※2期設定

電気を消して、みんなに倣っていざ布団に包まってみたものの睡魔という奴はなかなかわたしを襲う気配がない。こんなに待ってるってゆうのに。
ため息といっしょに隣を見ると、塔子ちゃんが既に気持ち良さそうにすうすう寝息を立てている。なっちゃんも秋ちゃんも居るのに、リカちゃんの姿だけが見当たらないのは、就寝前になると決まって1人だけキャラバンに潜り込んでは一之瀬くんの隣を毎晩キープしているからである。男の子だらけの中でよく毎日眠れるものだなあと思ったわたしが疑問そのままに聞いてみたこともあるんだけど、返ってきたのは「だってダーリンの隣やもん、寝られへん訳ないやんか!」だった。えええ。ふつうだったら逆なような気がするんだけどな…。さすがリカちゃん。
このまま目が冴えきった状態で布団の中に居ても埒が明かない気がして、わたしは外へと飛び出した。夜風に当たれば余計目が冴えるかもしれないけど、何もしないよりはずうっとマシだもんね。







「ん、何だ…お前も眠れないのか?」

キャラバンが停まっている近くをぶらぶら一人歩いていると、街灯の下で湖を囲っている白い柵を背もたれにして何やら楽しそうに話している風丸くんと円堂くんに遭遇した。
「こんな時間に女の子1人で散歩なんて危ないぞ」風丸くんのもっともな説教にうっ…と言葉が詰まる。わたしが隣に居る円堂くんに慌てて視線でSOSを送ると、円堂くんはちょっと困り顔をしてからいつもの優しい微笑みを浮かべた。「まあまあ。いーじゃん風丸、こうして無事だったんだしさ。それよりお前もいっしょにここで話そうぜ!」だけどすかさず円堂くんが宥めてくれたことにより風丸くんの説教は短いうちに収まった。さすが我らがキャプテン、もといわたしの幼なじみである。「まあ…そうなんだけどさ。全く、円堂は昔からこいつに甘すぎるぞ」風丸くんははあっと息を吐き出すと仕方ないと言わんばかりの動作で頭を振った。こんなこと、言ったら余計怒られそうだから絶対に言わないんだけど。風丸くんってほんとうにお母さんみたい。絶対言えないけど。

「何、話してたの?」
「うーん…そうだなぁ」
「、学校のこととか家族や友達のこと、まあ引っくるめて言えばエイリア学園のこと、なんだけどな」
「そっ…か」

2人が話してたことや考えてたことが、一瞬で把握出来てしまった。"心配しなくても大丈夫""円堂くんや風丸くん、みんななら絶対あんな奴らなんかに負ける訳ないよ"そうやって励ましたいのに、支えたいのに、些細な言葉でもいいから伝えたいのに。気持ちはいつまで経っても言葉が喉に突っかえたまんま形になってくれなかった。代わりに言い難いような冷たい張り詰めた空間が、わたしの吐き出した息から空気へと伝わったみたいに静かに漂っている。嫌だ。わたしのせいで余計に2人を落ち込ませちゃうじゃん。何やってんのよ、わたし。
軽く泣きそうになったわたしが、このままじゃダメだと涙腺が壊れないようにと気を引き締め直したのと同時くらいに、

「、ぷっ!」
「あはははっ」

今の今まで暗い雰囲気だったはずの2人がまるで気狂いなピエロみたいにいきなり笑い出したのである。
事態を把握出来ないわたしがいかにもぽかんと間抜け顔を肌寒い夜風が吹き付ける中晒していると、風丸くんはほんとうに可笑そうに眉を下げて口元を手の甲で覆いながらも先に口を開いた。

「ごめんごめん、ちょっとからかったんだよ。あんまり真剣な顔で悩むから」
「俺はからかうつもりなかったんだけど。何か黙ってたら、お前いきなり泣きそうな顔するもんだからおかしくってさ」
「ひどい!」

意のまま隣で憤慨しているわたしに、円堂くんがあまりにも必死な顔と力強い声で何度もごめんを言うものだからとうとうわたしは口篭るしかなくなってしまった。わたしってば、ほんとうに円堂くんに弱いんだから。自分ながらに恥ずかしくなる。
きっと、惚れた弱みって奴なんだろうなあ…。

「俺たちがそんな弱気になるはずないだろ」
「そうそう、風丸の言う通りだ。それに、俺にはじいちゃんがついてるからな!どんな相手だって絶対負けない!」
「そっか…。じゃあ完全にわたしの心配損だね」
「………なあ、それよりさ。ちょっと見てみろよ。そこの湖」

ぴんと伸ばされた風丸くんの指の先へと視線を転じてみると、月明かりに照らされて青白く光る軸の細い柵の向こうには果てがないみたいに大きな湖が広がっていて。群青色の水面には夜空に散らばるたくさんの星が、合わせ鏡のように夢みたいな情景を映している。「すっ……げえ!」「き、きれい…!」まるで空がふたつあるみたいだな。そう言って笑う風丸くんに答えるように、わたしと円堂くんは大きく頷いた。ほんとうに綺麗の一言しか浮かばない。けれど。ロマンチックだなあ、というわたしの感動はすぐさま地鳴りみたいな円堂くんのお腹の音に掻き消されてしまった。ああ台なし……。

「わ、わりいわりい…。何かいっぱい笑ったら腹減っちゃってさ!」
「円堂くんってば相変わらずなんだから…」
「はは、それでこそ円堂だよな」

わたし達は学校のことも家族のこともこれから起こる必ずしも過酷になるであろう試合のことも、未来のことも。ぜんぶ忘れたみたいに笑い合った。こんな毎日がずっと続けばいいのに。それって、ありえない願いなのかな。結局のところ平和って叶わないのかな。
でも今は…今だけは。知らないフリをしていたいの。壊れてしまった学校のこと。傷付けられて怪我をした友達のこと。エイリア学園のこと。円堂くんがほんとうに心から想っているあの子のこと。そんな円堂くんを見つめるわたしに、決まって向ける風丸くんの愛おしむような悲しい眼差し。
ぜんぶ。ぜんぶ。知らないでいたい。
だけどね、何でもないしあわせな毎日が続けばいい。この願いさえ叶えてくれればわたしはもう何も要らないんだよ、神様。


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