一夜限りの男、見つけました。1


 過去の経験談から言わせてもらうと、顔のいい男は総じてセックスが下手すぎる。






「っあ、ん、やば、気持ちい……っ!」

 ビクン、と腰が跳ねる。
 何度も抜き挿しを繰り返す指にイかされた身体は、とろんとろんに蕩けきっていた。
 早く、はやく欲しいと子宮が泣く。
 下半身に溜まる熱を放出したくて、私は甘い声で男におねだりする。

「ね、早くいれて……?」
「……っ、奈々ちゃんがそう、言うなら」

 目の前の男の顔が嬉しそうに頷く。快楽を求めているその表情の、なんとだらしない事。
 でも、この顔が好き。
 私を抱きたくて、私を散々喘がせたくて、イかせたくて、そして自身も早く挿れたくてたまらない、そんな顔。強く求められている感覚が、私を満たしてくれる。

 止めどなく蜜が溢れる秘所に、熱い猛りがあてがわれる。ちゅぷちゅぷと悪戯に入口を擦られて、私はたまらず腰を揺らした。

「やぁ……焦らさないで……?」

 涙ながらに訴える。

 涙うるうる&上目遣い&萌え声の必殺技。
 これで落ちない男はいない。
 それは目の前の男も同じだったようだ。
 軽く目を見張った後、ぐちゅん! と勢いよく、中に打ち付けてきたから。
 一瞬、目の前に星が散る。
 「奈々ちゃん、エロすぎ……っ」と、頭上で掠れた声がした。

 理性の糸がぷっつりと切れた男は、勢いのままに猛然と腰を振ってくる。
 優しさの欠片なんて微塵も感じられない、容赦ない突き方。普通の女の子なら、まず嫌われる行為だ。
 私は普通の女子とは違う。
 突然襲ってきた衝撃に、けれど順応しきった身体は快感だけを拾っていく。
 気持ちよくて、気持ち良すぎてたまらない。
 荒々しいセックスが、余計に興奮を煽っていく。

「あんっ、すごいそこ、そこだめ……っ!」
「……は、知ってるよ、ここだよね。奈々ちゃんの好きなところ……」
「あっ、あ、そこ、もっと……!」

 男は盛んに奥を責めてくる。
 でも、決して独り善がりなんかじゃない。
 彼は、私の弱い所も良い所も全部、熟知してる。何故なら私が教え込んだからだ。

 この人も最初はセックスが下手だった。
 それを、私が手取り足取り腰取り(?)、私の弱い所から、どうすればイかせられるのかまで、テクニカルをたっぷりと叩き込ませた。
 そのお陰と言えばいいのか、今ではすっかり私の望むセックスをしてくれるまでに成長してくれた。

 ああ―――超楽しい。

 男を手のひらでころころ転がす優越感。
 自分の趣向にとことん染め上げる支配欲。

 手間暇かけて彼に費やした時間は、決して無駄ではなかったようだ。
 あの時間があったからこそ、今、最高の快楽を得ているわけだから。
 最も、ここまでの道のりは決して楽なものではなかったけれど。



・・・



「タケくん、彼女作らないの?」

 ベッドで寝そべっている私の隣で、ずっとスマホをいじっている男。タケと呼ばれた男が、私に視線を向けた。

 やや幼い顔立ちに、甘さの残る目元。
 明るくて人懐っこくて、大学内の一部の女子から人気がある。
 性格も素直だし、ワンコ系男子の抽象的な人。
 同い年だけど、高校生にも見える。

 スマホに夢中になっているタケくんの傍らで、私もスマホをいじる。明日の夜はどこで男を漁ろうかな、なんて頭の片隅で考えてる。こんなに甘やかな雰囲気が皆無なピロートークも珍しいかもしれない。
 でも別に気にしない。
 雰囲気とかムードとか、別に私はそんなもの、求めていないから。
 セックスが楽しくて気持ちよければそれでいい。

「あー、欲しいとも思うんだけどね」
「うん」
「作っちゃうと、奈々ちゃんと遊べなくなっちゃうと思うとね」
「未来の彼女より、セフレ優先なの?」

 間抜けな返答につい笑ってしまう。

「そりゃそうだよ。奈々ちゃん、自分がどんな存在かわかってる? 高嶺の花だよ? こんなハイレベルな子と遊べるなんて経験、もうこの先絶対にないから」

 少し興奮気味に話すタケくんは、1年前に合コンで知り合った男友達。
 趣味の話で意気投合して、飲み直そうなんて言いながら2人で抜けた。
 行き先はラブホテル。
 男の「飲み直そう」は、訳すれば「えっちしよう」なんだよね、大体は。
 あの日以降、タケくんとはずっとセフレ関係を続けている。

「タケくんに彼女できたら、私、もうタケくんとは遊ばないよ? 彼女大事にして欲しいし」

 それは本当。ただでさえリスキーな生き方してるんだから、面倒事になりそうな要素は避けて通りたい。
 彼女がいる男とは絶対に寝ない。
 家庭持ちの男に誘われても遊ばない。
 そう自分の中でルールを決めている。



 男に抱かれるために生きている。
 自分の存在価値なんてそんなもんだと勝手に決め付けている。それで満足してる。人生たった一人の男、なんて私には絶対に無理だ。

 彼氏が欲しいとは思わない。
 恋愛もまだしたくない。
 色んな男と遊びたい。えっちな事もたくさんしたい。そんな私をビッチだの尻軽女だと笑う女もいたけれど、私から見れば、男にモテない女の僻みにしか聞こえない。
 男に「抱いてみたい」って思われない女って、女として終わってない?

 自分のこの感覚が、世間一般の女子の感覚とズレているのはわかってる。友人からも、「そろそろ男遊びやめたら?」なんて戒めを受けているくらいなのだから。

 それでもやめない。
 やめる気もない。
 何故なら、私を抱きたいと思ってくれている男がたくさんいるからだ。
 そして私もたくさん抱かれたいと思ってる。
 これほど利害が一致しているのに、この夜遊びを放棄するメリットが私には存在しない。








 ラブホを出た頃には、もう外は明るかった。
 時間は早朝の4時。初夏の風が緩やかに頬を撫でて、私の髪をなびかせる。
 昇り始めた陽の光が眩しくて、瞳を細めた。

「本当にここで大丈夫?」

 助手席から降りれば、タケくんは身を乗り出して私の顔色を窺ってくる。
 ただのセフレとはいえ、さっきまで身体を繋いでいた女をひとり道に残して帰るのは、さすがのタケくんでも気が引けるのだろう。
 その気遣いを、手を振って交わした。

「へーき。歩いて帰りたいし〜」

 なんて、明るく振る舞ってみる。
 この言い分も、あながち嘘ではない。

「そっか。じゃあね、奈々ちゃん」
「うん。今日はありがとね! 楽しかったよ」
「俺も楽しかったよ。また誘ってね」
「うん」

 根拠のない口約束を交わして、車は走り出していく。視界から消えるのを待ってから、私もその場を歩き出した。

 どれだけたくさんの男と寝ても、どれだけ回数を重ねても、車での送り迎えは全て断っている。住んでいる場所を安易に明かさないのも、身を守る為に必要な防衛策だ。

 それに、早朝にひとり自宅マンションまで歩くこの時間が、私は結構好きだった。

 充実した疲労感に、満足感を得る。
 たとえ身体目当てだったとしても、私を必要としてくれる人がいる事が嬉しい。
 そして、その相手を満足させられたという事実が、一番私を満たしてくれる。
 案外、私は奉仕系なのかもしれない。

「帰ったらもっかいシャワー浴びて寝よー」

 そんな事をほざきながら、呑気に両腕を天に伸ばした―――その時。

 がつん。
 肉を押し付けるような感触が、左の拳を掠めた。
 同時に「いてっ」と叫ぶ男の声も。

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