情欲1*


 私の指に絡めた手を、速水くんがそっと外す。そのまま両手首を掴まれて、頭上でまとめられた。
 右手でネクタイを解きながら、速水くんは優しく微笑む。憂いを帯びた表情は既に消えていて、私は呆然としながら彼の行動を見守っていたけれど。

「速水くん……?」

 ただならぬ事態が起きた。
 両手を、ネクタイで縛られてしまった。

「あ、あの、なにこれ……」

 されている事は理解できても、どうして拘束されなければならないのかわからない。
 彼にはもう何度も抱かれてるし、今更拒むつもりなんてないのに。

「速水くん、これ取って」
「だめ」
「どうして」
「今日はすごく、天使さんを苛めたい気分だから」

 そんな物騒な台詞を爽やかに言われても、納得できるはずがない。縛られて悦ぶ趣味なんかないのに、けどそれを主張したところで聞き入れて貰えそうにない雰囲気だ。どう反応していいのかわからない私は、すっかり困惑していた。

 対して速水くんは余裕の表情を保ったままで、私のニットの裾を掴み、両手で一気にたくし上げた。
 鎖骨まで捲られて、胸の膨らみが露出する。
 自由を奪われている私はただ驚くことしかできなくて、私の反応を見た彼がくすくすと笑った。

「かわいい」
「か、からかわないで」
「からかってないよ。レースのブラも似合ってる。取るのがもったいないね」

 刺繍で飾られたカップに、速水くんは人差し指を引っ掻けた。そのままクイッと引き下げられて、ふるりと乳房が揺れる。彼の目の前に暴かれた蕾は、既に尖りを主張し始めていた。
 あまりに恥辱な格好に、羞恥で顔が染まっていく。

「やだ、こんな格好……あっ」

 指先がカリっ、と突起を掠めた。
 突然走った刺激に、たまらず声を上げる。

「たくさん満足させてあげるね」

 その一言を最後に、また唇を塞がれた。
 口付けられたまま胸の突起を弄ばれて、微弱な刺激がもどかしくて腰が揺れる。指と指の間でクリクリと捏ねられて、快感の波が緩やかに押し寄せてくる。

「……ん、そればっかり、やだ……」

 唇が離れた瞬間に、抗議の声を上げる。
 速水くんは緩く微笑むだけで、何も答えてはくれなかった。
 刺激を与えられ、ぷっくりと膨れ上がった薄桃色のソコに、彼の唇が触れる。そして吸い上げるように、口内に含んだ。

「あっ……ん」

 待ち望んでいた快感に身体が震える。柔らかな舌先が突起を縁取るように、くるくると円を描く。たまらず漏れた嬌声に、彼の舌の動きが変わった。ちゅうっと軽く吸い上げられて、身体が跳ねる。

「あっ! ぁ……、んっ……」

 感度が高まり、敏感になってしまっているそれにその快感は強すぎた。大袈裟なくらい身体が跳ねて、生理的な涙が滲んでくる。
 お腹の底に熱が溜まり、膣がきゅうっと切なく締まる。両脚の間がしっとりと、湿り気を帯びていくのがわかった。

「や、だめ、吸っちゃだめ……っ」

 ぞくぞくする。
 気持ちよすぎて感じちゃう。
 濡れてきてるの、ばれちゃう。

「天使さんは本当に感じやすいね」
「ちが、」
「もう濡れてるんでしょ?」
「ぬれてない」
「本当に?」

 スカートを捲し上げて忍び込んだ手が、ストッキング越しにショーツへ触れる。割れ目をゆっくりなぞられて、ビクッと震えて腰が浮く。
 その一瞬の隙を、彼は見逃さなかった。
 ストッキングと下着を、同時に膝上まで下ろされた。驚きで言葉を失っている間も、速水くんの手は際どい場所へと滑っていく。遂には中心に触れ、くちゅ、と水音が耳を衝いた。

「あっ……ぁん………」

 指先の濡れた感触に、ぞくりと肌が粟立つ。

「ほらね、もうとろとろになってる」
「……っ」
「俺が気づいてないとでも思った?」

 引き抜いた手を、彼は私の目の前で披露した。指の合間からトロ……、と糸引くそれは、間違いなく、私から溢れた愛液である証拠。直視するには刺激が強すぎて、慌てて顔を逸らした。あからさまな私の動揺に、速水くんは嬉しそうに笑う。

 少しどころか、もうどろどろに濡れてしまっていた様を、強制的に認めざるを得ない状況に追いやられた。言い訳も言い逃れもできず、大人しく口を閉ざす。
 勝ち誇ったような彼の笑顔が悔しくて、でも、そんな幼い表情が見れたのも嬉しくて、そう思う私はもう末期なのかもしれない。

