キッチンでしちゃうお話。1 最近、先生のお部屋によく来てるなあ。 そう思いながら、システムキッチンをお借りして夕飯作りに勤しんでいた時のこと。 いつの間にか私の背後に立っていた先生の両腕がお腹に回って、ぎゅうっと巻き付いてきた。 びっくりして、思わず体が硬直する。 突然の抱擁に慣れていない私の動揺っぷりもまるで無視して、先生は後ろからぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。そして、コツン、と肩に額を押し付けてきた。 甘えるような仕草に、心がキュンと高鳴る。 「先生」 「んー……?」 「今、ご飯作ってるから。向こうで待っててほしいの」 「ん」 でも先生が離れる様子はない。 ひっつき虫みたい。 最近お疲れ気味の先生のために、栄養満点なご飯を食べてもらおうと意気込んで来たのに。野菜だっていっぱい買い込んできたのに。後ろから抱き締められているこの状態じゃ動けないし、料理に集中もできない。危ないし、なにより落ち着きません。 高校を卒業して、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。 晴れて先生の彼女と呼べる立場になれたけど、『先生』と『生徒』の時間が長かったせいか、恋人らしい触れ合い全然慣れなくて。 こうして先生に抱き締められただけで、心臓が壊れるんじゃないかっていうくらい暴れだすし、逃げたくなるくらい恥ずかしい。 でも先生はこんな触れ合いも、きっと慣れっこなんだろうな。 とはいえ、ひっつき虫な先生を放置して料理続行は難しい。 お腹に回された手をぽんぽんしても、離れない。 肩に埋められた頭をよしよししても、離れない。 なんとかリビングに戻って貰おうと色々試みるも、全て玉砕。 これは。 なかなか一筋縄ではいかない予感。 ……先生って、お家ではこんなに甘えたさんなのかな? 「……先生」 「ん」 「包丁とか、持ったりするから、危ないのです」 「うん」 「なので、少しの間だけ離れて頂けると、嬉しいです」 「やだ」 驚きの速さで拒否られました。 「ひゃ!」 先生の手がもそりと動いて、突然服の中に入り込んできた。 弱点でもある脇腹を撫でられて、私は体を2つに折って笑ってしまう。 「ふあ、も、くすぐったい、あはは」 「このへん弱いんだっけ?」 「や、だめですってば」 身を捩って逃げようとしても、お腹に回された片腕がそれを阻む。 私が逃げられないのをいいことに、先生の手が悪戯にあちこち撫でてくるから、くすぐったくて堪らない。 もう、これなんの拷問? そんな馬鹿っぽいやり取りを繰り返してるうちに、私で遊んでいた先生は何やら気が変わったようだった。 明らかにふざけていた手のひらが、含みを持たせた撫で方に変わる。明確な意思を持って動く指先がそろそろと上に這い上がり、ブラに触れた。 「っ、や」 「ん?」 「だめ、ご飯が先です!」 「それはつまりご飯の後ならいい、と」 「ちがいますー!」 えっちな雰囲気になりそうな流れを断ち切ろうと、服の上からぺしっと先生の手を叩く。 先生自身も本気ではなかったようで、あっさりと服の中から手を抜いた。 「……ご飯、まだ?」 再びお腹に先生の腕が巻き付いてくる。 ひっつき虫再び。 えっちは諦めても、離れるつもりはないらしい。 離れてほしいとは思っても、背中に圧し掛かる重みがくすぐったくて、嬉しくなってしまう。 「んと、もう少しかかりそうです」 「どのくらい?」 「15分くらい、かな?」 「15分」 「ごめんなさい、お腹すきましたよね。急いで夕飯作るので」 「ううん、すいてない」 「空いてないんですか?」 「すいたけど、すいてない」 「ん、どっち?」 