「お姫様抱っこかおんぶ、どっちがいい?」

どっちも嫌だ。本当なら迷わずこう言いたいのだが、慣れないパンプスを履いたせいで赤く腫れた右足の踝が目をちらついてしまい断念するを得ない。
う〜ん………。わたしが頭を捻っていかにも間抜けな声を上げると、痺れを切らした鬼道は「早くしろ」と怒った。べつに怒らなくてもいいじゃんか。そんなわたしの不満を表情で読み取ったらしい鬼道はすかさず「もういい、置いていく」と無情にも元来た道へと踵を帰そうとする。ひらり。マントがなんとも優雅に翻ってはわたしを見下した。えええええ。さすがに親友に対してそれはないんじゃないの?いや訂正、…………親友ってのはちょっとばかしオーバーだったかもしれない。「ちょ、待ってよ!」それにしたって酷い。慌てて去ろうとする手のひらを掴めば、鬼道の身体が反動で大きく揺れた。ごめん。でも置いてきぼりは嫌だ。わたしがかなり強引に縋り付くと、一人で帰るのを諦めてくれたようだ。鬼道は、元居たベンチのわたしの隣へと戻ってきた。

「冗談だ。………泣くな」

泣いてないよ、ちょっと焦っただけだもん。心の中で呟いて鬼道の顔を覗いたら、びっくりした。頬っぺたがちょっと赤かったからである。不覚にもきゅんとしてしまうじゃあないか。半分照れ隠しで地面に視線を落とすと、鬼道が足が痛むのかと心配そうに尋ねてきた為に慌てて弁解する。ちっちがうよ!めちゃめちゃ元気だよ〜!あはは!なんてゆう風に無理に立ち上がろうとしたせいで負傷済みの踝に本日何度目かも知らない激痛が走ってしまった。「い、ったい!」「馬鹿!無理に立つな」あああああ墓穴。

「だから初めから俺を頼れば済む話だろう」
「、いやでもそれはちょっと恥ずかしいってゆうかその」
「そんなに俺に抱えられてるのを見られるのが嫌か」
「違う、そうじゃなくて!………鬼道だってわたしなんかを抱えてるとこ誰かに見られるの嫌でしょ?」
「何故だ」
「なんでって…、もももしわたしと付き合ってるみたいな噂立てられたら迷惑でしょ!」

3秒間。固まったかと思えばすぐにゆるりと持ち上がる鬼道の口の端。「むしろ好都合だが」と言って笑う鬼道、なんか鬼畜っぽい顔で嫌だ。と、か…………言ってる場合じゃないよね。これってまさか、嘘でしょ。うん、多分夢なんだこれは。
試しに頬っぺたを片手で抓ってみたら普通に痛かった。いやいやしかしまさかそんな。聞き間違いかもしれないのでもう一回なんて言ったのか聞いてみようとわたしが口を開けたのより先に鬼道の唇が動いた。

「そんなことより、」

そして冒頭に戻る訳です。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -