実家でしちゃうお話。2*


「あっ……せんせ……っ、」

 洗面所の扉を背にして、先生は床に座り込んでいる。
 私は後ろ抱きにされたまま彼の胸にもたれ掛かって、足を開いて膝を立てていた。
 両手は相変わらず後ろで拘束されていて、思うように動かない体は熱に浮かされ、火照っている。

「こら。足閉じないの」
「や、だって……」

 恥ずかしくて閉じようとした両足を、先生の手が抑え込んで開かされた。スカートの中へ滑ってきた手のひらが、ゆっくりと内股を這う。
 ついに下着の中にまで侵入してきた指先が、しっとりと濡れた箇所を撫でた。
 緩やかな刺激が下半身を襲い、腰が跳ねる。

 でも、今日はこれだけじゃなかった。

「あっ」

 つぷ、と先生の指が、湿り気を帯びた中に埋まった。思わず声が上がる。

「……痛い?」

 ふるふると首を振る。
 第一関節あたりまで埋められた中指が、浅い場所を行ったり来たりしている。何とも言えない不思議な感覚に、少しだけ頭の中が冷静になる。

 指を直接入れられたのは、初めてだった。
 痛みもなく、不快感もない。
 だけど正直、気持ちいいとは思えなかった。もどかしさはあっても、快感に直結しない。
 それに私は、もう知ってる。わたしが、一番、気持ちがいいところ。

 そこじゃない。そこじゃないの。触ってほしいのは、もっと……、

「あ、あ……やぁ、ん」

 ……なのに、声が止まらない。

 先生の指が、私の中に入ってる。
 そう思っただけでゾクゾクする。
 快感に似た甘い痺れを感じて、お腹の奥がきゅんと疼く。気持ちいいとは思えない弄り方に、私は快楽を見出そうとしていた。

 指先の生易しい動きがもどかしくて、無意識に腰が揺れた。先生が小さく笑う。

「じれったい?」
「んっ……」
「ここ、全然ほぐれてないから、今はまだ、気持ちよくないかもしれないけど」
「……?」
「慣れてきたら、すごく気持ちよくなれるからね。開発してあげるから、中でもたくさん、いけるようになろうね」
「………」

 ……ほぐ、れる? 開発?

 ゆらゆらと漂う快楽の波の中、先生の発言をぼんやりと頭の中で繰り返す。言ってる意味はよくわからなかったけれど、多分、とてつもなく恥ずかしいことを言ってる、という事だけはわかった。

「あー……すごい、濡れてきた」
「……っ」

 ……だから、どうしてわざわざ、私が恥ずかしがることばかり言うんだろう。

 耳元に落とされた呟きに羞恥心を煽られて、抵抗とばかりに、いやいやと首を振る。
 そうしたところで何の意味も無いってわかってるけど、先生の言葉に、与えられる愛撫に、素直に従いたくなかった。
 両手を拘束されて、こんな事をされてるのに、えっちな気分になっている自分を認めたくない。そんな姿がはしたなく思えて、醜く見えたから。

 高校生だった頃はこんなんじゃなかった。
 先生と出会うまで、私はこんな風じゃなかった。
 私はそんなに、えっちな子なんかじゃない。
 そう思うのに、埋められた指先から漏れる水音が、私の強がりを根こそぎ崩していく。

 素直になれない心と、素直に反応を示す身体。
 矛盾してる。
 先生とちゃんと付き合い始めて、まだ数日しか経っていない。なのに、もうこんな風になってるわたしは、私達は、何かがおかしい気がした。

「……もうすぐ」

 耳朶に唇が触れた。
 小さな囁きに混じって、熱い吐息が耳に掛かる。

「弟くん達、帰ってくるかな」

 はた、と瞬きを落とす。
 いつもなら、既に帰宅している筈の中3と高1の弟達は、中体連・高体連が共に近いせいか、ここ最近帰りが遅い。部活のミーティングが長引いていると言っていた。
 だけどもう、いつ帰ってきてもおかしくない時間帯だ。
 時計の針は既に20時半を示している。
 そこで初めて、焦りが生まれる。

「せんせ……も、やめ、て」
「やめてほしい?」
「だって……っ、バレちゃう…よ……あ、」

 ぬぷぬぷと緩い動きを保っていた指先が、その直後、更に奥へと埋まった。

 すっかり濡れそぼったそこは、なんの抵抗もなく、突然の侵入者を受け入れる。粘着質な音を響かせながら、最奥へと辿りついた。
 苦しいような、むず痒いような、初めて味わう感覚に息が詰まる。

