 「ぅん……耳、やめ……てっ」 ちゅ、ちゅっと耳朶に落とされるキスは可愛いものなのに、ナカを蹂躙する彼のものは容赦がない。ずんずんと奥を突きながら、胸の突起を捏ねくり回して責め立てる。 ヴー……ンと鳴り続けるローターも、休まる気配もなく陰核に押し当てられたままだ。 「あっだめ、またいくのっ、あぁ……んっ!」 「ねえ、4点同時の快楽責めって初めてシたよね。どれが一番良かった? やっぱりローターかな? でも天使さんは、耳と胸が弱いよね……っ、ほら、また締まった。ココが、いいの?」 ぐりっと最奥を抉られる。気が狂いそうになるほどの快感に、頭の中で火花が散った。 「ふ、あっ……! だめ、またイッちゃう、いっちゃうの、やだぁ……!」 「はは。俺の言葉も聞こえてない、か」 彼が放った言葉なんて頭の中に入ってこない。意識は全部、快楽に支配される。イッてもイッても終わらなくて、頭の中も心も身体も、全部ぐっちゃぐちゃでドロドロだ。 せっかくメイク頑張ったのに、涙と汗で悲惨なことになってる。 「は、やみ、く……おねがいっ、もうイッて……ッ」 これ以上続けられたら本気でしんじゃう。 どうにかして止めてほしくて、許しを乞うように訴える。 けれど返ってきた返事は、無情なものだった。 「うーん、それがね。この体勢だと奥まで入らないし、思うように激しく動けなくて。イキたくても物足りないんだよね。それに、動かなくても天使さんのナカ、すごくうねってて気持ちいいから。もう少し堪能したいかな、って」 絶望した。 この人、まだ続けるつもりだ。 「も、むり……っ、お願い、なんでもするから……ッ」 咄嗟に口をついて出た言葉。 彼の動きが、ぴたりと止まる。 「なんでも?」 ……勢いとはいえ、何て恐ろしいことを口走ってしまったんだろうと、ふと思う。 けれど、今の私に正常な判断ができるわけもなく、この暴力的な快楽責めから逃れたい一心で、必死にこくんと頷いた。 「ん、わかった。約束ね」 あっさりと承諾してくれた速水くんは、そこでやっとローターのスイッチを切ってくれた。 私の両脚から引き抜いて、足元に置く。ゆっくりと自身を抜いて、ぐったり横たわる私をころんと仰向けに寝かせた。 もう一度私の両脚を抱え直し、腰を寄せてくる。 「約束だから、終わらせてあげる。その代わり、天使さんも俺との約束、守ってね」 再び下腹部を襲う圧迫感。肉襞を掻き分けて、彼のものが膣の奥へと進んでいく。 うつ伏せの状態だと届かなかった場所に、今は彼自身がある。軽く揺すられるだけで、イッてしまいそうになる。 幾度となくイかされ続けた身体は、いまだに敏感気質なまま。どんなに微弱な刺激でも、強烈な快感に成り変わってしまう。 せっかく行為を止めてもらったにも関わらず、今も尚、浅い絶頂がずっと続いている状態だった。 「は……っ、すごい。こんなにぐしょ濡れなのに、キツい……っ」 「や、恥ずかしいこと言わないで……っ」 ふるふると身を震わせながら、迫り来る快楽に固唾を飲んで耐える。ゆるゆると揺さぶられ、甘い声が漏れ始めた。 「あっ、あんっ、だめおく、奥きもちい……ッ」 「……ッ、や、ばい、もうイキそう」 彼も限界が近かったのかもしれない。緩やかだった動きが、次第に切羽詰まったように腰を振るい、奥を穿つ。 激しさを増す抽送に、私達は我を忘れて溺れていた。 「天使さん……、一緒にイこっか」 「ん、いくっ、速水、くんも、」 彼が身を屈めてきて、縋るように抱きついた。 交わすキスも腰の動きも、優しさや気遣いなんてものは当にない。荒々しく口づけながら、奥へ打ち付けてイキ果てる。 余裕の無さそうな男の表情が、たまらなく愛おしい。 「……出すよ、天使さん」 「ん、あぁッ、やぁ、だめっ、いくッ…ぁあ──……ッ!」 「………くっ、」 彼が苦しげに呻いて、吐息を漏らす。 膜越しに熱を感じ取った私も、また派手にイキ狂う。 「はっ……、はぁ、っは…ぁ……」 やっと終わった、というのが正直な思い。 呼吸を整えることに必死で、何も言葉が出てこない。浅い呼吸を繰り返すばかりで、私達はしばらく抱き合ったまま、無言のままでいた。 疲労感がどっと押し寄せて、身体も頭も重すぎる。指1本動かすのも億劫だし、喉はヒリヒリして痛みが生じてる。 うまく機能しない頭の中は、"なんかすごかった……"なんて、小学生みたいな感想しか出てこなかった。 「……男は馬鹿だから、付き合わされる女の子は大変だよね。……ごめん」 頭上から、自嘲めいた言葉が聞こえた。 「……休む?」 「……うん」 「明日の朝、一緒に露天風呂入ろうね」 「ん……」 「…………、引いた?」 あんなに派手にやらかしておいて、今頃になって恐る恐る聞いてくる彼に吹き出しそうになる。 さっきまでの強気な態度はどこにいっちゃったんだろう。 「少し引いた」 「え……どうしよう」 薄く目を開けば、本気で焦ってる顔が見えた。 なかなかお目にかかれない狼狽っぷりが微笑ましくて、自然と笑みが浮かぶ。冗談だよ、そう告げれば、速水くんは困ったように笑った。 「何でもするって約束、今言ってもいい?」 「2回戦は嫌」 「え、なんでわかったの」 「そんな顔してました」 「天使さん。どうしてラブホのベッドに、ゴムが2つ以上置いてあるのかわかる? 今すぐ2回戦をする為だよ」 「違うと思う」 「クールだね」 すっかり通常運転に戻った速水くんは、穏やかな笑顔を浮かべながら、私の頬にキスをした。 手を取られて、小指と小指を絡ませてくる。 「ずっと一緒にいようね」 「うん」 「一緒に幸せになろうね。約束だよ」 絡めた小指は繋がれたまま。 嬉しくて、幸せで。可愛い約束事に頷けば、速水くんも一緒に笑ってくれた。 私はもう、一人ぼっちじゃないのだと。 隣に大好きな人がいてくれる幸福を、この時の私は噛み締めていた。 トップページ |