彼と彼女のクリスマス。2


 クリスマスは一緒に過ごせないと思っていた私は、内心かなり沈んでいた。プレゼントのことまで気が回らなくて、本当に何も考えていなかった。
 更に言い訳をすれば、クリスマスに彼氏がいた経験が私にはなく、男に贈り物をするという意識がそもそも無かった事も理由にある。
 だとしても自分、最悪すぎないか。
 こうなったら、「プレゼントは私です☆」とか定番のネタをやった方がいいのかな!?

 ……いや、そんなアホっぽいのはいらない。
 彼氏に贈るクリスマスプレゼントくらい、ちゃんと形のあるものにしたかったのに。

「卯月さんごめん、私プレゼント忘れてた……」

「いいよ別に」

「でも……あげたかったよ」

「じゃあ来年待ってるわ、2年分」

 そんな一言に顔を上げる。その言葉の意味に気付いて、思わず頬が緩んでしまった。
 来年の今頃も、こうして一緒に過ごせることを仄めかした上で贈り物を請求する辺り、卯月さんは私の性格をよくわかってる。
 格好つける訳でもなく、自然体でそんな事を言われたら誰だって嬉しくなってしまうものだ。


 ……なんて、喜んではみたものの。


「まだ気にしてんの?」

 一緒に夕飯を食べた後。
 お互いにお風呂も済ませ、卯月さんとソファーでまどろんでいた時。無意識に零れてしまった溜め息もこれで何度目か。卯月さんは呆れた顔だ。

 来年の約束をしてくれたと言っても、初めて卯月さんと過ごすクリスマスなのに。やっぱりプレゼントを贈りたかった、そんな思いが消化しきれなくて私はずっと落ち込んでいる状態だ。

 ……ちなみに卯月さんからのクリスマスプレゼントは、ダイヤのハートネックレスだった。
 今、私の首元で光るのは、可愛いハートとダイヤが交互に連なっている、華奢で女性らしい印象のアクセサリー。つけてくれたのも勿論、卯月さん。
 綺麗でしなやかな指先が、私にネックレスをつけてくれるその一瞬一瞬の仕草を、私は鏡越しにガン見しました美しかった。
 プレゼントだけじゃない、ケーキまで用意してくれたのに、私だけ貰ってばかりの現状にはやっぱり心残りがある。

「一緒に過ごせるだけで、俺は十分だけどな」

「うー、でも、何かしたい。何かないかなあ」

 さっきから唸ってるのはこの為だ。プレゼントを用意できなかった代わりに、私ができることがあれば何かしたい。何ができるのかうんうん唸っていた時、視界に鮮やかな赤色が飛び込んできて目を見張った。

 ぴょん、と私の膝元に跳び込んできた、サンタコスチューム姿のくまちゃん。
 その愛らしいサンタ服を目にした時、去年購入したコスチュームの存在を思い出した。

「卯月さん卯月さん卯月さん!!」

「連呼すんな。どうした?」

「ちょっとここで待っててね! わたし、着替えてきますっ!!」

「……は?」

 突然お着替えタイムを申告した私に、目を白黒させている卯月さんを放っておいて、私はくまちゃんを抱きかかえたまま立ち上がる。ケージに入れてあげた後、急いで寝室に駆け込んだ。
 目的はクローゼットの収納棚。
 引き出しの奥を漁り、目的のものを引っ張り出す。

「……あった! これだ!」

 それは去年、ネットで一目惚れして衝動買いしてしまったもの。サンタコスチュームのランジェリーだ。

 赤のベロア生地は上品な色合いで、白いふわふわがサンタコスの愛らしさを表現している。布面積の狭いトップスは、もはやブラと何ら変わりがなく、紐を背中で結んで固定するタイプだ。
 白いボンボンがついている紐パンTバックに、白網タイツにも飾られた赤いリボンと白いボンボンが、可愛らしさを演出している。
 神聖な夜にあるまじき過激なランジェリーだけど、もともとの素材の高級感、そしてエロと可愛さのバランスが絶妙で、見た瞬間にハートを打ち砕かれてしまったんだ。

 購入したのは1年前だけど、結局身に付ける機会がないまま、お蔵入りになっていた。
 卯月さんへのプレゼントは何も用意できなかったけど、何もないままで終わらせたくない。
 このサンタコスで、卯月さんを喜ばせてあげるんだから!



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「じゃーん!」

 コートを羽織り、卯月さんの前に立つ。
 ぱっと前を開いてサンタコスを披露すれば、卯月さんは目を丸くしながら私を見つめていた。

 ある意味予想していた反応ではあったけど、固まったまま何も言ってくれない卯月さんに、少しずつ焦りが生まれてくる。あれ、まさかドン引きしてるのかなと不安になった頃、やっと卯月さんがアクションを起こした。

 ちょいちょいと手で招かれて、私は大人しく卯月さんに近づいていく。ゆっくりと片手を引かれ、向い合わせのまま膝の上に乗せられた。
 卯月さんを見下ろす形になって、いつもと違う目線の高さにドキドキする。

「え、ヤバくねそれ。エロい」

「でしょ! 似合ってるかな?」

「似合う。すげぇ可愛い」

「やったー!」

 素直に褒められたのが嬉しくて、私は両手を挙げてガッツポーズ。今日のために用意していたランジェリーではなかったけど、どんな形でも卯月さんが喜んでくれるなら何でもいい。
 特にこの手の服は、よっぽどスタイルに自信がないと着こなすのは難しいんだから。

 特にトップス。ブラに近いとは言ったものの、ワイヤーやカップは当然ない、ただのペラッペラな布だ。おっぱいがお椀型じゃないと綺麗な谷間ができないし、少しでも垂れているとだらしない印象に見えてしまう。
 セクシー路線を売りにしたランジェリーというのは、身体のラインが綺麗な曲線美を描いていないとまず映えない。加えて豊富なバストと美肌も大事な要素。これらが全部備わっていないと、男から見ても全くそそられない。エロいコスチュームのはずなのに、エロさが全く機能しないのは致命的だ。
 でも私の場合は、それらに関しては全て、及第点を越えてると自負してる。なんせ、スタイルの維持と美肌作りには徹底的に拘っているからだ。
 だから余計に、褒められると嬉しいと感じる。スタイルの良さと日々の努力が認められたようなものだから。

「てか、何でこんなの持ってんだよ。買ったのか?」

「そー! ネットショップで見かけたんだけど、可愛かったからついポチッてしちゃった!」

「サンタコスっていうか、ほぼ下着じゃん」

「興奮した!?」

「かなり」

 満足そうに微笑んだ卯月さんは、見た目は余裕そうに見える。でも、その瞳の奥に情欲が宿る瞬間を、私は見逃さなかった。

 今まで、会おうと思えば毎日会えていた私達。
 でも卯月さんが多忙になってからは、連絡を取り合うだけで互いの部屋を行き来することもなかった。だから、えっちもご無沙汰だったりする。
 そろそろ彼に抱いてもらわないと、欲求不満で死んじゃいそう。禁欲生活はもう懲り懲りだ。

「卯月さん……」

 弱々しく名前を呼ぶ。卯月さんの上で腰をくねらせて、おっぱいを押し付けるように彼の胸に寄り添った。
 それは私からの「えっちしたい」合図。
 そのメッセージに卯月さんも気付いたようで、片手を私の腰に回して、身体ごと強く引き寄せてきた。
 もう片方の手が後頭部に回り、頭ごと引き寄せられて。一気に縮まった距離にキスの気配を感じて、目を閉じる。

「んっ……んぅ、ふ…っ、ぁ……」

 唇の隙間をこじ開けられて、口内に侵入してきた卯月さんの舌に、自らの舌を絡ませた。
 ねっとりと触れ合う熱。唾液が溢れ、くちゅ、と水音が耳を衝く。身体まで熱くなり、私達の中にある欲を加速させる。
 荒々しい口づけは、余裕のない証なのか。舌だけでは飽き足らず、上顎も歯列も全て舐め尽くされて息が上がる。性急に貪られ、ぞくぞくと甘い快感が迸った。

 いつだって冷静で俺様な卯月さんは、私を抱く時は少しだけ強引で、でも基本的には優しい触れ方をする。
 そんな彼が、理性を失いかけるほどに余裕をなくし、私を求めてくる様は見ていて興奮する。嬉しいし、もっと求られたいと思ってしまう。
 そんな卯月さんの勢いに触発されて、私の動きも大胆になっていく。

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