「……意地悪」
「ごめんね。今日の天使さん、いつもと感じが違うから。興奮したのかも」
「え?」
「メイク変えた? 可愛くなってる」
「……あ」

 ───気づいてくれた。
 それだけのことなのに、気持ちがふわりと舞い上がる。

「だって……速水くんと会えるから」
「本当に? 嬉しい」

 端正な顔立ちがくしゃりと崩れて、柔和な笑顔が広がる。
 私を安心させてくれる、大好きな表情。
 胸が甘く疼く。

「唇も、つやつやしてて美味しそうだった。香りつきのリップかな? 甘い味がした。つい噛みついちゃった」

 彼の親指が、私の下唇に触れる。愛おしそうに撫でられて、まるで焦らしているかのような動きに、私は目尻を下げる。
 散々貪られたそこは、すでにリップ本来の艶やかさは奪われているものの、唾液混じりに交わした数多のキスのお陰で、潤いは保ったままだ。

「速水くん……」
「なに?」
「つづき……しないの……?」

 まだ物足りないとでも言うように、秘所から蜜が溢れ出る。初めの頃はこんな風に、すぐ濡れてしまうような体質じゃなかったのに。今ではこんなに、快楽に弱くなってしまった。

 彼の片手がストッキングに触れて、片脚を浮かせて脱がせやすいように配慮する。素肌を晒した下半身が、部屋の空気に触れてヒヤリとした。
 熱い手のひらが内股を這う。中途半端に胸を晒けだしたまま、両脚を開かされるという痴態に居たたまれない気分になる。更に両手は拘束というオプション付きだ。
 羞恥心は全く抜けていないのに、拒みたい気持ちも確かにあるのに。興奮を煽られた下腹部は、私の意思に反して甘く疼く。
 心とは逆に、身体は悦んで反応を示していた。

「ん……っ、」

 存分に濡れそぼった中心に、彼の指が埋まる。ゆっくりと出し入れされる度に、くちゅくちゅと粘着質な音を奏でる。
 繰り返される摩擦に、全身に快感が迸った。

「……あっ、きゃ……!」

 突然襲ったもうひとつの刺激に、私は小さく悲鳴を上げた。
 速水くんは2本の指で私のナカを犯しつつ、もう片方の手で、今度は陰核も弄び始めた。
 途端に奥から、ドロリと蜜が溢れ出る。
 中も外も同時に責められて、止まらない刺激に私はただ啼くしかない。

「あん、速水く……! それだめっ、一緒にしちゃ、だめ……あっ、あん、やぁ……ッ」

 痛まない程度に加減しながら、掻き乱していく彼の指に翻弄される。たまらなく気持ちがいい。
 いっそのこと理性なんて無くして、この快楽に身を委ねられればいいのに。それが簡単にできるほど、私の自制心は弱くはない。
 刺激から逃れようと身体を捩ってみても、頭上で両手を縛られている私のその動きは、ただ腰を揺らして男を誘う淫らな動きでしかなかった。

「腰揺れてる。そんなに気持ちイイの?」
「ちが、これはちがうっ」
「違くないよね。ね、もう素直になろう? 天使さんのココさ、こんなにヒクついちゃって凄いことになってるの。わかんないかな」

 その一言を皮切りに、彼が容赦ない追い討ちをかける。上下に激しく指を擦られ、ぐちゅぐちゅと淫らな音が室内に響き渡る。
 わざと私に聞こえるように水音をたてられて、羞恥と興奮を煽られる。逆らえない私は彼の思惑通り、絶頂の階段を駆け上がっていく。

「あっ……! ぁ、あぁあ、や…あ──……っ!」

 一気に込み上げた強烈な感覚に身を震わせる。びくんっと身体が弓なりにしなり、頭の中が真っ白になった。
 直後に襲う脱力感。
 でも速水くんは休む暇を与えてはくれない。すぐに指の動きを再開して、ナカをぐちゃぐちゃに掻き回してくる。
 達したばかりの身体はあらゆる刺激に敏感なままで、私はあっけなく、2度目の絶頂を迎えた。

