▼ミカンむきむき

(会話文/千春先生と莉緒ちゃん)


「莉緒ちゃん、知り合いからミカン貰ったから食べよっか」
「わあ、いただきますっ」
「はい、どうぞ」
「(ミカンの皮むきむき)」
「………」
「(むきむき)」
「………」
「(むきむき)」
「ぶっ(笑)」
「えっ」
「そんな真顔でミカンの皮真剣にむく子、初めて見たよ」
「え、わあ、千春くんの初めて奪っちゃった」
「うーん、アホ」


***


この2人はほのぼのしか書けない



▼ベタベタ

ソファーに横たわりながらウトウトしてた時、卯月さんの気配を傍に感じた。
降り注ぐ熱視線。床に膝をついて、私の様子を伺っている。そのまま寝たフリを続けていたら、今度は頬に触れられた。
ドキドキしながらも狸寝入りを決め込む私に、卯月さんは気付いていないのか何も言わない。そっと前髪をかきあげられて、露になった額にちゅ、と柔らかなものが触れた。
わあ、と歓喜の声を上げそうになるのを我慢する。こめかみにも触れる吐息に、心拍数はどんどん上がっていく。卯月さんの指先が焦らすように顔の輪郭を辿って、そして顎をクイと持ち上げられた。
この状況でこのシチュエーション、次に何が起きるかなんて考えずともわかってる。衣服が擦れる音がして、唇にそっと唇が重なった。
高鳴る鼓動に心が震えて、胸いっぱいに甘い感情が広がっていく。艶っぽい低音が私の名を囁いた。

「……奈々……、





お前起きてんだろ。」

「……ウホ?」
「ゴリラか」

ばっちりバレてますやん。

「ベタなことしてくれる卯月さん好き!」
「お前は寝たフリが下手。顔がニヤけてたぞ」

呆れたように卯月さんは笑った。どうやら私は女優にはなれそうにない。
卯月さんのお嫁さんになるからいいけどね!


***


王道ネタ
2021年もどうぞよろしく(*´ェ`*)



▼天使ちゃんの嫉妬

約束の週末。天使さんが珍しく不機嫌だった。
どうしたの? って問いかけても何も言わないし、頭を撫で撫でしてもほっぺをプニプニしても反応なし。むーっとした表情を崩さないまま、ついにはそっぽを向いてしまった。

天使さんのツン率が高いのはいつもの事だけど、ここまで頑ななのは珍しい。どうしたものかと迷い始めた頃、遂に天使さんの口が開いた。

「……昨日の飲み会は楽しそうでしたね」

ぽつ、と呟かれた一言は弱々しい。天使さんの顔を覗きこめば、むすっとしながらも瞳はどこか悲しそうで。

「飲み会?」

確かに昨日は飲み会に参加した。頻繁に行われる"専務の為の飲み会"に、天使さんは例の如く参加していない。俺もあの部署の連中と付き合うのが嫌で毎回断っていたけれど、今回は強制的に連行されてしまった。1時間程度でさっさと退散したけれど。

天使さんが参加できない飲み会に、俺だけ参加する事に対しては、いつも後ろめたさがあった。けれど天使さんが不満を漏らしたことは今まで一度もなくて、なのに今回だけ不満を漏らすなんて、妙な違和感がある。何か、あったのかな。
それに、1ミリも楽しんでいない飲み会を「楽しんでいた」と決めつけられていることも、何か引っ掛かる。

「どうしてそう思うの?」

俺が嫌々飲み会に参加していることは、天使さんも気づいているはず。

「……市原さんのインスタのストーリーに、上がってた」
「……あ」

思い出した。市原さん。飲み会の席で割り込むように隣に座ってきて、俺のプライベートなことを根掘り葉掘り聞き出そうとしていた煩い子。適当にあしらってあの場から逃げようとしたけれど、「もう少し一緒にいたい」だのなんだのと絡まれてウザかった。まさかあの時、撮られていたなんて俺は全然知らなかった。しかもインスタに上げてるなんて迷惑すぎる。

……いや、それよりも。天使さんのこの態度は、まさか。

「……妬いたの?」

問い掛けても、天使さんは黙ったまま。でも、僅かに表情を曇らせて、シュンとしてしまった。図星だったらしい。

そうなんだ。妬くのはいつも俺ばかりだと思っていただけに正直嬉しい。ションボリしている天使さんが可愛すぎてめちゃめちゃ抱き締めたい衝動に駆られたけれど、実行に移すのはもう少しだけ我慢。欲を言えば天使さんの口から、「妬いた」って言葉を直接聞きたい。

「……天使さん、市原さんのインスタっていつも見てるの?」
「……みてない」
「どうして今回は見たの? 気になったの?」
「………」

ゆっくりと、優しい口調で話しかける。気が急いて前のめりにならないように、天使さんが話しやすい空気を作ってみたつもり。そんな気遣いが功を成したのか、天使さんの手が恐る恐る、俺の服をチョイ……と引っ張った。天使さんがデレる時の癖。

「……私の」
「うん」
「私の、知らないところで……他の女の人と仲良くしないで」
「………」
「ありさはいいけど、他の子は……嫌です」

胸の内を吐露した天使さんの言葉は、俺が聞きたいと思っていた言葉以上の破壊力を持っていた。

感情を表に出すことが苦手な天使さんは、同性への嫉妬を口にすることもほとんどない。こんなにあからさまな嫉妬なんて、1年に2回程度しか見られないのではないだろうか。

俺が意図的に仲良くしてたわけじゃないって、さすがに天使さんもわかってるはずだ。飲み会の場でも他の子と仲良くするななんて、天使さんはそんな非常識なことを言う人じゃない。それでも内心は面白くないんだよって、滅多に明かさない胸の内を素直に晒してくれたのが嬉しかったから。

「ごめんね。今度から気を付けるね」

素直に謝れば、天使さんはゆっくりと顔を上げた。切なそうに揺れる瞳に、軽くキスを送る。

胸に沸き起こる衝動にはもう逆らわない。これ以上天使さんが嫉妬で不安にならないように、今日はたっぷり甘やかせてあげないと、ね。


***


エロを書く予定が、結局ほのぼので終わってしまった件


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