けたたましいくらいの笑い声は青空によく似合う。ざあざあ流れる噴水の音だってはしゃぎ回る子供達にかかれば意図も簡単に掻き消されてしまうのだ。平和ってこういうのを言うんだろうか、なんてつい何となく考える。「フィディオったら、人の話ぜんぜん聞いてないでしょう」出来立てでまだほのかに湯気立つカルボナーラの束をフォークに巻き付けて彼女は不満を口にした。ぱくん。しかしそれを口に閉じ込めた途端に幸せな表情を浮かべる彼女は相変わらず随分単純な子だなぁと思う。そんなこと死んでも言えないだろうけれど。

「大好きなマルコの作るパスタは、さぞ美味しいんだろうね」

俺がにやにやと悪戯心いっぱいに毒付くと、彼女は顔を真っ赤にさせて声が大きいよ!と反論した。あ、今の顔…まるで隣の席のテーブルに並んでるナポリタンの赤に似てる。マルコが見たらどんな顔するんだろうか。日だまりみたいにはにかんで惚けてみせるのか、それとも彼女みたいに顔を赤くさせて驚くのか。どっちにしたって俺はちっとも美味しくないけどね。だって俺は、この子が、





マルコがね、マルコは、マルコと、マルコの、
彼女が口を開けばまるで名前の大量生産機みたいにぽんぽんマルコが飛び出してくる。俺はそれに相槌を打っては微笑む。すると彼女はうれしそうに春さながらの笑顔を頬いっぱいに携えるのだ。やっぱり…好きだなあ。かわいいなあ。本当はその柔らかく纏う空気ごと抱きしめてやりたいけれど、そんなこと出来ない。いや、してはいけないと言った方が正しいのかもしれない。
ここまでの経過を知ってもらえれば言わずもがな伝わっていることだろうけれど、俺のクラスメイトで友達である彼女はマルコに恋している。そしてさながらいつも俺は彼女の恋愛相談係だ。なんて、相談係と言っても俺自身まともな恋愛をしたことがない訳で大したアドバイスなんか出来ないんだけど。それでも、彼女は俺に話を聞いて欲しいと言う。「どうしたらいいと思う?」答を教えてと言わんばかりの不安を浮かべて、まんまるな瞳をふたつ俺に向けて言う。そして俺はお決まりの台詞を返すのだ。「君のしたいようにすればいいよ」本当はちっともそんなこと思っていない癖に、ね。
彼女はとても正直な女の子だ。好きなものも嫌いなものもすぐに表情に出るから考えていることなんて忽ちわかってしまうし、無自覚とはいえ実際に口をついて出る失言が多々ある。いつだって彼女はまっすぐだった。そんな彼女を好きになった俺。比べてみても一目瞭然で、俺も随分捻くれ者になってしまったものだ。「いつもわたしの話ばっか聞いてもらってごめんね」そんな折、彼女は突然謝罪の言葉を口にした。一体どうしたものかと目を見張っているとすぐに雪解けのようなふわりとした笑顔が忽ち俺の空気に花を咲かせる。「わたし、そうゆうフィディオのお人よしなところ本当に好きだよ」「これからもずっと友達でいてね」ありがとう。俺もだよ。そんな笑顔で言われたらそう返すしか余地はないではないか。毎度ながら彼女はとても酷な性分をしている。…ごめんね。友達と思っているのはきっとずっとこれからも君だけなんだよ。
もし、今、これからも友達でいることを嫌だと俺が答えたら。本当はマルコと君の仲を応援してるのなんて初めから嘘だって俺が言ったなら。君は泣くのでしょうか。


You who are tender will cry.

だから、俺は。



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