甘くて柔らかいキスにとける。2 卯月さんのお部屋は、コンクリートが打ちっ放しのデザイナーズマンションだ。必要最小限の家具やインテリアが配置しているだけの、殺風景な印象を受ける内装。でも、寝室に足を運ぶとその光景はガラリと変わる。 木彫に仕上げられた壁面にはブラケットライトが取り付けられていて、セミダブルベッド全体に、柔らかい光のグラデーションを描いている。床の一部にはライン状の間接照明が彫り込んでいて、床から壁面に登る光の空間は、上質なインテリア空間を演出している。さながら、一流の高級ホテルを思わせるような上品でお洒落な造りだ。 昼間は陽の光が窓から降り注ぎ、夜はベッド全体に柔らかな間接光を落とす。官能的な雰囲気を生み出す卯月さんの寝室は、私のお気に入りの場所のひとつ。 こんな素敵な寝室で……このベッドで、私は卯月さんに抱かれてるんだ。 そう考えただけで胸がきゅうっと締め付ける。頬が勝手に赤くなって胸がドキドキして、卯月さんに恋してることを自覚する。寝室まで抱っこされながらベッドまで運ばれて、ゆっくりと横たえられた時、その高揚はピークに達した。 今日はえっちしないって言ってたけど、えっち出来ないけど。でももしかしたら、卯月さんの気が変わって最後まで抱いてくれるかも。なんて、淡い期待を抱いてしまって子宮が疼く。 でも。 「いいか奈々」 「……なに?」 「挿れて気持ちよくなる事だけがセックスじゃないぞ」 「……?」 「教えてやる」 自信たっぷりに言い切った卯月さんは最高に格好いい。 でも、今日はやっぱり挿れるつもりはないみたい。 その事実にちょっとだけ落胆したものの、沈みかけた気持ちはすぐに浮上する。枕元に置かれたローターの存在を思い出したからだ。 今日はいつもと違って、気持ちよくなれるアイテムが彼の手中にある。どんな風に使われてどれぐらい快感なのか、どんな風に乱れてしまうのか想像しただけで興奮が増す。はやる気持ちを落ち着かせてから、覆い被さってきた卯月さんを見つめ返した。 光の影が揺らめいて、卯月さんの顔が近づいてくる。キスの予感を感じ取って目を閉じたけど、卯月さんの吐息を感じた瞬間、それはすっとスライドした。 ちゅっ、と可愛いリップ音が頬に落ちて、思わず目を見開いてしまう。ぱちりと瞬きを繰り返す私を見た卯月さんが、ふっと微かな息を漏らした。 「キスされると思った?」 「思った……」 絶対にキスされる流れだったのに、寸止めされるとは思わなかった。でも、卯月さんの焦らしはこれだけに留まらない。頬から鼻に移動した唇が、瞼に額、こめかみに、軽く唇を当てるだけのソフトなキスが落とされる。強い刺激はないけれど、優しい触れ合いの数々は私に安心感を与えてくれた。 でも、なかなか唇には触れてくれない。 それに、もうひとつ。 「卯月、さん」 「ん?」 「ローター……は?」 卯月さんの手は、まだローターに触れていない。いつ使うのかな、と待ち焦がれている私の唇に、やっと卯月さんの唇が重なった。 「……後でな」 唇を触れ合わせながら囁かれた低音にドキッとする。至近距離で目が合って、恥ずかしくなってぎゅっと目を瞑った時、卯月さんの唇が私の下唇を甘噛みするように挟んできた。 「っ、あ……」 予想外の刺激が襲って、身体の力が一気に抜ける。思わず吐息を漏らしてしまった私を見て、卯月さんはもう一度唇を押し付けてきた。今度は、強めに。 「っ……、ぁ、ん……」 卯月さんの舌先が、私の唇をなぞっていく。味わうように舐められて、もう一度下唇を軽く吸われて挟まれて。様々なバリエーションを駆使して披露される数多のキスに、頭の芯が蕩けていく。 神経がたくさん集まっている唇は性感帯のひとつ。舌先でゆっくりなぞられただけで、今まで感じたことのないような感触が生々しく残り、痺れるような快感が広がる。これだけでも十分気持ちいいけれど、やっぱり物足りなくて、深いキスがしたくなる。卯月さんの熱に触れたくて、自ら口を開いて彼を誘う。 そうすれば、卯月さんも私の思いに応えてくれる。口内に舌が侵入した事で、濃厚なキスへとエンジンが掛かった。 「ふぁ、ん……ッ、ふ……、んっ……!」 舌と舌が絡み合う度に、口内でクチュクチュと唾液が交じる。その水音に官能を刺激されて、アソコがじんわりと熱を帯びた。 歯列も唇裏も舌下も、頬裏まで、余すところなく舐められて息が上がる。慣れていない場所を舐められて、無性に恥ずかしくなって避けようとした私の行為は無駄に終わった。敏感な場所を探り当てられて責められてしまえば、卯月さんから逃げることなんて不可能だったから。 ローターどころか身体も触られていない、服も脱がされていない。まだ、キスしかしていない。 なのに私の口からは、甘い嬌声ばかりが零れ落ちる。 「ん、んっ……、う、卯月さ……キス、ばっかり」 「やだ?」 掠れた声が耳元に落ちる。甘い低音に腰が砕けちゃいそう。 「や、じゃな、い……」 かろうじて発した私の声は弱々しい。キスだけなのに、前戯のような錯覚に陥って感じまくってる自分の姿を見られてることが恥ずかしい。 ……ていうか、「やだ?」って訊いてくる声が柔らかくて甘くて、その声だけでまた濡れちゃう……。 「……奈々、顔上げて」 「う……恥ずかしいよ……」 「俺の顔見てろって」 「ん……っ、」 もう何度目かもわからないキスが再び降りてきて、当たり前のように舌と舌を絡ませ合う。いつもよりも遥かに多いキスの嵐を受け止めていたら、ずっと頬を撫でていた卯月さんの手が、私の耳に触れた。 ふにふにと、指で耳朶を愛撫されながらキスされてる。それだけで感度が増して、ものすごく気持ちがいい。心がふわふわと舞っているような夢心地に浸っていたら、キスをやめた卯月さんの唇が、今度は私の耳朶をかぷ、と咥えた。 「ひゃ……っ」 くすぐったさに身を捩っても、卯月さんの体が圧し掛かっていて動けない。チュッ、とリップ音が耳元で弾けた。 卯月さんの吐息が熱い。 柔らかな舌先に耳のあちこちを弄ばれて、強い刺激に身体が仰け反りそうになる。耐えられそうになくて、卯月さんの背中に両手を回して思いきりしがみついた。 それでも卯月さんは、耳へのキスをやめてくれなくて。 「やぁ、約束、ちがうっ」 「……ん?」 「ローター、は」 「後で」 話を振っても避けられてばかりで、卯月さんは全然ローターを使ってくれない。そればかりか、執拗に耳ばかりを責めてくる。顔中に降り注ぐキスの嵐に酔ってしまう。 ずるい。卯月さんは、ずるい。 好きな人から、こんな極上のキスをされたら拒めるはずなんてない。他のことなんてどうでもよくなってくるほどに、彼のキスに溺れていく。 パジャマのボタンを外され、鎖骨周辺にもキスの印を散らされる。ゾクゾクが止まらなくて、子宮も疼いて仕方ない。えっちできないんだから我慢しなきゃいけないのに、悪戯に性欲を掻き立てられて泣きたくなる。恨みがましい視線を向けたら、卯月さんは瞳を細めて微笑んだ。 「……目、潤んでる」 「あ……」 「すげえ可愛い」 そう囁く卯月さんも、少しだけ息が乱れてた。余裕がなくなってきているのか、一緒に興奮してくれていることが嬉しかった。盛り上がってるのは私だけじゃないんだって知って安心する。それを証明するかのように、今度は噛み付くようなキスが落ちた。 今までの優しいキスとは全然違う。荒々しくて、吐息ごと全部持っていかれちゃうような野性的な口付け。抑えきれない欲情を剥き出しにされて、女の部分が素直に悦びを感じてる。抱かれたい欲求が、ますます強くなる。 「……はっ、ぁん……っ、」 「こら、逃げるな」 「や……う、づきさん」 「ん?」 「えっちしたい……」 焦らし効果と抑制された興奮、何度も繰り返された濃密なキスのお陰か、私の中心は愛液が溢れて止まらなくなっていた。 あそこが熱い。 触って欲しくてジンジンしてる。 卯月さんの硬くなったモノで、いっぱい突かれて気持ちよくなりたい。奥の奥まで満たされたい。 生理中って言ってももう5日も経ってるし、血もほとんど出ないはず。だから、だから。 「したい?」 「うん……」 「我慢できない?」 「できない……」 宥めるように私の頭を撫でて、卯月さんは小さく笑みを漏らした。さっきまでの濃厚なキスをやめて、今度は唇をくっつけるだけの軽いキスが降りてくる。ちゅ、ちゅっと穏やかなキスを繰り返した後、耳元で囁かれた。 「俺が欲しい?」 甘くて、柔らかい声にすら感じてしまう。 「……卯月さんが欲しい」 「俺も奈々が欲しい」 「あ……ッ」 また、耳にキスされた。 「……抱きたい」 「……っ」 「奈々のナカに挿れたい」 吐息交じりの囁きに身体が震える。耳の周辺も裏側も、舌先でくすぐられて腰が跳ねた。その隙を狙って、卯月さんの手が私の下ズボンを下ろしていく。腰を浮かせれば、ゆっくりと膝下まで引き下ろされた。 露になった太股に、卯月さんの指先が触れる。焦らすように、つぅ……と撫でられてぞくっとした。 指の腹が太股の内側を滑り、その甘い感覚に身震いする。 「ん……ッ」 自然と、甘い声が出た。 指先は徐々に、一番敏感なところへ。 「あっ、あ……」 「……そんな声出すなよ。したくなる」 「し、して……?」 「だめ。今日はしないって言っただろ? ……でも、」 ショーツの上を滑る指が、ある一点のところでピタリと止まって、 「……ココに挿れたら、奈々がどうなるのか、見たい」 ショーツ越しに、ぷっくり膨れた花芽をぷに、と押した。 それだけ。 たった、それだけなのに。 「……あッ、ひゃ、ぁ、あ……ッ!」 膣がきゅうっと強く締まって、ビクンッと身体が仰け反った。 頭の中が真っ白になる。何の前触れもなく絶頂を迎えてしまって、釣り上げられた魚みたいに、身体がぴくぴくと痙攣する。 ほとんど何もされていないのに、いっぱいキスされただけなのに。キスだけでボルテージを最高潮まで上げられて、一番イイ瞬間にアソコをつん、ってつつかれただけでイッちゃった……。 乱れた呼吸を繰り返す私に、卯月さんは唇を耳にくっつけたまま囁く。 「キスだけでこんなに濡れて……ぬるぬるしてるじゃん、ココ」 今度はすっと指が滑って、絶頂の余韻が残る身体がまた跳ねる。さすがにイくことはなかったけれど、ぞくぞくと走る甘い刺激が止まらない。 「あ、ぅ……や、だめぇ……」 「イッた?」 「い、いっちゃった……」 「……ほんと、感じやすい身体だな」 「違うぅ……卯月さんがこんなカラダにしたの……」 卯月さんに出会う前は、こんなに濡れやすい体質じゃなかった。好きな人に抱かれる幸せも知らなかった。本能で感じるセックスを教えてくれたのは、全部、卯月さんだ。 身体から次第に波が引く。乱れた呼吸を整えていたら、頭に手を置かれて撫でられた。 ゆっくりとした動きが心地よくて、瞳がとろんとしてくる。 「卯月さん、結局ローター使わなかったね……」 「使うまでもなかったな」 「使ってくれるって言ったのに」 「使ってやるとは言ったけど、今日使うとは言ってねえ」 「ああああドSめ……好き」 「まあ次回の楽しみにとっとけ」 「はーい!」 結局ローターは未使用のままだし、最後まで出来なかったけど、いつもよりいっぱいチューしてもらえたし、言葉責めも最高だった。結果的にムラムラも発散できたから満足♪ 幸せな気持ちが爆発しそうで、感情の赴くままに卯月さんに再び抱きつく。猫のようにごろごろと甘えていた時にふと気づいた、太ももにあたる、なにやらお硬くなったもの。 ツンと自己主張しているそれに手を伸ばせば、卯月さんがぴたりと動きを止めた。 「卯月さん卯月さん」 「なに」 「この、おっきしちゃったの、どうするの?」 「ほんとにな。どーすんのお前これ」 「こ……これはつまり、私がおクチでご奉仕する展開にな「りません」 「ええええええなんでぇぇ」 感じてる私で興奮してくれたのかな、と思うと、彼女としてはやっぱり嬉しい。そして、我慢させてしまっている事に申し訳なさも募る。 生理が終わったら、今度は私が卯月さんをいっぱい気持ちよくさせてあげなきゃ! (了) トップページ |