俺以外立入禁止!入ったら殺す。

大小バラバラの統一性のない文字で乱暴に書き殴られた貼り紙は、その部屋の主の性格をいかにも彷彿とさせる。中学生にもなって何やってんだか……って違う、中学生だもんね。まだまだ子供か、って言ってもわたし自身まだ高校生な訳でれっきとした子供なんだけれども。少し年が離れているだけでこんなにも価値観が違うように感じてしまうのは本当に嫌になる。おかしいなあ…わたしもまだ若いはずなんだけどな。
あ、そんなことよりも。意識を新たに持ち直し、コンコンと例の扉を手の甲でいくら叩いてみても赤い塗料で塗られた木の扉から返ってくるのはわざとらしい沈黙ばかり。ああもう、全くもってめんどくさい子だ。

「ねえ晴矢」
「…」
「そろそろ機嫌治して出てきたら?わたし、晴矢の為においしいプリン買って来たんだけど」
「…」
「出て来ないんなら風介に全部あげちゃうよ」
「!」

嫌ならはやく出て来なよ。
本日何度目か数知れない催促の言葉は相変わらず堅い沈黙によって跳ね退けられた。
すぐに拗ねるのはいつものことだけど、ここまで頑なになるのは珍しい。朝ご飯に晴矢の嫌いなピーマン大量に入れたのそんなに腹立ったのかな…。それにしても晴矢ってば何をそんなに拗ねてんの?

「晴矢」
「…」
「こうなったら勝手に入っちゃうぞーわたし」
「…」
「お邪魔しまーす」

ガチャリ。硬いはずのドアノブは案外あっさりと柔らかく回転し、なんとも呆気なく扉は開いた。あれ、鍵開いてるんじゃん……ってもしかして掛け忘れたのかなあ、鍵。全くもってドジな奴め。まあわたし自身人のこと言えないんだけどね。
ふわふわ踏み心地のいいカーペットにはところどころページが折れ曲がった漫画や筆箱の中身、それからありとあらゆる物が散乱しているせいでなんだか台なしになっている。整理整頓という文字と掛け離れた晴矢らしい部屋である。少しは風介やヒロトくんを見習って欲しいものだけれど、いかんせんこの子は素直に見習うような性格じゃない。まあ結果として今みたいな部屋になる訳なんだけどね。………ああいけない、また話が横道にずれちゃった。


「晴矢、」

物が溢れ返る部屋の中、唯一何も積み上げられていないベッドの上。団子みたいに膨れ上がった布団の中にどうやら晴矢は隠れている模様だ。どうしよう…めちゃめちゃかわいいんですけど。何だろうこのかわいい生き物。とかわたしが不謹慎なことを考えていると、布団から警戒した犬が唸るような声音で晴矢が言った。

「、出てけよ」
「それは嫌かな」
「……」
「そうゆう晴矢こそはやく出て来てよ」
「無理」
「何で?」
「……………何でって。いちいち干渉してくんなよ。そうゆう姉貴面まじでうぜえ」

かわいくない奴だ。あからさまな拒絶の言葉に思わず片眉が持ち上がったけれど、わたしはそんな不満を口には出さなかった。今の言葉が本心じゃないってことくらい、生まれてこの方ずっと一緒に生活してきたわたしには手に取るようにわかるからである。

「とうっ」
「っ、なっ!」

だんご虫状態の晴矢から、張り付いたガムテープを剥がすみたいに布団を奪い取ると、晴矢から小さな悲鳴が上がった。動揺して大きく見開かれた目の真ん中で、真っ赤な晴矢の瞳が揺れている。ほんとうに炎みたい。そんなことを頭の隅で考えながら、晴矢の無防備で少し日に焼けた首におもいっきり腕を回してやる。「ぎゃあ!」また上がった悲鳴にざまあみろと心の中で悪態を付くわたしは相当意地が悪い。たぶんヒロトくんには負けるけど。

「な、にすんだよ!」
「だって晴矢がうざいとかゆうから」
「っだだだだからって抱き着くな!きもい!うざい!放せ!」
「嫌です〜。これもコミュニケーションの一環だよ一環」

精一杯の罵声をわたしにぶつけながら晴矢はじたばたもがいている。でも押し退けようと必死に伸ばされた腕に全力は篭められていない。そりゃそうか、だって顔も腕も茹蛸みたいに真っ赤だもんね。かわいいなあ。

「そろそろ拗ねてる理由教えてもらおうかなあ」
「っ!」

ぎゅうっと腕に力を篭めて一層近くなった晴矢の赤い耳たぶに囁けば、晴矢は相変わらずあまり力の篭もっていない手足をばたつかせながら「黙れブス!」と叫んだ。
ふうん。この状況でまだわたしにそんな生意気な口を叩けるなんて…いい度胸じゃない。



(鳴かぬなら、)

鳴かせてやろうじゃないか。

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