「俺はご飯を待ってるんじゃなくて、香坂を待ってるんです」 だからご飯より早く構って、と甘えたことを言う。 「……10分で仕上げるので、待っててほしいです」 「だから俺も手伝うって言ったのに」 「だめです。先生は疲れてるんだから、休んでいてください」 そう諭してみるものの、んー、とか曖昧に返答を濁してくる。やっぱり離れる様子はない。 お腹に回された腕をそっと外して、背後を振り返る。先生と向かい合って、彼の肩に手を置いた。 私の行動に首を傾げつつも、先生は身を屈めてくれて。ぐっと背伸びして、先生のほっぺにチュッと軽くキスを送る。今の私には、これが精一杯の愛情表現。先生は驚いた表情で私を見返してきて、思わず視線を下に落とした。 だって今の私はきっと、真っ赤だろうから。 顔見られるのが恥ずかしい。 「こ、これでも、ダメですか?」 「……うーん。口がよかったかな」 「そ、そんな勇気ないです」 「以前は香坂から口にしてくれたのに今更」 「え……?」 先生の発言に、今度は私が首を傾げる番。 以前? 記憶がない。 数日前の飴ちゃん事件のときは、結局自分からはキスできなかったし。 「あの……いつの話ですか?」 「初めてキスした時」 「……!」 " その時 "の光景が突然頭の中にフラッシュバックして、あっ、と声が上がる。 それは、もう数ヶ月前に遡る。 先生と想いを伝えあった、あの日の夜。 たくさんキスをくれた先生に、私も同じくらいのキスを先生に返した。 先生の唇が離れていくのが寂しくて、いっぱい背伸びして、先生に唇をくっつけた。 そのことを今更思い出して、かあっと羞恥に顔が染まる。 あの時は先生と想いが通じたことがすごく嬉しくて、すっかり舞い上がっていたんだ。気分がハイになってたんだと思う。我ながらすごく大胆なことしてたって思うけど。 先生の指が、熱くなった頬に触れる。 顎を掬い取られて、上を向かされた。 至近距離で目が合う。 「……顔真っ赤」 「う」 「思い出してくれた? あの時の香坂サンは積極的だったね」 「っあ、」 再び服の中に侵入してきた手のひらが、肌の感触を味わうかのように、ゆったりと撫で回す。さっきの、脇腹をくすぐるような触り方なんかじゃない、快感を誘い出すような撫で方。肌に触れるか触れないかくらいのソフトタッチに、体は否応にも反応を示す。 ぴくんと震える私のすぐ傍で、先生が小さく笑う気配を感じた。逃げたくても、今度は腰に回された片腕に拘束されて身動きがとれない。 「先生、だめ……んっ」 逃げるのが無理ならせめて言葉で制しよう。 なんて思って開こうとした口も、先生の唇であっさり塞がれてしまう。 キッチン台に体を押し付けられ、腰に回された腕に動きを封じられ、もう成す術もない状況に追いやられている。 先生の胸に手を置いてみたところで、抵抗とは言い難いほどに力は弱々しいものだった。 「……香坂」 「っ、先生、まって」 「無理。待てない」 「ご、ご飯は」 「後でいい」 「だ、だめです」 「なんで」 「元気出してもらおうと思って作ったのに」 「俺はご飯より香坂に構ってる方が元気出る」 「え、ええ……」 どうあっても止めるつもりがない先生は、でも、と形ばかりの抵抗を口にする私の唇を、また塞ぐ。 「んっ、んん、ふ」 あっという間に隙間から割り込んできた舌が私のものと絡まる。くちゅ、と濡れた音が咥内で響いた。 服の中で彷徨う手は、背中と腰を行ったり来たりして、私の中にある熱をどんどん高めていく。 慣れた手つきでブラのホックに手を掛けて、あっさりと外されてしまった。 ほんとに。 ほんとに、こんなとこでえっちする気なのかな。 ご飯前なのに。 ここベッドじゃないのに。 こんな明るいところで。 シャワーも浴びてない、のに。 トップページ |