「ん、あ、やだっ」

 少し、語尾が強くなってしまった。
 はっきりと拒否を示せば、ぴたりと指先の動きが止まる。

「やめてほしい?」
「っ、ん」
「そう」

 息も絶え絶えの状態で、それでも必死に頷いた私は、もうまともに会話が出来る状態じゃなかった。素っ気無い先生の返事は静かな空間に溶けていって、後には静寂だけが残る。
 先生は意地悪な時もあるけれど、でも私が本気で嫌がるようなことは、絶対にしない。
 だから今回も、きっと私の意志を汲んでくれる。こんな事やめてと訴えれば、やめてくれる。
 そう思って、「そう」と返された返事に安堵の息を漏らした───その時。
 お腹に先生の腕が回り、後ろから強く抱き込まれた。

「あっ……!」

 奥に埋まっていただけの指が屈折して、お腹側を強く引っ掻く。
 尋常でない程の刺激が襲って、思わず声を張り上げてしまった。

「え、あ、なに……あ、あっ!」

 小刻みに指が動く度に、今まで味わってきた気持ちよさとは全く違う、別物の刺激が襲ってくる。
 初めて与えられたその感覚に、咄嗟に胸に抱いたのは恐怖心。

 ───こわい。

「や、やだ、まって……!」

 自分の身に何が起こってるのか、わからないまま喘ぎ泣く。中心からは止め処なく蜜が溢れ出てきて、私の意思とは関係なく、淫らな音を響かせている。
 混乱する思考と、乱される心。
 なのに身体だけは、素直に快楽を受け入れてた。

「香坂」
「あ……っ!」
「本当に、やめていいの?」
「待っ……や、おく、おくやだ、先生っ」
「こんな状態で、やめられるわけないよね」
「も、指やだよぉ……っ」
「これ、なに? 糸引いちゃってるよ? ほら」

 お腹に回されていた腕が解かれる。滴り落ちる蜜を掬って、わざと見せ付けるように眼前に晒された。
 指と指の合間から、とろりと愛液が糸を引いているその様は、恥辱としか言いようがない。
 あられもない自分の有り様を見せられて、羞恥で顔が染まる。

 もうやめてほしいと懇願しても、先生は動きを止めることも、指を抜くこともしてくれなかった。敏感な場所に蜜を塗りつけられて、中だけじゃなく外からも与えられる刺激に身体が震え上がる。

「う、ん……っ」
「濡れちゃうから、これ脱ごうか」
「あっ」

 中から指が抜ける。そのまま膝裏を掴まれた。
 ぐっと片足を持ち上げられて、一瞬だけ腰が浮く。その隙に、ショーツを器用に脱がされた。
 中途半端に脱がされたそれを足先に引っ掛けたまま、再び先生の手が秘所に触れ、指が埋まる。最奥で掻き乱されて、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音がひっきりなしに漏れる。その淫らな水音に、羞恥と興奮を煽っていく。

「は……ぁ、う……んんっ……」

 熱い吐息が漏れる。

 お腹が苦しい。でも、さっきまで感じていた恐怖心は次第に薄れていた。

「……あ……れ、なんか……」
「……ん?」
「……きもちいい……かも……」

 先生の指先が蠢く中で次第に生まれたのは、初めて感じる、奥での快感。
 窮屈な苦しさが、甘い疼きに変わる。
 女でしか味わうことが出来ないその快楽に、心も素直に溺れていく。

「……やめてほしい?」

 さっきと同じ問いかけを、また投げかけてくる。

 ずるい。
 今そんなことを言われても、逆らえるはず、ないのに。
 全部、ぜんぶ先生の計算なんだ。
 先生の手のひらで転がされてるみたいで、悔しい。悔しいけれど。

「やだ……やめちゃやだ……」

 必死に懇願する。
 先生は何も言わなかったけど、指先の動きは一向に止む気配がない。やめるつもりなんて、はなから無かったんだと悟る。

「……せんせい、は」

 感覚にだいぶ慣れてきたのか、心に余裕が生まれてくる。自然と、口から言葉が零れた。

「先生は、えっちが、好きなの?」
「いや」

 私の問いかけに、指の動きが少し緩む。
 でも口調ははっきりと、拒否の言葉を貫いた。

「俺が好きなのはえっちじゃなくて、香坂だから」
「……うん」
「誤解しないでね。香坂が好きだから触れたいんだよ」
「うん」
「ずっと触れたかった。我ながらよく卒業まで耐えたと思うよ、ほんとに。学校で手出すわけにはいかないし」
「………」

 それ以前に教師です。

「俺さ、香坂に触れてもらえるの好きだよ。嬉しいし、俺も触れたいって思う。香坂にも、そんな風に思ってほしい」
「……私も、嬉しいですよ」
「うん。だから、俺に触れられて、嬉しいとか楽しいって思って貰えたらそれでいいよ」

 ───それでいい。

 重過ぎない、むしろ軽いとも思える言葉が胸に響く。
 男女が肌を触れ合う行為に、変に背負いすぎていた私の心情なんて、既に先生は見抜いてたんだね。
 それでも、こうして触れてくれた。
 私を好きと言って、たくさん気持ちよくしてくれた。
 意地悪も多かったけど、いつも優しかった。
 触れた手も唇も、愛情が溢れてた。

 互いに肌を通して触れ合うことは、決してはしたない事でも何でもなくて、嬉しかったり、楽しいって気持ちを共有するものであってもいい、そう先生が教えてくれた。
 どうしたって私は、やっぱり先生が好きで、どうしようもなく好きで、どんな事をされてもやっぱり、好きで。
 だから、触れてほしい。
 先生も、同じように思ってくれていたことが素直に嬉しかった。

「……あ」

 そっか。
 私がこんな風になっちゃったのは、先生のせいなんだ。

 触れてほしいと思うのは、先生が好きだから。
 こんなにえっちな気分になるのも、あんな夢を見て泣いちゃうのも、先生だから。
 もし夢の相手が先生じゃなかったら、あんな風に泣きじゃくったりなんてしないし、先生以外の別の誰かに触れられても、私はこんな風に乱れたりしない。
 だって、その相手に特別な感情を抱いていないから。

 私にとって先生は、唯一無二の特別なひと。

 私はえっちな子なんかじゃない。
 誰にでも、こんな風にならない。
 先生だけが、私をこんな風にさせてくれるの。

 だから私が、こんな気分になる事に罪悪感や嫌悪感を抱く必要なんて、ない。
 強がる必要も、きっとない。
 先生のことが好きって証拠だもん。
 だから、素直に身を任せてもいいんだね。

「んっ……あ……あっ」
「……香坂」
「んむっ」
「ちょっと、声抑えようね」
「んっ、んん」

 大きな手が、私の口を覆う。
 先生の指は変わらず愛撫を続けていて、私は身体を震わせながら、喉の奥からくぐもった声を上げた。

 声を出せない状況というのは、案外、辛い。
 わかってる。
 ここは、先生のおうちじゃない。
 私の実家で、学校から帰宅途中の弟も、外出中の両親もいつ帰ってくるかわからない。私の部屋で眠ってる弟達だって、いつ目が覚めるかわからない。もう起きてるかもしれない。
 そんな状況で、家の中からこんな声が聞こえてきたら、私達が何をやっているかなんてバレバレだ。わかってるけど。

 ……それでも先生に声、聞いてもらいたい。
 先生の手で、指先で、こんなに気持ちよくなってる私の姿を、もっと知ってもらいたい。
 そんな私を見て先生が喜んでくれたら、嬉しい。
 さっきまで恥ずかしさでいっぱいだったのに、今は幸せって感情が勝っていた。





 ………9ヶ月。

 付き合い始めてまだ数日、じゃない。
 半年以上、だ。


 9ヶ月も、待ったの。
 我慢したの。
 触れたくて、触れてほしくて、特別扱いされたくて。
 先生も、同じだったんだね。




「は……、み、ずしま、せんせ……」

 口元を覆う温もりが緩む。
 解放された唇が吐息と共に紡いだのは、先生の名前。

「っん……んんっ…、」

 膨れ上がった蕾を、指の腹が優しく撫でる。
 その度に、電流が走ったかのような刺激が断続的に襲った。
 何度も摩擦を繰り返す愛撫に乱された身体は、次第に高みへと上り詰めていく。

「……すごいね、ヒクついてる。イキそう?」
「ん、うんっ、いきたいっ……」
「どうしようかな」
「や、やだぁ……先生の指でいきたい……っ」
「……そうだね。お仕置きはもういらないね」

 私の両手を拘束してるタオルを、先生の片手がするりと解いた。
 背後から抱き寄せられて、ぎゅっとされる。離さないといわんばかりの力強さに胸が熱くなる。

 私の肩を抱く腕にそっと触れてみれば、視界に入る私の手首。縛られた跡がほんのりと赤く色づいていて、それすらも愛しさへと変わってしまう。先生につけられた跡、それだけで。

「あっ、あ……せんせ、もう……」

 果てが近いことを訴える。耳元で小さく笑う気配が伝わって、指の動きが大きなものに変わった。
 いかせようとしてくれてるのかな、そう思ったら何故か嬉しい気持ちが込み上げる。先生の胸に深くもたれかかって息を吐いた。
 秘所はたっぷりと湿り気を増して、指が抜き挿しされる度に白い泡を溢れ出す。絶頂がすぐそこまで来ているのがわかった。

 思考も理性も、快楽で塗り替えされていく。
 もう此処がどこかとか、周りに人がいるかもしれないとか、まともな状況判断すら出来ない。
 先生を好きになって、触れ合って、私はきっと恥なんて言葉も意味も忘れてしまったんだ。

「っあ───……、」

 頭の中が、真っ白に染まる。
 先生の指先に導かれて、私は最後にふるりと身を震わせた。

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