「はやみ、く……あッ…だめ、激しく、しないでぇ……ッ」
「ねえ、天使さん」

 私は息も絶え絶えの状態なのに、彼は至って平然とした顔だ。
 一呼吸置いて、口を開く。

「天使さんをここまで育てたのは、誰?」

 その一言に思考が止まる。
 まるで毒牙にかかったみたいに、彼の言葉は私の理性を壊していく。

「ねえ、誰?」
「あ……っ」
「3年間、ずっと俺に抱かれ続けたのは、誰?」

 ずるりとナカから指が抜けた。
 粘着質な液が滴り落ちて、私の内股を伝う。

「……っ、わ、たし……です」
「そうだね。わかった? 抵抗するだけ無駄なんだから───素直になって。俺に身を委ねて」

 その一言が、脳裏に重く響く。

 たった3年。されどもう、3年だ。彼に処女を捧げて以来、何度もこうして身体を重ねてきた。まだ未成熟だった性感帯を、開発され尽くしてきた。
 速水くんはもう、私の身体の全てを把握してる。もしかしたら、私以上に。

 抵抗しても無駄なことぐらいわかってる。
 それでも羞恥心が拭えるものでもないし、無くしたくもない。恥じらっていたいんだ、好きな人には純粋で可愛いと思われたいから。
 そんな意思も崩されてしまえば、もう従うほかない。

「……天使さん、挿れていい?」

 そう私に尋ねておきながら、彼は私の返事を待たず、枕元の避妊具に手を伸ばす。まるで最初から、私の意思は関係ないみたいに。
 小さく頷けば、速水くんは笑みを深くした。

「本当は、もっと時間をかけるつもりだったけど。誰かさんがエロ可愛いから、我慢できなくなった」
「………」

 色々と突っ込みどころ満載な台詞と共に、ぴり、と袋を裂く音がした。速水くんは慣れた手つきで準備を終え、中心に熱い猛りをあてがう。
 先端に蜜を塗り込ませるように、彼は自身を浅い場所に擦り付ける。疼く身体に、その緩い刺激は毒でしかないのに。わかってて、やってるんだ。確信犯。

「や……」
「なに?」
「焦らさ、ないで……」

 膣内がひくひくと疼いて辛い。最奥で突かれる気持ちよさを知ってるから、期待感で染まる身体は正直に落胆する。
 早く、はやく欲しいと急かす欲求に意識が囚われて、彼のものを飲み込もうと腰が勝手に動いてしまう。

「焦らしてないよ。今日はほら、そんなに時間かけてナカ解してないから。いきなり挿れたら辛いと思って」

 ……十分なほど解された気がするんだけどな。

「……やだ。そんな気遣いいらない」

 多分、もう自分の中に恥じらいとか、理性とか、自制心なんてものはほとんど無くなってる。
 でも、「早くいれて」なんて言ってあげない。やられっぱなしは悔しいから。

「ねえ、"挿れて"って言ってよ」

 ほら、やっぱりね。

「イヤ」
「なんで?」
「はずかしい」
「たった一言なのに」
「嫌なものは嫌」
「あれ、そんな態度取っちゃっていいの? あとで痛い目に合うのは天使さんだよ?」

 不穏な一言を残して、ぬぷ……、と亀頭がナカに埋まる。
 下半身を襲う圧迫感すら、今となっては気持ちがいい。

「っは……、天使さんのナカ、あっつ……」
「あ、ぅ……っ」

 溢れる蜜が潤滑の手助けをして、奥へ奥へと誘《いざな》う。ゆっくりと侵入を試みていた彼のものが、やがて最奥に辿り着いた。
 は、と小さく息を吐き、身を屈めた彼の唇が私の唇と重なる。ちゅ、ちゅっと啄むように口付けられ、強張った身体から力が抜けていくのがわかる。彼の背に手を回したくても両手は縛られたままで、彼に触れることは叶わない。それが、酷く寂しくてたまらなかった。

「速水くん、これ……とって」
「……いつまでも縛ったままじゃ、可哀想だしね」

 彼が腕を伸ばし、ネクタイを解く。
 少しだけ赤みを帯びた手首に、速水くんはそっとキスを落とした。

「ごめんね、自由奪っちゃって」
「ん……」
「それとも興奮した?」

 また、意地悪なことを言う。

「し……てない」
「そうかな? いつもより濡れるの早かったし、縛られるの好きなのかなって思った」
「そ、んなことな……っん、ぁあ……ッ!」

 反論しようとした声は、途中で悲鳴に変わる。彼が静かに腰を引き、子宮目掛けてずんっ、と勢いよく奥を突いたから。
 目の前に星が散って、あっけなく絶頂に見舞われる。ひきつった声が喉の奥から漏れた。

「挿れただけでイッたんだ?」

 呟く声は、楽しげな響きを纏っている。
 気遣うかのような優しい動きは、この瞬間に───終わった。

mae表紙tugi

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